東アジアカップを終えて危惧すること 日々是東亜杯2015(8月9日@武漢)

宇都宮徹壱

今大会のポジティブな収穫とは?

2分け1敗の4位で今大会を終えた日本代表。収穫もあったが課題も少なくなかった 【宇都宮徹壱】

 試合後も雨は降り続き、昨日の女子に続いて男子の表彰式も寂しい雰囲気の中で行われた。男子の順位は1位韓国(勝ち点5)、2位中国(同4)、3位北朝鮮(同4)、そして4位日本(同2)。個人賞では、意外にも日本の選手の名が呼ばれた。武藤が得点王に選出されたのである。「え、2ゴールで得点王?」とも思ったが、今大会は他に複数ゴールを決めた選手がいなかったのだ。前回大会は、柿谷曜一朗が3ゴールを挙げて得点王となり、その後は代表に定着している。中盤のポジションは欧州組の牙城となっているが、本人は実に意欲的だ。試合後のコメントを紹介しておく。

「代表でプレーして『自分でもできる』という手応えは感じています。これからも呼ばれたいと思うので、チームに帰って結果を出して呼んでもらえるようなプレーを見せ続けたい。この大会だけでなく、これからロシアに向けた戦いを意識しています」

 今大会では「2〜3人の本当に良い選手が見つかった」とハリルホジッチも語っているが、そのうちの一人が武藤であることは間違いない。そしてもう一人、右サイドで2試合、ボランチで1試合、出場機会が与えられた遠藤もまた、指揮官の見極めにパスしたと見てしかるべきだろう。以下、当人のコメント。

「A代表に呼ばれて3試合に出られたのは、良い経験になりました。ただ結果が出ていないのは課題だし、個人としてもボランチで出て、最後はミスが目立つシーンもあった。『良い経験』で終わらせるのではなく、これを糧にW杯のメンバーに入れるように努力しないといけないと思います」

 武藤と遠藤がA代表でも十分に通用することが明らかになったのは、今大会の数少ない収穫であった。それ以外に「まだ努力が必要」としながらも、可能性のある選手がいたことを指揮官は示唆している。個人的には韓国戦でアンカーの役割を堅実に務めていた藤田直之、そしてこの中国戦で攻守にわたり闘争心あふれるプレーを見せていた丹羽についても、引き続き代表で見てみたいと思っている。こうした人材が発掘できたこと、そして3試合目にして「私たちが理想とするゴール」(ハリルホジッチ)が生まれたこと。武漢での戦いでポジティブな収穫を求めるなら、以上2点に集約されるのではないか。

「少し時間をいただきたい」という言葉の真意

この大会での日本のパフォーマンスは1試合ごとに尻上がりに向上していった 【写真は共同】

 最後に、最下位(しかも大会初)で終わった今大会の日本代表について、現時点で思うところを記しておきたい。結果はもちろん、残念である。残念ではあるけれど、ハリルホジッチ一人の問題として処理するのは非常に危険である。問題はもっと複合的であると見るべきだ。すなわち、(1)カレンダーの問題、(2)Jリーグの問題、(3)日本代表の問題、である。

 (1)については、すでに指揮官が語ったとおりなので、多くを語る必要はないだろう。この日の会見でも「この大会、もう2〜3日余分な準備があれば、この3試合は違った結果にすることができた」と語っている。これを単なる言い訳と聞き流すべきではない。実際、この大会での日本のパフォーマンスは1試合ごとに尻上がりに向上していった。ハリルホジッチは優秀な監督だが、決して魔法使いではない。本当に結果を重視していたのであれば、もう少し大会前に合宿期間を与えるべきだったと思う。

 (2)と(3)は、より深刻である。前者については、私たちが考えている以上にJリーグの国際競争力が落ちているように感じる。少なくとも、いきなり23人をかき集めてアジアの国際大会に臨んでも、あっさり勝てるという状況ではなくなりつつある。それは近年のACL(AFCチャンピオンズリーグ)の戦績を見ても明らかであろう。そして後者については、今年1月のアジアカップがベスト8に終わって強豪国との真剣勝負を経験できなかったこと、直後に監督交代を余儀なくされたことが大きく影響しているように思う。

 欧州リーグたけなわの3月の時点で、ハリルホジッチを連れてきたこと自体は、技術委員会のお手柄であると言うしかない。だが言うまでもなく、彼の日本代表監督就任はスタートラインに立っただけの話でしかなく、しかもアジアのライバルに比べてチームづくりは遅れているのが実情だ。加えてハリルホジッチ自身も、就任会見では「少し時間をいただきたい。時間をもらい、辛抱強く見てもらえれば、良い結果を出せると思っている」と率直に述べている。

 今大会でのハリルホジッチの采配に、まったく問題がなかったとは言わない。ただ、現時点で私が危惧しているのは、その采配ではなく、指揮官と世論とのギャップが必要以上に広がってしまうことである。そうしたギャップが原因で、これまでクラブや協会のトップ、さらにはメディアと衝突してはケンカ別れするということを彼は繰り返してきた。外国人監督に比較的寛容とされる日本でも、今大会の結果を受けて、そうしたリスクを排除できないことを私は密かに恐れている。日本代表を巡る困難な状況を立て直し、さらなる発展を臨むのであれば、性急に結果を求めるべきではない。熱戦から一転、静まり返った武漢体育中心を後にしながら、そんな想いを新たにした次第だ。

<この稿、了>

2/2ページ

著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント