馬券アレルギーのための有馬アルバート 「競馬巴投げ!第112回」1万円馬券勝負

乗峯栄一

サムソンビッグ単勝1万7千円で湿疹が出た

[写真4]今年主役の1頭だったラブリーデイと、それを見守る池江調教師 【写真:乗峯栄一】

「アレルギー」というのは、辞書引くと、ある種の物質に対して抗原抗体反応が起き、ジンマシン、気管支喘息、発熱、炎症などが起こる状態であると出ている。

 これなら経験がある。食べ物に対してはないが、狙い続けたサムソンビッグ(古い話だ、94年ごろか?)が、狙うのをやめた途端、単勝1万7千円つけて、きさらぎ賞勝った日なんか完全な症状が出た。

 それ以前の朝日杯やシンザン記念のサムソン馬券をしみじみ眺めていると、自然に手が震え、湿疹が出た。「サムソン、何で今頃になって」と呟くと鼓動が高まり、咳も出て、むせび泣いて寝られない日が続いた。これはアレルギー症状以外の何者でもない。

「当競馬場では“馬券アレルギー”の方への馬券提供は控えさせて頂いております」

 競馬場では、こういう貼り紙をするべきだ。

「オレは、ば、ば、馬券アレルギーがあるんだ。ほ、ほんとだ。馬券見ると、呼吸困難になり、救急車で運ばれたことだってある。でもいい。し、死んでやるぅ!」と、そう言われて購入シートとカネが震えながら差し出されたとき、窓口ねえさんはどう対応するか、そこが問われている。

「当競馬場は、馬券アレルギーの方には馬券はお渡しできないんですよ」と救急車騒ぎを恐れて通達するのだろうか。

同じ“武士道馬券者”として、ただ感服の一語です

[写真5]念願の内枠引いたヒットザターゲット、中山を克服できれば 【写真:乗峯栄一】

 大石内蔵助が討ち入りを期して東下りする際、公家の日野家用人・垣見五郎兵衛(かきみ・ごろべえ)を名乗る。しかし本物の垣見五郎兵衛がそれを見とがめ、問いただすと、内蔵助から白紙の通行証文が渡される(このへんは「安宅の関・弁慶勧進帳」によく似ている)。このとき垣見五郎兵衛はすべてを見通す。

「いや、拙者の方がニセ者でござった、ははは」と笑い、本物の通行証文を「これはニセの証文でござる。いかようにもご処分くだされ」と内蔵助に渡す。これだ、窓口ねえさんに問われているのは。

 窓口の“垣見ねえさん”は椅子から立って窓口に顔を近づけ「よくぞ、そこまでお覚悟をお話しくだされました。同じ“武士道馬券者”として、ただ感服の一語です。みごと本懐を遂げられますよう」と、そっと当たる確率の極めて高い馬券を渡し、周りには「わたくしこそ、ニセのアレルギー診断者でした、あはは」などと大声を出して、訳の分からない笑いを浮かべる。

エロ系話題だと極度に鼓動が早くなり、呼吸困難になる

[写真6]定年前最後の有馬となる橋口厩舎のワンアンドオンリー、劇的復活はあるか 【写真:乗峯栄一】

「マッチ売りの少女」がコペンハーゲンの寒空に、なけなしのマッチを一本擦り、壁越しにクリスマスツリーの幻影を見たという話は有名だ。しかしこのアンデルセン屈指の有名な童話、冒頭に「寒い寒い、大晦日の夜でした」と出ている。はっきり出ている。

 何か? ヨーロッパでは大晦日でも正月でも、クリスマスツリーを飾ってんのか?

 ヨーロッパに長くいる女性の友人にこのことを聞いてみたら「確かに正月過ぎまでは飾っている家が多い」と返事が来て「そうか、だったらマッチ売りの少女は、壁を焼いて穴を開け、実際にクリスマスツリーを見た可能性が高い、マッチ売りの少女は、実は日本の“八百屋お七”などと共に、実は炎アレルギーだった可能性が高い。炎を見ると、呼吸困難、妄想癖が起こり、死に至る場合すらある、あの“炎アレルギー”だ。炎アレルギーの者が放火犯となることは多い」などと納得する。

 ついでにいくつか、そのヨーロッパ在住女性に質問する。

「数年前JCダートに来たパンツオンファイアーってどいう意味? “オレの股間は熱い、触ると火を噴くぜ”ってこと?」

「election(選挙)とerection(勃起)を間違える英国人はいるでしょう? 少なくともギャグで使う英国人はいるでしょ? “あした総勃起行く?”とか」

「ダビデはイスラエル王で、ユダヤ人だから、当然割礼しているはずなのに、ミケランジェロのダビデ像が包茎なのはなぜですか?」

 ほとんどセクハラ質問の連続だった。でもヨーロッパ在住の友人女性は簡単に答えてくれる。

「パンツオンファイアーのパンツはズボンのことです。“尻に火がつく”ぐらいの意味ですね」

「LとRは明確に違う発音だから間違えないでしょう」

「割礼・包茎の関係は専門書を見てみてください」などと簡単にあしらわれた。

 あと残るのは、エロ系話題だと極度に鼓動が早くなり、呼吸困難になることもあるという、わが偏った興味の持ち方だ。

「当店ではエロ・アレルギーの方へのエロ提供は控えさせて頂いております」

という貼り紙が目に浮かんでくる。

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著者プロフィール

 1955年岡山県生まれ。文筆業。92年「奈良林さんのアドバイス」で「小説新潮」新人賞佳作受賞。98年「なにわ忠臣蔵伝説」で朝日新人文学賞受賞。92年より大阪スポニチで競馬コラム連載中で、そのせいで折あらば栗東トレセンに出向いている。著書に「なにわ忠臣蔵伝説」(朝日出版社)「いつかバラの花咲く馬券を」(アールズ出版)等。ブログ「乗峯栄一のトレセン・リポート」

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