メダル獲得へ、シンクロ日本が挑む壁 井村コーチが選手に求める“厳しさ”
技術の完成度は25パーセントくらい
優勝を果たした日本代表チーム。しかし演技の内容には課題が残った 【奥井隆史】
その一方、不安ものぞかせた。とりわけ難易度を上げたチームの演技では、技術の完成度を競うテクニカルルーティン(TR)でも、芸術性や表現力を競うフリールーティン(FR)でも、脚技のバラつきやリフトのミスが見受けられた。3月の五輪最終予選後に内容を変更したこともあって、練習時間の少なさが原因のようだが、井村雅代ヘッドコーチ(HC)も「もう少しキレた演技をやってほしかった」と、不満げだった。
この時期に難易度を上げたのは、リオ五輪に向けてさらなるレベルアップを図ってのことだ。五輪最終予選ではメダルを争うウクライナの後塵を拝し2位。昨夏の世界選手権で優勝したロシアと2位の中国が不出場とあって、日本としてはトップ通過を果たしたいところだったが、それはかなわなかった。採点競技であるがゆえに、一度でも敗れるとその印象を覆すのは難しい。その意味でも、今大会で新たなマーメイドジャパン(シンクロ日本代表の愛称)を印象付けたかったが、そこまでには至らなかった。
「技術の完成度は25パーセントくらいです。振り付けをこなしただけ。ただ確信を持ったのは、彼女たちは練習どおりの力は出してくれるんだなということ。世界選手権、五輪最終予選、そして今大会と見てそう思いました。練習でできていないことを本番で望むのは彼女たちには無理。だから練習でちゃんと仕上げたらいいんだと。練習でできても本番ではできない選手もいますけど、彼女たちにそれはない。そういう意味では信頼しています」
井村HCは厳しい評価を下しつつ、同時に手応えも語った。
3位を目指していたら3位は取れない
「あくまで遠くを目指す」と語る井村雅代HC(左) 【奥井隆史】
「皆さんはウクライナのことを言いますけど、3位を目指していたら3位は取れない、むしろ5位くらいになってしまう。もっと上を見ないとダメなんです。2004年のアテネ五輪は金メダルを取りに行って挑戦し、その残念賞が銀メダルなんですね。だから私はロシアの演技を目指しています」
実現可能な目標を立てるのは悪いことではない。しかし、最初から近いところを目指すぶん劇的な成長は期待できない。12年のロンドン五輪で日本は5位に終わった。同大会で銀メダルを獲得した中国が不出場だった13年の世界選手権では、五輪4位のカナダに勝つことを目標に掲げた。しかし、カナダこそ破ったものの、今度はウクライナの後塵を拝し結局4位。中国がいなかったことを考えれば、実質5位である。
「人間は近くを見ていたら、遠くで頑張っている人を忘れてしまう。だから私はあくまで遠くを目指すんです。選手たちからしてみれば、やっとここまで来たのにまた前に行かれるからたまったものではないと思うかもしれないですけど、リオ五輪までもうひと勝負を懸けられると思うから粘りたいと思っています」