日本男子バレーに必要な本気の改革 露呈した層の薄さ、対応力不足

田中夕子

特定の選手に依存し、脆さを露呈

マークが厳しくなっても、日本のオポジットは常に清水。選手層の薄さは五輪出場国との決定的な差だった 【坂本清】

 そしてもう1つ、五輪出場権を獲得した国々に限らず、他の出場国と決定的な差として露呈したのは選手層の薄さだ。オーストラリア戦の前日、清水は「(エースで主将のトーマス・)エドガーにボールが集まるので、エドガーを封じたい」と話していたが、今大会の開幕戦でスタートから出場したのは左利きのオポジット、ポール・キャロル。日本との対戦時も、3セット目にエドガーがレフトから攻撃するS1ローテで日本のブロックが効果的にワンタッチを取って連続得点すると、ロベルト・サンティーリ監督はすかさずエドガーに代えてキャロルを送り込んだ。

 最終予選に臨むチームの多くに中心選手は存在する。だが決してそこだけに依存するわけではなく、調子が悪いと見ればすぐ他の選手に切り替え、また別の個性を生かしながらも、チームとしての戦い方のベースは変わらない。1人を潰してもまた次の選手が出てきて、それぞれが役割を果たす。オーストラリアだけでなく、大黒柱のオポジットのアミル・ガフールをスパッと代えたイランや、W杯ではケガ人が相次いだが今大会に照準を合わせ多彩な選手起用で24年ぶりの五輪出場を決めたカナダ。みな、9日間で7試合という強行日程に耐えうる力を持ち合わせていた。

 対して日本はどうか。清水へのマークが厳しくなり被ブロックの数が増えても、南部正司監督は「よほどのことがない限り、変えずにいこうと思っていた」と言うように、常に日本のオポジットは清水。タイプの違う攻撃で変化を加えるはずの栗山雅史の出番は、2枚替えやワンポイントに限られた。

身につけたいのは組織としての戦い方

 加えて、南部監督が課題として掲げたミドルブロッカーの攻撃力向上という面では、富松に加え、出耒田敬が高さを生かしたスパイクで得点するシーンも多く見られたが、V・プレミアリーグでは活躍した傳田亮太や昨秋のW杯にも出場した山内晶大、最終予選のメンバーに選出した4人のミドルブロッカーの持ち味を適材適所で生かし切れたかと言えば、決してそうではない。

 ミドルを4人選べば、ウイングスパイカーの数は1枚削られる。イラン戦で負傷した柳田、オーストラリア戦で負傷した石川が足をかばいながらプレーしているにもかかわらず、試合に出し続けなければならなかったことも、特定の選手に依存し過ぎたことによって、肝心な時に別の選手を送り出せない。そんな脆さを露呈させた結果でもあった。

 覚悟を持ってこの場に立ち、たとえ勝っても五輪出場には届かない厳しい状況の中、最後まで戦い抜いた選手たちを責める理由はない。だが、だからこそ、もっと組織としての戦い方を身につけられていたら――。

 オーストラリア戦で敗れ、五輪出場が途絶えた後、清水が言った。

「また同じ過ちを繰り返してしまった。悔やんでも、悔やみきれない結果になりました」

 その言葉が、また別の意味を持って響いた。

変革の時は、今しかない

米山は「根本的な問題は解決できていない」と語った。変革の時は、今しかない 【坂本清】

 2010年の世界選手権での予選敗退後、シニア代表監督にジュリオ・ベラスコ氏(現アルゼンチン代表監督)を就任させ、さらに長期的視野を持ちシニアだけでなくジュニア代表にも海外から監督を招へいしたイランは着実に力をつけ、アジアナンバーワンのチームへと成長を遂げた。14年の世界選手権でも6位と躍進を遂げたが、昨秋のW杯では8位。その結果を受けて昨年11月、かつてポーランド代表を率いたラウル・ロサノ氏が新監督に就任。4月にチームへ合流後、わずか2か月という限られた時間で、ブロックとレシーブのトータルディフェンスのシステムを構築させ、悲願の五輪初出場を果たした。

 日本でも、イランが取り組んできたように、本気の改革がなされるべきではないのか。

 W杯で見せた、攻めの姿勢を前面に打ち出し戦う姿勢に多くの人々が「日本の男子バレーが面白い」とワクワクし、「何かが変わるのではないか」と期待を抱いた。だが、そこから何かが上積みされるわけではなく、結果、五輪出場を逃がした。

 4年後につながる戦いをしよう、この悔しさは東京で晴らそう、と片づけるのはあまりに安易で、ここまで必死で歩んできた現場の選手やスタッフが、あまりにも報われない。

 北京五輪の翌年から全日本でプレーしてきた米山が言った。

「リオに向けてやってきて、そこで結果が出せなかったことは、僕たちに100%の責任があります。でも、根本的な問題は解決できていない。大きくて動ける選手を探すことも大切だけど、今いる選手でどう勝つか、それを真剣に考えないと東京オリンピックに向けても、厳しいと思う。若い選手も出てきたし、現場と、強化と、ミックスして進めていければ、必ず道は開けると思うんです」

 同じ轍(てつ)を踏まぬためにも。変革の時は、今しかない。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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