「本気」と「尊重」で輝く子どもの未来を育む、三重ホンダヒートの熱血授業

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子どもたちに「本気」と「尊重」の大切さを伝える三重ホンダヒートのHEAT授業 【© MIE Honda HEAT】

「本気でやること」「一生懸命やること」の大切さを伝えたい――そうした思いのもと、ラグビーリーグワンの三重ホンダヒートは三重県鈴鹿市を中心とした各地の小学校で「HEAT授業」を展開。選手が子どもたちと一緒にチームを組み、様々なゲームを通じてラグビー憲章にもある「品位、情熱、結束、規律、尊重」を体験してもらうほか、いじめ撲滅を呼びかける活動を行っている。HEAT授業は過去3年間で88回実施され、6833名が参加。実施校アンケートでは満足度100%の回答だという。

 この取り組みが高く評価され、さまざまなスポーツ団体の広報・PR・情報発信に焦点を当て表彰する『スポーツPRアワード2024』の最優秀賞/ソーシャルグッド賞を受賞。施策の中心を担っている三重ホンダヒート普及・育成担当の上村素之さんに話を聞いた。

一流の選手たちと触れ、「気づき」と「成長」の場を提供

一流の選手たちとの交流を通じて子どもたちに「気づき」と「成長」の場を提供したいという思いからスタートした 【© MIE Honda HEAT】

――まず今回受賞した施策の概要から教えてください。

 スポーツを通じて子どもたちに「気づき」と「成長」の場を提供したいということで、HEAT授業というものをやっています。昨今は子どもが大人と関わる機会が少ないと思っていますので、一流の選手たちと関わることによって何か「気づき」や「成長」を得る機会になればと考えているんです。HEAT授業では子どもたちと選手がチームを組み、勝った喜びや負けた悔しさ、社会性を育むこと、目的・目標に対して頑張る姿、そして最終的には一人ひとりの違いを尊重しようという内容で組み立てています。授業の最後には選手による「いじめ撲滅」の寸劇をして、一人ひとりの違いを尊重することの大切さを伝え、みんなでいじめをなくそうというメッセージも伝えています。この授業は三重県の鈴鹿市を中心に、四日市市、亀山市、津市と行ける範囲でやっていますね。

――HEAT授業はどのような経緯で始まったのでしょうか?

 発端は本田技研の新入社員研修から始まっているんですよ。ラグビーを通じてチームのみんなで勝つ方法を考えて、いろいろと工夫していくことを研修で学ぶのですが、これを小学校の授業に落とし込みました。HEAT授業では、60分間の中でたくさんのゲームをします。ラグビーのコーチングはシンプルかつスピーディー、かつチャレンジさせて飽きさせないように工夫するというものがあるのですが、それをどんどん授業の内容に取り込んでいる感じですね。子どもたちには夢中になれる空間を作ることでいろいろな気づきを提供し、先生方にも体育の授業などで生かせるようなことを気づいてもらえればと思っています。具体的に授業の流れを説明しましょうか?

――ぜひ、よろしくお願いします。

 はじめに子どもたちが来る前に、選手たちには「子どもたちが輝くように期待を超える感動を提供してくれよ。俺は先生に対して感動を提供するから」とミーティングの中で伝えます。授業が始まって子どもたちが体育館に入ってきたら、選手たちはハイタッチと笑顔、そして元気な挨拶で迎えるんですね。それで冒頭の自己紹介では大人たちが全力で表現!「こんにちワー!(と大声で言って両手で大きな輪を頭の上で作る)」などを行います。そうすることによって、ここは安全な場所ですよということを子どもたちに分かってもらうんです。

 また、「“一流の人間”を目指してほしい」ということもここで伝えています。“一流”と“二流”の違いというのは、二流の人間は失敗したときにヘラヘラ笑ってごまかす。でも一流の人間は失敗を良い経験と捉えて頑張り続けるのだと。それで、「ここにいるお兄ちゃんたちは頑張り続けてラグビー界の一流の選手になったから、みんなも一流を目指して頑張ってほしい」という話をしています。(真剣に取組む意識付け)

チームみんなで考えること、工夫することを学ぶ 【© MIE Honda HEAT】

 そして、「約束してほしいのは、一生懸命やること。勝ったときは喜んで、負けたときは悔しいと表現してください」(勝負にこだわる心を醸成)という話をした後に、まずタグの取り合いっこのような単純なゲームから始まります。選手たちが手本を見せるのですが、勝ったときは「やったー!」と大喜び、負けたときはすごく悔しがる。それを表現すると、子どもたちみんなが同じ表現をするようになって空気が変わるんですね。

 その後、個人戦のゲームから選手も入ったチーム戦に変わっていくのですが、どうやったら勝てるかを工夫してもらうために作戦会議をするんです。結局、ズルいことをやっても勝てばいいんですよ。

――え? そうなんですか?

 はい、ズルいことだとルール化されていないのが悪いのであって、それをズルいと言ってはダメなんですよ。大人の社会だって、ズルいことをしてでも目的・目標に対して達成すればじゃないですか。でも、それが社会のルールや道徳的に反していたらもちろんダメですが、反していなければいろいろな方法があっていいと思うんですね。そこで子どもたちに伝えるんです。「これはズルいのではなくて、考えて工夫したことなんだよ」と。じゃあ、次はその方法をなくしたルールの中で工夫してやってくださいと、そう伝えながら競わせて、考えさせて、みんなでチーム感を作っていく。そうしてたくさんのゲームをして、最終的にはチームでできたこと、できなかったこと、楽しかったことを話し合ってもらうんです。

――そうやって子どもたちはチームのみんなで工夫すること、考えることを一緒に学んでいくんですね。

 はい。また、最後には選手たちが「いじめ撲滅」の寸劇をします。みんなで遊んでいる中、仲間外れのいじめで泣いている選手がいる。そして、いじめている選手にタックルして助ける選手が出てきます。それで、いじめをしていた選手は「いじめられていた選手の痛みが分かった」と。でも、一方でタックルした選手も相手を傷つけたことで「心が痛い」と。だから、やっぱり暴力はいけない。じゃあ、どうすればいいかと子どもたちに聞くんです。すると、「お口があるんだから話したらいい」という意見などが子どもたちからたくさん出てくるので、そうした寸劇などを通じて、いじめはダメ、みんなで仲良く遊ぼうということを伝えています。

 授業の後には三重ホンダヒートのナップサックをプレゼントして、選手のサイン会をして終了。これでだいたい1時間。このようなパッケージでHEAT授業をやっています。

伝えたいことは「尊重」と「本気でやる」こと

選手たちが寸劇を行い、いじめ撲滅を呼びかける 【© MIE Honda HEAT】

――HEAT授業を始めたのはいつごろでしょうか?

 2018年ぐらいですかね。その後、内容はだんだんと変わっていったのですが、2020年ごろからいじめ問題が社会的に深刻化してきたので、ウチのチームも社会課題を解決しないといかんなと。ラグビー憲章には「品位、情熱、結束、規律、尊重」という5つのコアバリューがあるんです。本田技研にも「人間尊重」というフィロソフィーがあって、「尊重」することは本当に大切だなと個人的にも思っていたので、それを授業の中に入れ込んでみようと思ったんです。人を尊重すれば、少しでもいじめがなくなるのではないかと。人によって強みもあれば、弱みもあるし、いろんな人がおってエエねんで、ということを伝えていければと思って今、この授業をやっています。

――「尊重」の気持ちを子どもたちに一番伝えたい。

 はい。「尊重」、それから「本気でやること」ですね。一生懸命やる、ってすごく大事なんですよ。やっぱり一歩引いて見ているだけではダメ。経験として成長できないし、その時間ってもったいない。せっかく集まるんだったら、その仲間たちと一生懸命取り組む姿勢が大事です。例えば文化祭、ゲーム、飲み会するにしても、仲間の中に入っていって、みんなで同じ時間を共有して、いいもんできなくてもエエやんみたいな。そういう時間を作りたいなということで、子どもたちには本気で取り組むことの大切さを一番に伝えていますね。また、ウチの選手たちも本気度が凄いんですよ。本当に自慢できる選手たちで、もう涙が出るくらい、一生懸命度が年々上がっていますね。

――いじめに関してはやはり、一番に解決しなければいけない大きな社会問題として捉えているのでしょうか?

 そうですね。やっぱり、大人の世界でもありますからね。この人はここに関しては長けているけど、この部分は長けていないなということが絶対にあるじゃないですか。みんなでそれを分かり合えばいいのに、足を引っ張り合う社会もある。そういうところを少しでもなくしていけたらなと思っていますね。

 僕もホンダの中で次に何をしていきたいか聞かれたときに「人間尊重を皆さんに伝えていく組織を作って、それを広げていきたい」と答えたんです。ホンダは仲間みんなで作っていく組織であってほしいですし、創業者の本田宗一郎さんもそういう考えの人だったと思うので、そういうことをもっとやって行こうよと。そんな、あり得ないことを言っていましたね(笑)。

――いえいえ、そんなことないと思います(笑)。

 そんな組織ないわ、って言われて(笑)。いやいや、ないじゃなくて、みんなで作っていくんですよ、って。でも、今はラグビーでそうしたことを伝えられることが分かりましたし、HEAT授業の1時間の中でいろんなことを感じられると思うんです。こないだも見学に来た本社の人たちが感動していました。「子どもたちがこんなに喜んでいる姿は見たことがない」って。今後は保護者の皆さんにも来ていただいてやっていけば、もっともっと変容するんじゃないのかなと思っています。家に帰った後もいろいろな話を親子でするでしょうし、感謝することの大切さや尊重することの大切さを話し合えるんじゃないのかなと思う。そういうふうに発展して、広がっていけばいいなと思っているんです。

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