岩隈久志が誇示した支配力 今後の投球がMLBでの未来を左右する

杉浦大介

まるでプログラムされたマシーンのよう

日本時間19日のヤンキース戦に先発し、6回途中5安打2失点で今季2勝目を挙げたマリナーズ・岩隈 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

「イワクマは通称“ベアー(熊)”と呼ばれているが、私は“マシーン”と呼びたい。彼が好調の時はまるで機械のように打者を打ち取っていくからだ」

 7月18日(日本時間19日)、ニューヨークで行われたヤンキース対マリナーズ戦中、マリナーズの試合をラジオ中継するKIRO局のアナウンサーはそう語っていた。
 故障者リストから復帰後3戦目となったこの日の先発機会。マリナーズの岩隈久志は、実際にまるでプログラムされたマシーンのように相手を斬って取る、絶好調時の片鱗(へんりん)を少なからず見せてくれた。

「自分のピッチングがある程度はできた。勝てたのはすごくうれしいです」

 得点、本塁打数でともにア・リーグ2位のヤンキース打線を6回途中まで5安打2失点に抑えた後、岩隈は笑顔でそう振り返った。4回にブライアン・マキャンに2点本塁打を許したのは残念だったが、1、3、5回はすべて三者凡退。特に前日のゲームで決勝弾を放ったアレックス・ロドリゲスから3打席連続三振を奪って支配力を誇示し、マリナーズの4対3での勝利に大きく貢献した。

「真っすぐのキレが出てきて、角度も出てきている。スライダーも高い位置で(腕が)振れて、その中でカーブも使えている。ピッチングの幅が広がってきているし、状態的にも良いと思います」

 自信に満ちた表情でそう語った技巧派右腕は、今季、4月に右広背筋の炎症で戦線離脱し、前半戦では5試合しか登板できなかった。しかし、復帰2戦目となった7月11日のエンゼルス戦では8回を3安打無失点と完璧な投球。さらに球宴ブレークを挟んで迎えた今回の好投を見ても、良い方向に進んでいることはどうやら間違いなさそうである。

格好の助っ人候補に挙げられる岩隈

 こうして順調なカムバックロードを歩むと同時に、岩隈の周囲が徐々に騒がしくなり始めている。
 メジャーリーグのトレード期限は7月いっぱい。大事な8〜10月の働きをもくろんでトレード期限前に獲得される選手は“雇われガンマン(Hired Gun)”などと呼ばれたりするが、確かな実績があり、なおかつ所属チームが低迷している今夏の岩隈も、強豪チームにとって格好の助っ人候補に違いない。

 案の定、7月10日にはスクープの多いことで知られるCBSスポーツのジョン・ヘイマン記者が「ドジャース、ブルージェイズ、ナショナルズが岩隈を見るためにスカウトを派遣していた。トレードの可能性はある」と記していた。今季は故障していたがゆえに消耗度の少ない日本人投手に興味を持っているのは、実際にはその3チームだけでないはずである。

 18日にヤンキース戦を迎えた時点で、マリナーズはすでにア・リーグ西地区首位のエンゼルスに8.5ゲーム差、ワイルドカードにも8ゲームの差をつけられていた。そんなチームが向こう2週間の間にさらに負けを増やすようなことがあれば、トレード実現の可能性も高まる。
 紆余(うよ)曲折を経験した末に、今秋に岩隈がプレーオフの舞台に立つことになっても驚くべきではない。その時には、マリナーズ以外のユニホームを着ていることになるのだろうか。さまざまな方向性が考えられるだけに、特にトレード期限を迎えるまでの投球内容により一層の注目が集まる。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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