日本男子バレーに必要な本気の改革 露呈した層の薄さ、対応力不足
W杯はパーフェクトだった
リオ五輪出場を逃した全日本男子。OQTでは模索しながらの戦いが続いた 【坂本清】
バレーボール五輪最終予選(OQT)の開幕を間近に控えた2週間前は、明るい表情で皆がそう、口をそろえた。
9カ月前のワールドカップ(W杯)では、武器とすべきサーブが走り、そこから日本の勝ちパターンが生まれ、同大会で20年ぶりとなる5勝をマーク。加えて、割り切ったディフェンスシステムや、清水邦広、石川祐希、柳田将洋を中心とした攻撃。いい面が出れば、ポーランドやロシアなど格上のチームとも互角に戦える。なかなか勝てずにいた時期が長かったせいか、その手応えが得られたことは、チームにとって成績以上の自信をもたらした。
だが一方で、ある選手は言う。
「W杯はパーフェクトだったんです。すべてがうまくいった試合ばかりだったから、もしもダメな時がOQTで出たらどうするんだろうという不安はありました。いい時が良すぎたから、悪かった時、崩れた時にどれだけの戦いができるんだろうなって」
予感は的中した。
五輪への可能性がついえた6月2日のオーストラリア戦の直後、深津英臣はタオルで口元を覆いながら、小さな声で、言葉を絞り出した。
「これがOQTなのか、今ひとつ乗り切れないチームだからなのか。理由は分かりません。でも、ダメでした」
ここ、という勝負どころで波に乗れない。何かが違う、じゃあ何が違うんだ。模索しながらの戦いは混迷を極めた。
「日本の対策」は対策されていた
中国はW杯での戦いから、「日本の対策」の対策を練ってきた 【坂本清】
たとえば、初黒星を喫した5月29日の中国戦。警戒すべき最重要ポイントはミドルブロッカーのBクイックであり、ライト側でブロックに跳ぶ清水が初めからやや中央に寄り、Bクイックに対するマークを厚くする。それが事前の対策だった。
だが中国も、当然ながらW杯での日本の戦いぶりを見て対策を練ってくる。ブロッカーが寄っていることを確認すると、セッターは前日のフランス戦で高い決定率、効果率を残したミドルではなく、清水が中央に寄ることでスパイクコースが空いたレフト側からの攻撃を多用した。
日本にとっては予想外とも言える中国の攻撃パターンに、少なからず動揺があった、とミドルブロッカーの富松崇彰は言う。
「このローテでは、70%以上クイックというところでAパスが返っても使ってこない。『あれ、何でだ』と思ううちにサイドから決められる。そこで割り切ればよかったんですけれど、割り切れなかった。全部が後手後手でした」
そしてこの敗戦が、結果的にチームにとって大きなダメージだったとも富松は言う。
「ひとつの山だと思っていた中国戦で一気に崩されて、相手の思い通りにやられて、力を出せずに終わった。勢いに乗るきっかけをつかみ損ねた。結局、それが最後まで響きました」
相手の術中にはまるも、具体的な改善策がない
サーブでは徹底して石川(11番)を狙われた。対策をしても、世界の強豪はあっさりとその上をいく 【坂本清】
W杯で得点源として活躍した清水、石川、柳田。この3選手を自由に攻撃させないよう、サーブやブロック、レシーバーを入れる位置などいくつもの布石を打つ。
特に、初日のベネズエラ戦からサーブで徹底して狙われたのが石川だ。
しかもそれはただ強烈なサーブを見舞うだけでなく、レセプション(サーブレシーブ)後の攻撃に入るための助走コースを狙って前に落とすものに加え、柳田と並んでレセプションに入るS2、S4、S5ローテでは2人の間を徹底して狙われた。石川自身も「自分が狙われるのは想定通りだし、仕方ないと思っている」とは言うものの、レセプションが乱れれば「サーブで挽回しよう」と力が入り、同じコースへのアウトが続く。それでもベンチからは「リベロを外して得意なコースへ打て」と言われるだけで、具体的な改善策が出されるわけではない。
サーブで得点が取れない分をスパイクで取り戻そうとするも、レセプションで狙われ、攻撃に入る体勢も十分でない中で攻め急ぎ、相手のブロックに正面からぶつかる。日本にとっては負の連鎖が続き、対戦国からすれば狙い通りの展開に持ち込まれた。
石川の負担を少しでも軽減させようと、リベロの永野健がレセプション時に後衛中央に入るS1、S3、S6ローテでは、相手のサーバーが打つ直前に永野が石川の守るエリアに寄り、自身の守備範囲を広げた。
だが、そうなれば相手は反対側のゾーンを狙い、裏をかかれた結果、カバーし切れずサーブポイントを取られる。永野とともに広い範囲でレセプションを担った米山裕太が入った1日のイラン戦も、石川の守るエリアをかなり狭めていたものの、相手のミルサイード・マルーフラクラニ主将はそのわずかなエリアをピンポイントで攻め、石川のバックアタックを封じた。
直接相手にサーブポイントを献上したわけではない。だが、石川が攻撃に入ることができず、日本の攻撃枚数が減り、清水に本数が偏れば、そこにブロックが待っている。日本も対策を練って臨みはしたが、ポーランド、フランス、イランといった世界トップの強豪たちは、あっさりとさらにその上をいく。
なすすべがなかった。