「五輪代表で生き残ってみせる」と誓う際 VVV藤田俊哉コーチから見た現在地

中田徹

「まだ課題はいっぱいあることが、際の伸びしろを示している」

オランダ2部のVVVでコーチを務める藤田俊哉(左)から見た際の評価とは? 【中田徹】

――まさにポルトガル遠征で求められるのは、そこですね。

「そう。相手を止めてアシストでもぶちかましたら、際にとって次のステップじゃん。そのためにベストを尽くすということだけで、良いんじゃない。結果なんて誰にも分からないから」

――ちょっと気になるのが、日本のメディアが際を『救世主』と書いていたこと。

「大げさだね。一言、際はそんなタイプじゃないでしょ。SBだよ。際は平均点が高い選手という言い方ができる。どちらかというと攻撃で力を発揮するSB。これから彼が何を特徴にして生きていくのか。マルチに平均点の高い選手で勝負するのか、何かに秀でて特徴を示していくか、これから彼は探していかないといけない。まだ課題はいっぱいあることが、彼の伸びしろを示している。俺はそういうところに魅力を感じているんだ」

――課題がいっぱいあるのは、僕も同意です。それでも、開幕の頃から比べると随分成長したと思います。

「オランダ2部リーグは、サッカーの質が違うから一概にいえないところもあるけれど、J1で出ているようなものだよ。日本は五輪で成功したいんだよね。際は日頃からオランダ2部リーグで、国際舞台を戦っているんだ。日本のサッカー界は際みたいに、日本で実績のない選手が海外へ単身で武者修行に出て、自分で道を切り開いてチャンスをつかんだ選手を大事にしないといけない。チャンスをつかむ前に世話を焼くのはダメだよ。でも、ある程度のところまで辿り着いて、挑戦し続ける選手はサポートしてあげても良い」

――藤田さんの言う“サポート”とは何を指すのでしょうか?

「今回みたいに代表に呼んであげることは大きなサポートだよね。そうするとドルトレヒトでの彼の評価が変わるじゃん。サポートとしては大きいよね」

――ポルトガル遠征の際に何を期待しますか?

「どういうことを感じ、何が自分に必要で、何をすればこのチームで生き残れるか。それを感じる時間にしてほしい。彼は今までもそうやってドルトレヒトでもやってきたはずだから。今この現状で何をすれば、自分が評価されるか、何が求められているかという整理ができる奴だと俺は思っている」

――今後、際に必要なことは?

「もうちょっと決定的な、ダイナミックな仕事をしないといけない。今の際は、ちょっと小粒に映っちゃうと思うんだよね。そこを彼がどう打開していくか。もうファーストステップは来たわけでしょう。オランダへ渡ってトライして、プロ契約を勝ち取ってトップチームで試合に出て、順調に来ている。試合に出ているからこそ、彼は代表を勝ち取った。次はセカンドステップ。選手は一個ずつ階段を登るわけじゃん。そういう段階が際もようやく始まったということ。次はエールディビジに行くことが際にとってのステップだよね」

現状をしっかりと認識している際

 不思議なほど、藤田の話は、際の言うことと似ていた。ゴー・アヘッド・イーグルス戦後、際はこんなことを言っていた。

「自分のことが『救世主』と書かれていて、おかしくなりそうなので読むのを途中で止めました。だって、僕はSBですよ。この記事が親孝行になれば僕は満足です」

「ポルトガル遠征では、自分のできる範囲で、自分の持っている全てを出していきたい。それで結果が付いてこなければ成長する部分が明確になってくると思うので、そこを復習したい。うまくいったら、何がうまくいって、何がうまくいかなかったのかという部分をもう一度分析し、そこのストロングポイントを伸ばしていければ成長していけると思います」

 3月18日のテルスター戦(0−3)後、際に藤田のコメントを伝えると、「僕の考えてきたことは間違っていなかったんですね」と言ってから、誓いを立てた。

「五輪まであと5カ月ですか。まだまだ自分は通じないところがあると思うけれど、このタイミングでメキシコやスポルティング・リスボンのようなチームと戦えるのは貴重なこと。絶対、僕は五輪代表で生き残ってみせます」

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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