東アジアカップを終えて危惧すること 日々是東亜杯2015(8月9日@武漢)

宇都宮徹壱

アジアで苦しみ続けるハリルホジッチ

今大会最後の試合が行われる直前の武漢体育中心。空には巨大な雨雲がたちこめていた 【宇都宮徹壱】

 大会9日目。8月1日に開幕した東アジアカップも最終日である。この日、武漢体育中央(スポーツセンター)では、男子の第3戦、韓国対北朝鮮、そして中国対日本の試合が行われる。9日間にわたって開催された今大会も、すべての日程が終わるかと思うと感慨深い。この日の天候はどんよりとした曇り。当地に来てずっと晴天だったが、時おり強い風が吹いてずいぶんと過ごしやすい。地元の天気予報によると、何でも台風13号がこちらに向かって来ているそうだ。涼しいのは結構だが、翌日の帰国の便が無事に飛んでくれるのか、ちょっとばかり心配である。

 この日の第1試合は、0−0のスコアレスドロー。攻撃力で圧倒する韓国は、何度となく相手ゴールを攻め続けるも、北朝鮮の驚異的な粘りに遮られ、今大会初めてのノーゴールに終わった。それでも韓国は勝ち点を5に伸ばし、第2試合で中国が日本に引き分け以下となれば優勝という状況になった。北朝鮮は勝ち点4。日本は中国戦に勝利して勝ち点4で並んでも、初戦で北朝鮮に敗れているため3位が精いっぱい。それでもアウェーの環境で中国と公式戦を戦うことは、来月から再開されるワールドカップ(W杯)アジア予選を戦う上で、非常に重要な意味を持つはずだ。

 韓国戦(1−1)後のコラムで私は、次の中国戦で希望を見いだすとしたら「(代表の新戦力となりえる)可能性を秘めた選手が、あと何人現れるか」くらいしかないという主旨のことを書いた。あれからさらに考えてもうひとつ、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が「どれだけアジアの環境に順応できたか」を加えることにしたい。思えば前任のハビエル・アギーレにしても、そのまた前任のアルベルト・ザッケローニにしても、Jリーグを経由せずに日本代表を指揮した監督は、いずれも「名将」とうたわれながらも、アジア特有のサッカーに苦しめられてきた(ザッケローニは2011年のアジアカップで優勝しているが、グループリーグ2試合は薄氷を踏むような戦いだった)。

 ハリルホジッチもまた、同様の苦しみを今まさに味わっている。極端に引いて守ってくる対戦相手(ゆえに縦方向の攻撃だけでは難しい)、独特の暑さと湿気、およそ良好とは言い難いピッチ状態とレフェリング、そして異様なスタンドの雰囲気。ハリルホジッチの場合、コートジボワールやアルジェリアでの経験があるので、非欧州の環境にもう少し耐性があると思っていたが、やはりアジアでの戦いは勝手が違うようだ。この東アジアカップでの3試合が、他ならぬ指揮官にポジティブな影響を与えることを、私は密かに期待している。

前半終了直前に同点に追いついたが

中国に先制を許し、1−1のドローで最終戦を終えた日本代表 【写真は共同】

 この日の日本のスターティングイレブンは以下のとおり。GK東口順昭。DFは右から、丹羽大輝、森重真人、槙野智章、米倉恒貴。中盤は守備的な位置に山口蛍と遠藤航、右に永井謙佑、左に宇佐美貴史、トップ下に武藤雄樹。そしてワントップに川又堅碁。前回の韓国戦から6人を入れ替え、ガンバ大阪勢の3人(東口、丹羽、米倉)が初キャップを刻むこととなった。もうひとつ注目点を挙げるなら、ここ2試合を右サイドバックで起用されていた遠藤が、今度はボランチで起用されたこと。これは右サイドでの起用のめどが立ったため、ボランチでも試したいという指揮官の意図の現れだろう。

 序盤の日本は、韓国戦とは打って変わってリスクをかけた攻撃を見せる。しかし急造のディフェンスラインは連携に難があるのは明らかで、中国のカウンターに何度かひやりとさせられる。そして前半10分、中国はゴール前で右からガオ・リン、ウー・シーとつないで、最後はウー・レイが蹴り込んでネットに突き刺す。その後は中国が試合の主導権を握り、カウンターとポゼッションを巧みに使い分けながら日本を苦しめる。27分には、ウー・レイがドリブルで独走して東口と1対1の場面を作るが、シュートを打つ前に足がもつれたため、日本は事無きを得た。

 非常にストレスフルな時間帯が続く中、日本がようやく輝きを見せたのは前半42分。槙野の長い縦パスに左サイドを駆け上がった米倉がダイレクトで折り返し、後方から駆け上がってきた武藤が滑り込みながら右足でネットを揺らす。ハリルホジッチが就任当初から目指してきた、縦方向への素早い攻撃が見事に形になった瞬間であった。しかし後半途中から降りだした雨が激しさを増す中、日本はセットプレーのチャンスを生かせず、中国もカウンターにかける人数が足りず、両者の戦いは次第に膠着(こうちゃく)してゆく。

 終盤の日本は、特に守備陣が身体を張ったプレーを随所で見せ、最後まで集中力が途切れなかった。逆に攻撃陣は、時間の経過につれてチャンスを作る回数が目に見えて落ちてゆく。日本ベンチは後半16分に興梠慎三(OUT川又)、29分に柴崎岳(同武藤)、38分に浅野拓磨(同永井)を投入したものの、前線が活性化するには至らず。アディショナルタイムの柴崎のFKのチャンスも、遠藤のヘディングシュートは枠の外に外れ、直後に終了のホイッスルが鳴る。ファイナルスコア1−1。日本は勝ち点を1つ積み上げたものの、最下位で今大会を終えることとなった。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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