シンガポール戦で得られた教訓とは何か? われわれも共有すべきW杯予選の「わな」

宇都宮徹壱

目標はロシアW杯だけではない

W杯予選の初戦はシンガポールとまさかの引き分け。選手たちはふがいない結果に険しい表情を見せた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 4年に一度のフットボールの祭典、ワールドカップ(W杯)。2018年のロシア大会に向けた第一歩となる日本の予選初戦は、6月16日のホーム(埼玉)でのシンガポール戦である。もっとも今大会の予選は、これまでの予選とはフォーマットが異なることをわれわれは留意すべきだろう。シンガポール代表のベルント・シュタンゲ監督はこう語る。

「正直いってわれわれは、今度のW杯に出場できるとは思っていない。(中略)個人的な目標としては19年にUAEで開催されるアジアカップに出場することだ。もちろん厳しいことなので頑張らなければならないが、それでも実現可能だと思う」

 W杯予選の前日会見で、なぜアジアカップの話が出てくるのかというと、今予選が4年後のアジアカップ予選も兼ねているからだ。2次予選は40チームが5チームずつ8グループに分かれ、1位チームと各2位の上位4チーム、計12チームが3次予選に進出。と同時に、アジアカップ予選もクリアすることになる。一方、残りの2位4チーム、各3位8チーム、そして各4位の上位4チーム(計16チーム)はアジアカップ3次予選に進出。さらに4位4チームと各5位チーム(計12チーム)は予選プレーオフに回る。

 シンガポールの最新FIFA(国際サッカー連盟)ランキングは154位(日本は52位)。ここ最近は150位台が定位置となっている彼らにしてみれば、W杯よりもアジアカップ出場を目指すほうがはるかに現実的だ。しかも次回アジアカップは、出場国の数がこれまでの16チームから24チームに増える。FIFAランキング3ケタ台の国々にもチャンスが広がるだけに、今予選のモチベーションアップにつながることは間違いない。シンガポールの場合、2次予選のグループ2位は難しいとしても「成績の良い3位」となれば、自国開催だった84年大会以来のアジアカップ出場への道が開ける。

 余談ながら指揮官のシュタンゲは、35歳で就任した東ドイツ代表監督時代には秘密警察シュタージから選手起用をめぐって何度も圧力を受け、イラク代表監督時代はイギリス外相とのツーショット写真が新聞に掲載されて身の危険を感じるくらいの脅迫を受けたという(イラク戦争直後の話だ)。「シンガポールにはトップレベルのサッカーが欠けている」と語るシュタンゲだが、それでもピッチ外での政治的プレッシャーからは解放されて、サッカーに集中できる環境を楽しんでいる様子。かつて当人に取材した経験があるだけに、これまでの艱難辛苦(かんなんしんく)が報われたことに密かな安堵感を覚える。

両翼から仕掛けられなかった日本

押し込みながらも再三の決定機を生かせず。香川(中央)もシュートを外し、悔しさをあらわにする 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 この日の日本のスターティングイレブンは以下のとおり。GK川島永嗣。DFは右から酒井宏樹、吉田麻也、槙野智章、太田宏介。MFは守備的な位置に長谷部誠と柴崎岳、右に本田圭佑、左に宇佐美貴史、トップ下に香川真司。そしてワントップは岡崎慎司。大方の予想では5日前のイラク戦と同じメンバーと思われたが、左サイドバックが長友佑都から太田に変わった(その後の報道で、長友は前日練習後に左でん部に張りを訴えたため、大事をとってベンチスタートになったとのこと)。左足による正確なキックと攻撃力に自信を持つ太田にしてみれば、注目度が高いこの試合で大いにアピールしたいところだろう。

 前半で際立つプレーを見せていたのは、キャプテンの長谷部だった。17分に自らドリブルで持ち込み、さらには21分と22分には縦方向のクロスやミドルシュートを放つなど、たびたびチャンスを作るもののいずれも得点に結びつけるには至らず。対するシンガポールは、自陣に強固なブロックを形成しながら日本に不用意にスペースを与えず、勤勉なボール奪取と身体を張ったディフェンスを徹底していた。30分、35分、40分と時間が経過するなか、日本がこれまで磨きをかけてきた「縦に素早いボールで相手の背後を突く」プレーはほとんど見られず、前半は両者スコアレスのまま終了する。

 後半、日本はさらに得点チャンスを演出する。相手GKのファインセーブに阻まれた同10分の岡崎のヘディングシュート、バーに直撃した27分の本田のFK、3人が飛び込んだ42分の酒井宏の右からのクロス、などなど。だが、一向に日本の先制点が生まれることはなかった。そこで日本ベンチも動くわけだが、いずれの交代も効果的だったかと問われれば、いささか首を傾げざるを得ないというのが正直なところだ。

 後半16分、香川OUT/大迫勇也IN。26分、柴崎OUT/原口元気IN。33分、宇佐美OUT/武藤嘉紀IN。気がつけば、前線には4人の攻撃的な選手が集まっていた。ただでさえ、シンガポールが自陣のスペースを埋めているのに、さらに前線の選手を投入してはバイタルエリアが混雑するばかりである。実際、途中出場の大迫は「両サイドも入ってきていたので、すごく窮屈になったというか、なかなかスペースが生まれなかった」と語っている。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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