東アジアカップで突きつけられた現実 日々是東亜杯2015(8月6日@武漢)

宇都宮徹壱

連覇を断たれた翌日の練習風景

大きな声で指導を続けるハリルホジッチ。この日は選手に積極的にコミットしていた 【宇都宮徹壱】

 大会6日目。東アジアカップは2巡目が終わり、この日と翌日はノーマッチデーである。男女ともに北朝鮮、そして韓国と対戦し、男子は1分け1敗、女子は2敗。中国との第3戦を前に、どちらも優勝の可能性はなくなった。日本での今大会への関心度も、かなり低下していると聞く。男子の日韓戦のテレビ視聴率は、ヴァイッド・ハリルホジッチ体制になって最低の記録だったとか。「当然だろうな」と思う。思い切り身も蓋もない話をするなら、日本代表に関心のある人々の多くはいわゆる「ライト層」であり、「強くない日本代表には興味がない」人たちである。折も折、この日に発表されたFIFA(国際サッカー連盟)ランキングで、日本は前回の50位から56位に後退。イラン(41位)、韓国(54位)に次いで、アジア3位に転落している。

 この日は、午前9時30分からの日本代表のトレーニングを取材する。ただし、場所はいつもの武漢体育中心(スポーツセンター)ではなく、武漢FAトレーニングセンター。私が宿泊しているホテルからは、タクシーでおよそ45分の距離である。当地で取材を開始してから、ずっとホテルとスタジアムの往復が続いていたので、久々の遠出で少しばかり心が踊る。武漢は巨大な長江を中心に発展してきた都市で、地図を見ると他にいくつもの湖がある。だがタクシーの車窓から見えるのは、建設中の巨大な高層ビルばかり。2〜3年後には、高さ1000メートル級の超高層ビルが完成するそうだ。あちこちで工事中の騒がしい音が鳴り響き、ほとんど風情を感じないままに目的地に到着した。

 この日の練習は、昨日のスタメンはランニングとストレッチが中心の軽いメニュー。サブだった選手は、ランニング、ツータッチのパス回し、5対5、さらにはGKを含めた6対6のミニゲームを行い、およそ1時間10分で終了した。練習中に印象的だったことは2点。まず、選手たちの表情が一様に明るかったこと。ここまで勝利が得られず、早々に連覇の可能性を断たれたことで多少は落ち込んでいるかと思ったが、暗い表情の選手は一人としていなかった。安心したと同時に、いささか拍子抜けしたのも正直なところ。そしてもうひとつは、ハリルホジッチの選手へのコミット(関わり)がいつも以上に多かったことだ。練習前のミーティングは15分を越え、その後のトレーニングでも自ら模範プレーを見せながら指導してみせる。練習後には、選手の頭にミネラルウォーターをふりかける姿も見られ、「この人、こんなキャラクターだっけ?」と、少し不思議に思ったりもした。

中国との第3戦に希望はあるのか?

ミニゲームでボールキープする宇佐美(中央)。韓国戦の戦い方に手応えを感じたと語る 【宇都宮徹壱】

 トレーニング後の選手のコメントを紹介しておこう。まず、5日の韓国戦で代表初ゴールを挙げた山口蛍は、その戦い方について「やり方もはっきりしていたし、北朝鮮のときよりやりやすさはあった。韓国は自分たちより強いし、その中でできる限りの結果は残していたと思う」。途中出場だった宇佐美貴史も「縦、縦というよりも、自分たち(本来)の横、横という展開が多かったのかなと思う。その中で、効果的に縦を使う場面というのがもっと増えればチャンスは増えると思う」と、縦方向にこだわらない戦い方に一定の手応えを感じている様子。では、戦い方の変化について、監督とのコンセンサスはとれているのか。山口と同じく2試合出場している槙野智章は、「スタッフの意見と自分たちの率直な意見が一致するように、自分たちはこう思っているということは伝えましたし、もっと良くなるためのポジティブな話はできていると思います」と語っている。

 韓国戦でリスクをとらないサッカーを選択したのは、監督と選手の総意であったことがあらためて理解できる。そうせざるを得なかったのは、日本の選手のフィジカルコンディションが整っていなかった上に、相手のチーム力が上であることを認めざるを得なかったからだ。かつての日韓戦の熱き戦いを知る者としては、何ともやるせない気持ちになるだろう。が、これが現実である。韓国は、先のアジアカップでの厳しい戦いを決勝まで勝ち上がり、チームとしてのオートマティズムと勝利のメンタリティーを取り戻していた。それに対して日本はどうか。アジアカップでは強豪との死闘を経験することなく、ベスト8で敗退。その後、チームを率いたハビエル・アギーレは八百長疑惑により契約解除となり、現体制でリスタートしたのは3月中旬のことである。それに加えて、国内組の寄せ集めチームがやすやすと勝てるほど、東アジア勢との戦いもまた甘いものではなくなってきている。

 そうした厳しい現実を、監督も選手も、そしてファンも突きつけられることになったのが、今回の東アジアカップであった。それを伝えるべき立場にあるわれわれ取材者も、なかなかポジティブな要素が見いだせずに途方に暮れている。そんな中、数少ない明るい材料を挙げるとすれば、代表の新戦力候補。その筆頭が、本業とは異なる右サイドバックで頭角を現しつつある遠藤航であることに異論はないだろう。現在のポジションについては「まだまだ勉強中。ある程度の守備のイメージはできたけれど、攻撃での自分の良さというのはもっともっと出していきたい。さらに成長していけるという実感は得られている」と、当人もかなり意欲的な様子。内田篤人が負傷で代表を離れ、酒井宏樹もなかなか定着しきれない現状にあって、遠藤の成長にかかる期待は大きい。そうした可能性を秘めた選手が、あと何人現れるのか。中国との第3戦に希望を見いだすとしたら、その点に絞られてきているように感じる。

<翌日につづく>
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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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