いまだ薄れないNYでのイチローの記憶 人気の高さと実力健在を示した凱旋
NYに凱旋したイチロー
日本時間18、19日のヤンキースとの2連戦で、昨年まで本拠地だったヤンキー・スタジアムに帰ってきたイチロー。ビジター選手にもかかわらず、「イチロー」コールが響いた 【写真は共同】
初回にヤンキースナインが守備につく際、ブリーチャー席(最も熱狂的な地元ファンが集まる場所)に陣取ったファンが順番に、その名前やニックネームをコールするのが“ロールコール”。旧スタジアム時代から続く球場の名物ではあるが、移籍した選手にまでそれが送られるのは頻繁にあることではない。
「控えめなね。あれはロールコールというより気持ちでしてあげた、ぐらいの感じじゃないの。優しい人たちがね」
イチロー本人がそう語った通り、盛大な音量ではなかった。しかし、たとえ小さくとも温かいコールが飛んだことは、2年半というニューヨークでの短いキャリアの中で、地元の人々から好印象に持たれていた証に違いない。
ヤンキースでは2012年途中から14年までに出場した360試合で、打率2割8分1厘、通算311安打、49盗塁。もともとのスター性と華やかなプレースタイルゆえか、存在感は数字以上に大きかった。
12年の移籍後には67試合で打率3割2分2厘と打棒が復活し、13年には地元スタジアムで日米通算4000安打に到達するというハイライトシーンも演出した。
「起用しやすい選手だった。(イチローは)毎日プレーすることを望む選手だったからね。休むことを望まなかった」
ジョー・ジラルディ監督のそんな言葉は、少々微妙な含みがあるように感じられたのも事実である。主に便利屋的な扱いをされた最後の1年はイチロー本人には不本意だったろうが、それでも、移籍当初からニューヨークを揺るがした人気は最後までほとんど変わらなかった。そして、今回の2連戦で判断する限り、ニューヨーカーのイチローへの好意的な記憶も薄れてはいないようである。
歓迎ムードで見せた“らしさ”
17日には「9番・レフト」でスタメン出場し、1対2とリードされて迎えた8回1死一塁の場面で、相手の左腕ジャスティン・ウィルソンの96マイル(約154キロ)の速球をライト前にしぶとく弾き返した。続く18日には9回に代打で登場し、三塁への高いバウンドの内野安打を放った。
2本のヒットが得点につながらなかったのは残念。それでも、守備でも相変わらず機敏な動きを見せており、41歳にして健在を感じさせるに十分ではあった。
「まだ走塁、守備はハイレベル。バントもできるし、打撃でもさまざまな形で貢献できる。もう毎日プレーするレギュラーであるべきじゃないのかもしれないけど、チームに獲得を勧めたい選手であり続けている。ヤンキースはスピードタイプの外野手が多いから残留させなかったのは仕方ないのだろうけど、(カルロス・)ベルトランよりイチローの方がチームを助けられたと今でも思っているよ」
某ア・リーグチームのスカウトに意見を求めても、“第4の外野手で”という条件付きながら、非常に好意的な評が戻ってきた。
時を同じくして、18日にはマーリンズがイチローとの契約延長を話し合っているという米メディアからの報も流れた。スーパーサブとしては上質な上に、現時点では年俸も安価。加えて丹念に準備する姿勢は若手の手本にもなるのだから、マーリンズ側が引き止めたいと思うのも当然だろう。
もっとも、その一方で、まだ“控えの切り札”的な働きができるのであれば、イチローにはプレーオフが狙えるチームでプレーしてほしい気もする。29勝39敗でナ・リーグ東地区4位に低迷するマーリンズが、今後もさらに低迷してポストシーズン進出が絶望的になった場合には……。
チーム側に高く評価されている現状では移籍実現の可能性は薄いのかもしれない。ただ、例えば野手層の薄いメッツなど、トレード期限間際にレンタル的な形でイチロー獲得を望む上位チームが現れても不思議はないのではないか。