メダル獲得へ、シンクロ日本が挑む壁 井村コーチが選手に求める“厳しさ”

スポーツナビ

リフトの回数を6回に増やす

五輪メダルへ向けて日本代表チームが挑戦を続けるリフト 【奥井隆史】

 今以上の点数を得るために、変更したのがFRでのリフトの回数だ。五輪最終予選では5回だったが、今大会は6回に増やした。そのリフトにしても、高さのロシアに対して同じ土壌で勝負するのではなく、バリエーションの豊富さに活路を見いだす。特に逆立ちの状態から、ジャンプして2回半ひねりする大技は難易度が相当高い。今大会では1回半ひねりにとどまったものの、ジャンパーの中村麻衣は「五輪につながるリフトができた」と笑顔を見せた。

 井村HCも成果を口にする。

「このリフトに関しては8月を想定して、今どうあるべきかを目指していたので、中村には『正しい姿勢で高く回り出せば、あとはいくらでも回れるようになる。土台となる選手はとにかくまっすぐ上げるから、あなたも正しい姿勢で浮くこと』を目標とさせていました。予選、決勝ともに感触はあったので、本人も自信がついたと思います。五輪までに国際試合はこの大会しかなかったので、最悪の場合は変える必要があったかもしれないですけど、この路線でいけるという大きな収穫はありました」

 高みを見据えつつも、もちろん現実は見ている。井村HCはあくまで最後まで粘るつもりだが、もしこのルーティンに選手たちが対応できないようであれば、難易度を下げる判断も辞さない。

「6月中旬くらいまでは頑張ってみようと思います。妥協することはいつでもできる。ただそのときは、難易度を下げたと感じさせないような下げ方をします。それがコーチの手腕です」

五輪でメダルを取るために必要なこと

井村HCは選手たちの成長に目を細めつつも、さらなる進化を求める 【奥井隆史】

 井村HCが復帰してから約2年。日本は再び五輪でメダル争いをできるまでに力をつけてきた。主将としてチームをけん引する乾は、4年前との違いを感じている。

「目指すものが高くなりましたね。練習の質も上がったし、練習でやったことが結果としてつながっている実感があります。4年前も五輪に出場して、当然出るからにはメダルを目指していました。でも今考えると自分たちがやっていた練習だったり、日々の積み重ねはメダリストの頑張りではなかったなと感じます」

 ちょうど1年前のジャパンオープンで、乾は4種目に出場し、そのあまりのハードさに心が折れかけた。しかし、井村HCの喝もありそこを乗り切ると、世界選手権では7種目の出場で4個の銅メダルを獲得。体力的に厳しくても精神力でカバーできることを知った。愛弟子の成長に、井村HCも目を細める。

「1年前がうそのようにたくましくなりました。体はきつくても気持ちで補う姿を見て、他の選手もついてくるんだと思います」

 その上で乾も含めた選手たちに注文をつけた。

「日々の練習で私の要求することをすぐに克服してほしい。彼女たちは『先生に付いていきます』と言いますが、日ごろの態度はどうなのか。私に付いてくるのではなくて、私の要求に付いてきてほしい。付いてくるというのは私の要求を全部できるようにすることなんです。そこが彼女たちの甘さだと思います。忘れちゃいけないのが成長しているのは私たちだけじゃないということ。本当に五輪でメダルを取りたかったら、さらにたくましく、より厳しくならないといけないと思います」

 ルーティンの完成図はできあがっている。あとは選手たちがそれにうまくはまることができれば、ロシアは厳しくとも中国とは互角に戦えると、井村HCは踏んでいる。リオ五輪まで残り3カ月。マーメイドジャパンの覚悟が問われる。

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

2/2ページ

著者プロフィール

スポーツナビ編集部による執筆・編集・構成の記事。コラムやインタビューなどの深い読み物や、“今知りたい”スポーツの最新情報をお届けします。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント