G大阪との再戦から見る松本山雅の可能性 3冠王者から送られた新参者へのエール

元川悦子

黒星先行の序盤戦

第10節終了時点で3勝2分け5敗の勝ち点11で12位と悪くない位置につけている松本山雅 【写真:伊藤真吾/アフロスポーツ】

 2015年から2ステージ制に移行したJ1。1stステージは後半戦に突入し、浦和レッズやFC東京、サンフレッチェ広島などが上位争いを繰り広げる一方、下位グループのサバイバルレースもし烈を極めている。その一角にいるのが今季J1初参戦の松本山雅FCだ。「日本のトップ15入り」(反町康治監督)を目標に最高峰リーグに挑んでいるが、第10節終了時点で3勝2分け5敗の勝ち点11で12位(5月7日時点)と悪くない位置につけている。

 とはいえ、ここまでの3勝は清水エスパルス、ベガルタ仙台、ヴァンフォーレ甲府とJ1残留ライバルから奪ったもの。浦和、広島ら上位陣には軒並み敗戦を喫している。湘南ベルマーレを指揮した10年にたった1年でJ2への逆戻りを強いられた反町監督は「J1はわずかなスキを見せるだけでやられる」と口を酸っぱくして言い続けているが、山雅が敗れたゲームはまさに“ちょっとしたミス”が致命傷になっているのだ。

 ホーム・アルウィンでの開幕戦だった3月14日の広島戦(1−2)にしても、開始早々に柏好文をフリーにしたことで角度のない位置から先制点を奪われた。森崎浩司のFK弾は明らかに主審の判定が不可解ではあったが、開始早々の失点が響いたのは間違いない。4月4日の浦和戦(0−1)も、強固なブロックを作って徹底的に守っていた後半40分、マークが下がった瞬間を見逃さなかった森脇良太にミラクル弾を決められた。「どれだけ良い守備をしても、結果的に負けてしまえばチーム全体が自信を失ってしまう。山雅のようなJ1経験のないチームは余計そう」と田中隼磨も悔しさをむき出しにしていた。彼らは黒星先行の序盤戦を通して、90分間集中し続けることの難しさを再認識したはずだ。

3冠王者との2度の対戦経験

13シーズンに2度の対戦経験があり、G大阪戦は成長を測る絶好の機会と言えた 【Getty Images】

 この反省を踏まえて修正を図り、4月25日の仙台戦(1−0)で待望のホーム初勝利。勢いを取り戻した状態で29日のガンバ大阪(0−1)戦に向かった。G大阪はご存じの通り、昨季J1、ヤマザキナビスコカップ、天皇杯の3冠を達成した王者。しかしながら、その前年の2013シーズンはJ2での戦いを余儀なくされており、山雅も2度の対戦経験がある。

 13年4月の万博でのアウェーゲームでは開始4分、藤春廣輝のクロスが飯尾和也の足に当たってそのままオウンゴール。この1点が重くのしかかり、0−1で敗れた。「水を撒いたスリッピーなピッチに速いクロスを入れてくるというガンバの作戦通りになってしまい、選手たちがガクッと来た」と反町監督も振り返ったように、序盤の失点で山雅の腰が引けてしまう格好となった。

 巻き返しを期した9月のホームゲームは、指揮官の徹底的な分析が功を奏し、開始5分に右CKから塩沢勝吾が角度のないところからヘッドを決め、先制に成功する。だが、G大阪はロチャが前半のうちに2ゴールをゲット。2点目は遠藤保仁のスーパーな展開からもたらされたものだった。「ヤット(遠藤)はボールを置いて2〜3歩下がっているうちにどこが空いてるかを立体的に見て次のプレーを判断できる。そんな選手はウチにはいない」と反町監督も脱帽するしかなかった。それでも後半開始早々、山雅は狙い通りのロングスローから犬飼智也(現・清水)が同点弾を奪って2−2のドローに持ち込んだ。丹羽大輝や今野泰幸ら2失点を食らった面々は「山雅のセットプレーには注意しなければいけない」と肝に銘じたというが、山雅にしてみれば前進を感じられる好ゲームだった。

 あれから1年半が経過。G大阪は3冠王者へと一気に駆け上がり、今季は宇佐美貴史が破竹の勢いでゴールを重ねている。遠藤や今野らベテラン勢も健在で、チームの完成度は当時とは比べ物にならない。山雅の方も史上最速での最高峰リーグ昇格を果たし、J1残留ギリギリのところで踏みとどまっている。船山貴之(現・川崎フロンターレ)や犬飼、多々良敦斗(現・仙台)ら昨季までの主力数人がチームを去ったが、精神的支柱の田中や新外国人助っ人のオビナらが良い働きを見せ、今季新加入の酒井隆介や後藤圭太、前田直輝、石原崇兆らも持ち味を出しつつある。そういう意味で今回は山雅の2年間の成長、J1トップとの実力差を測る絶好の機会と言えた。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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