スペインフットボールが示す他にない強さ 偶然ではない2つの大会で収めた好成績

黄金期を謳歌するアトレティコ・マドリー

2シーズンぶりとなるCL決勝進出を決め、リーガでも優勝争いを繰り広げるアトレティコ・マドリーはクラブ史上最高の黄金期を迎えている 【写真:ロイター/アフロ】

 ヨーロッパを舞台とする2つのコンペティション(UEFAチャンピオンズリーグ、UEFAヨーロッパリーグ)の準決勝にスペイン勢が2チームずつ勝ち残り、うち3チームが決勝へと勝ち進んだ。これは偶然の出来事とは思えない。

 他の主要リーグと比べて最も潤沢な資金を擁しているわけでも、その資金が各クラブに公平に分配されているわけでもない。それでも、リーガ・エスパニョーラの各クラブがヨーロッパのコンペティションを席巻している現状は、この国のフットボールが今も生きていることを示す疑いなき証拠だと言える。

 UEFAチャンピオンズリーグ(CL)ではまずアトレティコ・マドリーが2年前と同様に準々決勝でバルセロナを破り、準決勝で優勝候補のバイエルン・ミュンヘンを退けて2シーズンぶりの決勝進出を果たした。

 成長著しいMFサウル・ニゲスが巧みな切り返しで3人のDFを置き去りにした後、マヌエル・ノイアーも届かぬファーポストぎりぎりに流し込んだゴールにより1−0で試合を制したバイエルンとのファーストレグは、特に後半を通して奇妙な印象が残った。バイエルンがピッチの大部分を支配し続けたにもかかわらず、よりゴールに近いと感じさせていたのは押し込まれていたアトレティコ・マドリーの方だったからだ。フェルナンド・トーレスが全盛期を彷彿(ほうふつ)とさせる突破からゴールポストをたたくシュートを放った75分の決定機は、その象徴たるシーンだ。

 バイエルンはユベントスとの決勝トーナメント1回戦セカンドレグ(4−2)で、2点のビハインドを覆したチームである。アトレティコ・マドリーとのセカンドレグでもアントワーヌ・グリースマンのゴールが決まった時点で2ゴールが必要になる窮地に立たされながら、90分間攻撃の手を休めることはなかった。それでもディエゴ・シメオネ監督が世界最高レベルの組織力を誇る戦闘集団に鍛え上げ、クラブ史上最高の黄金期を謳歌(おうか)しているアトレティコ・マドリーの守備陣が崩壊することは最後までなかった。

 CLでの躍進と平行し、アトレティコ・マドリーは残り2節となったリーガでもバルセロナと一歩も譲らぬ優勝争いを繰り広げている。それは両者の資金力の差を考慮すれば、大いに評価すべきことである。

無冠に終わると思われていたレアル・マドリーだが……

今季は無冠が濃厚と見られていたレアル・マドリー。CL決勝進出を決めるなどチーム状態が大きく改善 【Getty Images】

 アトレティコ・マドリーだけではない。今季は無冠に終わることが濃厚と見られていたレアル・マドリーもまた、マヌエル・ペジェグリーニ監督率いるマンチェスター・シティとの準決勝を制して、2シーズンぶりにCL決勝へと勝ち進んだ。

 現在のレアル・マドリーは11冠目を狙うCLだけでなく、一時は優勝争いから脱落したと思われていたリーガでも、相次ぐ主力選手の離脱に見舞われながらも粘り強く勝利を重ねてきた。バルセロナも敗れたアウェーのレアル・ソシエダ戦ではクリスティアーノ・ロナウドとカリム・ベンゼマをそろって欠く中、ギャレス・ベイルのパワフルなヘディングシュートによって勝ち点3を持ち帰ることに成功している。

 勝ち点差はわずか1ポイントながら、レアル・マドリーは直接対決の成績でバルセロナ、アトレティコ・マドリーの双方に劣っている。実質的には勝ち点2差をつけられていることになるため、残り2試合での逆転優勝が難しい状況に変わりはない。

 それでもジネディーヌ・ジダンが監督に就任して以降、チーム状態が大きく改善されてきたことは確かだ。ジダンは選手たちを混乱させぬよう、戦術的な要求は必要最小限に抑え、シンプルなメッセージを伝えることで選手たちの自信を回復させた。ファンの人気が高いイスコやハメス・ロドリゲスを先発から外し、カゼミロを中盤の底に据えたのも正解だった。

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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