東アジアカップで突きつけられた現実 日々是東亜杯2015(8月6日@武漢)
連覇を断たれた翌日の練習風景
大きな声で指導を続けるハリルホジッチ。この日は選手に積極的にコミットしていた 【宇都宮徹壱】
この日は、午前9時30分からの日本代表のトレーニングを取材する。ただし、場所はいつもの武漢体育中心(スポーツセンター)ではなく、武漢FAトレーニングセンター。私が宿泊しているホテルからは、タクシーでおよそ45分の距離である。当地で取材を開始してから、ずっとホテルとスタジアムの往復が続いていたので、久々の遠出で少しばかり心が踊る。武漢は巨大な長江を中心に発展してきた都市で、地図を見ると他にいくつもの湖がある。だがタクシーの車窓から見えるのは、建設中の巨大な高層ビルばかり。2〜3年後には、高さ1000メートル級の超高層ビルが完成するそうだ。あちこちで工事中の騒がしい音が鳴り響き、ほとんど風情を感じないままに目的地に到着した。
この日の練習は、昨日のスタメンはランニングとストレッチが中心の軽いメニュー。サブだった選手は、ランニング、ツータッチのパス回し、5対5、さらにはGKを含めた6対6のミニゲームを行い、およそ1時間10分で終了した。練習中に印象的だったことは2点。まず、選手たちの表情が一様に明るかったこと。ここまで勝利が得られず、早々に連覇の可能性を断たれたことで多少は落ち込んでいるかと思ったが、暗い表情の選手は一人としていなかった。安心したと同時に、いささか拍子抜けしたのも正直なところ。そしてもうひとつは、ハリルホジッチの選手へのコミット(関わり)がいつも以上に多かったことだ。練習前のミーティングは15分を越え、その後のトレーニングでも自ら模範プレーを見せながら指導してみせる。練習後には、選手の頭にミネラルウォーターをふりかける姿も見られ、「この人、こんなキャラクターだっけ?」と、少し不思議に思ったりもした。
中国との第3戦に希望はあるのか?
ミニゲームでボールキープする宇佐美(中央)。韓国戦の戦い方に手応えを感じたと語る 【宇都宮徹壱】
韓国戦でリスクをとらないサッカーを選択したのは、監督と選手の総意であったことがあらためて理解できる。そうせざるを得なかったのは、日本の選手のフィジカルコンディションが整っていなかった上に、相手のチーム力が上であることを認めざるを得なかったからだ。かつての日韓戦の熱き戦いを知る者としては、何ともやるせない気持ちになるだろう。が、これが現実である。韓国は、先のアジアカップでの厳しい戦いを決勝まで勝ち上がり、チームとしてのオートマティズムと勝利のメンタリティーを取り戻していた。それに対して日本はどうか。アジアカップでは強豪との死闘を経験することなく、ベスト8で敗退。その後、チームを率いたハビエル・アギーレは八百長疑惑により契約解除となり、現体制でリスタートしたのは3月中旬のことである。それに加えて、国内組の寄せ集めチームがやすやすと勝てるほど、東アジア勢との戦いもまた甘いものではなくなってきている。
そうした厳しい現実を、監督も選手も、そしてファンも突きつけられることになったのが、今回の東アジアカップであった。それを伝えるべき立場にあるわれわれ取材者も、なかなかポジティブな要素が見いだせずに途方に暮れている。そんな中、数少ない明るい材料を挙げるとすれば、代表の新戦力候補。その筆頭が、本業とは異なる右サイドバックで頭角を現しつつある遠藤航であることに異論はないだろう。現在のポジションについては「まだまだ勉強中。ある程度の守備のイメージはできたけれど、攻撃での自分の良さというのはもっともっと出していきたい。さらに成長していけるという実感は得られている」と、当人もかなり意欲的な様子。内田篤人が負傷で代表を離れ、酒井宏樹もなかなか定着しきれない現状にあって、遠藤の成長にかかる期待は大きい。そうした可能性を秘めた選手が、あと何人現れるのか。中国との第3戦に希望を見いだすとしたら、その点に絞られてきているように感じる。
<翌日につづく>
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