J2の主役を演じる札幌 躍進の礎は3年前に築かれた
コーチ陣の飛びぬけたスカウティング力
スカウティングコーチとしての実績が高い四方田監督(左)と沖田コーチ。細心の戦略でハナの差勝利を重ねている 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】
今季のJ2は松本山雅FCの反町康治監督、清水の小林伸二監督、モンテディオ山形の石崎信弘監督、C大阪の大熊清監督、V・ファーレン長崎の高木琢也監督、ギラヴァンツ北九州の柱谷幸一監督、ジェフ千葉の関塚隆監督といったようにJ1昇格経験を持つ百戦錬磨の指揮官たちがズラリと顔をそろえる。それに対して札幌はシーズンを通してトップチームを指揮するのは初めてとなる四方田監督とそれを支える沖田コーチ。どちらもプロ選手としてのキャリアはない。
ただしこの2人、スカウティングコーチとしての実績は飛びぬけている。四方田監督は1998年のフランスワールドカップに出場した岡田武史監督率いる日本代表チームの分析担当としてアルゼンチン代表FWガブリエル・バティストゥータやクロアチア代表FWダボール・シュケルらのプレーを追い続け、チームに貢献した。
沖田コーチは大宮アルディージャ時代から三浦監督の参謀役としてスカウティングを担い、大宮のJ1残留、札幌の2度の昇格に貢献。その分析力を買われて13年にはACL(AFCチャンピオンズリーグ)に初出場したベガルタ仙台の分析担当に就任し、アジアを飛び回った。
江蘇蘇寧(中国)を分析した際には直近のACLだけでなく、敢えてリーグ戦のホームゲームも偵察し、「スタンドに観衆が多い試合では、声援に押されて攻撃が縦に速くなる」というゲームニュアンスの違いまでも見抜いている。今季序盤のある試合では「相手のDFラインでのボールの動かし方が直近の数試合とはちょっと違っていて戸惑ったけれど、すぐに修正して対応できた」と細部に細心の注意を払っていることをあらためて感じさせた。彼らを中心としたコーチングスタッフは常に相手の特徴のみならず細部まで把握し、それらを発揮させない細心の戦略でハナの差勝利を重ねることに成功している。
1%でも勝つ可能性を高める姿勢
「直ちに、というわけではありませんが、さまざまなデータを得られるので必ず効果を発揮すると思います」と大塚俊介フィジカルコーチは期待を込める。カタパルト社の担当者で、かつては自身もウェスタン・シドニー・ワンダラーズでトレーニングスタッフを務めていたキーラン・ハウル氏は「予算規模が大きいながらも機材導入をしていないJクラブが多いなかで、札幌の積極的な姿勢は非常に素晴らしいと感じます。さまざまな分野で日本をリードする先鋭的なクラブになると私は予想していますよ」と新たなクライアントを称える。レスター・シティ(イングランド)の躍進も支えた同機材が、J2制覇を支える可能性も大いにある。
「1%でも勝つ可能性を高められるのであれば、何でもやっていきたい」と四方田監督は日々、口にする。過去の歴史では試合終了間際の失点で引き分けたり、負けたりすることの多かった札幌が、今季は紙一重のところで勝点3をつかみ取っている。その背景には、ホンの少しでも勝つ確率を高めようと力を出し切るチーム、さらにはクラブとしてのスタンスが表れているように感じる。本稿で触れることのできていない箇所はまだいくつもあるが、またの機会に譲りたい。