“天敵”虎退治から始まるヤクルト12年ぶりのVロード=〜燕軍戦記2013〜VOL.1

菊田康彦

開幕戦は神宮で“天敵”阪神と対戦

5年連続2ケタ勝利の頼れる右腕・館山昌平投手 【ヤクルト球団】

 そうだ、あの年も開幕は神宮の阪神戦だった──。
 ふとそんなことを思い出したのは、東京ヤクルトスワローズの私設応援団「ツバメ軍団」のメンバーと談笑している最中のことだった。

「あの時、14年ぶりの優勝!って盛り上がりましたけど、最後の優勝(2001年)から今年でもう12年になるんですよね」
 メンバーが口にした「あの時」とは、1992年のこと。78年に球団初のセ・リーグ制覇、日本一に輝きながらもその後は再び雌伏を強いられていたヤクルトが、就任3年目の野村克也監督の下で14年ぶり2度目のリーグ優勝を成し遂げた年だ。その92年の開幕戦が、神宮球場の阪神戦だった。前の年にカモにされたアンダーハンドの葛西稔を「ブンブン丸」こと池山隆寛の2本の適時二塁打などで攻略して快勝したのが、14年ぶりのVロードの第1歩となった。

 時は流れて今年、2013年。ヤクルトは5年ぶりに開幕戦を本拠地の神宮球場で迎える。その相手が阪神というわけだ。実は、小川スワローズにとって阪神は“天敵”と言っていい。2010年シーズン途中で小川淳司監督(当時は監督代行)が指揮を執り始めて以来、ヤクルトがセ・リーグ5球団の中で唯一負け越しているのが阪神なのだ。

開幕戦は館山vs.メッセンジャーが濃厚

 その“天敵”討ちの先兵として開幕マウンドに上がると予想されるのが、今年でプロ11年目を迎える館山昌平だ。昨年は右手血行障害の手術明けにもかかわらず、5年連続6度目の2ケタ勝利となる12勝をマーク。先発に専念した08年以降は6割8分5厘という高い勝率を誇り、阪神に対しては11年10月18日から5連勝中という“虎キラー”でもある。

 もちろん館山といえども、初の開幕投手というプレッシャーと全く無縁ではないだろう。だが、自身も現役時代にヤクルトで2度開幕投手を務めた荒木大輔投手コーチは言う。
「考え方によっては、ピッチャーにとっては自分が最初に投げる試合が“開幕”ですから、そういう割り切りはできると思います。ただ、館山とかマサ(石川雅規)とか、あの辺の選手はそれだけじゃいけないんでね。チームとして良いスタートを切りたいというのもありますし、それぐらいの重圧というか責任を感じてやってもらいたいですね。(開幕戦は)ただの1試合じゃないですから」

 対する阪神は来日4年目のメッセンジャーが、こちらも初の開幕投手濃厚。ヤクルトはこのメッセンジャーに対して11年は2勝5敗、3年間のトータルでも5勝7敗と苦戦している。しかし──。
「開幕はメッセンジャーか。(打つのは)無理やろ」
 言葉とは裏腹に、意味ありげに笑みを浮かべるのは、伊勢孝夫ヒッティングコーディネーターだ。
「ただ、甲子園や大阪ドームとここ(神宮)では別人やからなぁ。マウンドやら球場の雰囲気やらで、投げづらさがあるんとちゃうかな」
 確かにこと神宮でのゲームに関して言えば、ヤクルトはメッセンジャーに対して3勝1敗とむしろ分は良い。防御率も神宮では5.58と、他の球場でのヤクルト戦における1.87とは、天と地ほどの違いがある。

 そのあたりは、今年から一軍に昇格した「ブンブン丸」池山打撃コーチも先刻承知だ。
「勝負事はやってみないと分かりませんが、過去のデータではヤクルトに分がありますから、付け入るチャンスは十分にあると思います。具体的な対策は企業秘密ですけど、データの収集も終わってますしね」と、2年連続で2ケタ勝利を挙げている右腕の攻略に自信を覗かせる。

 この開幕3連戦では、話題の大物ルーキーの先発も取りざたされている。昨年は大阪桐蔭高で甲子園春夏連覇を達成した阪神の藤浪晋太郎だ。オープン戦でも150キロ超えの速球で周囲の度肝を抜くなど評価は高まるばかりだが、この藤浪を池山コーチはどう見ているのか。
「良いボールはあるんですけど、まだ成長しきっていない感じは受けます。ただ着々と成長してますし、10代は成長が早いですからね。プロの水に慣れてくると怖いかなという印象はあります。なんとかチーム一丸で攻略して、まずはプロの厳しさを見せたいですね」

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著者プロフィール

静岡県出身。地方公務員、英会話講師などを経てライターに。メジャーリーグに精通し、2004〜08年はスカパー!MLB中継、16〜17年はスポナビライブMLBに出演。30年を超えるスワローズ・ウォッチャーでもある。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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