筒香嘉智をより成長させるプレミア12 理想の打撃を見せた米国戦の3打点

中島大輔

小久保監督が感じた「たくましさ」

米国戦では3本のタイムリーを放ち勝利に貢献した筒香。今季、大きく成長した23歳はプレミア12でも着実に進化を遂げている 【写真は共同】

「世界野球プレミア12」のグループB首位通過を決めた米国戦の試合後会見を終えた直後、ミックスゾーンで報道陣に囲まれた日本代表の小久保裕紀監督は、重苦しい雰囲気を払拭(ふっしょく)した殊勲者をたたえた。

「今日は筒香(嘉智)。(エラーのあった)次の試合でこういう結果を出せる強さを持っている。うまい選手はいくらでもいるんですけど、強くはね返せるところにたくましさを感じましたね」

 12日に行われたドミニカ共和国戦の7回、筒香はレフトフライの目測を誤りニ塁打としてしまい、そこから同点劇が生まれていた。その2日後に行われた米国戦では反撃ののろしを上げるタイムリーを皮切りに、3安打3打点の活躍で勝利に導いたのだった。

「自分がまた成長できる場所だと思います」

 今回のプレミア12が開幕する前、筒香は今大会をそう見据えていた。昨年11月に行われた日米野球で初めて侍ジャパンのユニフォームに袖を通し、多くの財産を得たからだ。

「初めてああいう大会に出場して、シーズン中とは全然違う雰囲気やプレッシャーを感じました。またああいう場面で活躍できたらいいなと思います」

 今回の侍ジャパンでは中村剛也と中田翔をつなぐ5番を任され、「最初は変な感じがあった」という。

 だが、開幕戦の韓国戦こそ無安打に終わったものの、戦いの場所を台湾に移してから確かな存在感を発揮している。

 メキシコ戦でサヨナラ打、ドミニカ戦で勝ち越しタイムリーを放った中田の派手な活躍に隠れているが、筒香はメキシコ戦で猛打賞を記録した。ドミニカ共和国戦ではヒットこそ出なかった一方、2四球を選んでいる。

いつでもヒットを打てるホームラン打者へ

 この活躍を見ていて思い出すのが、筒香の語っていた理想の打者像だ。

「ホームランバッターになっていくなかで、ランナーがいれば簡単にランナーをかえす。『ヒットはいつでも打てます』というようなバッターになっていきたい」

 米国戦は、まさにそうした打撃を見せた試合だった。

 立ち上がりから相手先発のグルーベが動くボールをコントロールよく投げ込むなか、日本打線はバットの芯を絶妙に外されていた。

 一方、先発の菅野智之が思うようにコントロールできず、2、3回にそれぞれ1点を奪われる。嫌な流れで中盤を迎えた。

 そんな雰囲気を払拭(ふっしょく)したのが筒香だった。4回2死ニ塁で打席が回ってくると、初球の外角ツーシームを左中間にはじき返してタイムリーニ塁打で1点差に迫った。6回には1死一、ニ塁から外角低めに逃げていくスライダーに体勢を崩され、バットを折られながらもセンター前に同点タイムリーを放っている。

 そして5対2とリードした7回の第4打席では外角のツーシームにまたしてもバットを折られながら、センター前にタイムリーを弾き返して貴重な追加点を呼び込んだのだった。

「反対方向はシーズン中も意識していたので、それはいまも変わらずやっています」

 逆方向に強く打ち返すことで、バッティングの確率を上げていく。今季は自己最高となるセ・リーグ3位の打率3割1分7厘を残したが、そうした好成績を残したのは以前からの取り組みが身を結んだからだ。

 高卒でプロ入りした2年目からシーズンオフになると渡米し、トレーニングをこなしてきた。米国に行けば遊ぶ環境がないから逆に集中でき、かつ最先端のトレーニングで鍛え上げることができる。そうしたストイックさで身体をつくり上げる一方、技術もこつこつと磨き上げてきた。

 その結晶が今季のペナントレースで残した成績(リーグ3位の93打点、リーグ4位の24本塁打)であり、現在プレミア12で見せている活躍なのである。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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