平日ナイターに異例の動員! 川崎フロンターレ「ワルナイトカーニバル」の舞台裏に迫る

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平日水曜のナイターゲームに2万人もの大観衆が集結、「ワルナイトカーニバル」は大成功を収めた 【©KAWASAKI FRONTALE】

 2024年6月26日、平日水曜のナイターゲームにもかかわらずJ1川崎フロンターレのホーム・U等々力は2万人もの大観衆で膨れ上がった。クラブの人気マスコット「ワルンタ」を主役にし、氣志團とコラボするなど、これまでにない施策、演出で実施したイベント「ワルナイトカーニバル」はサポーター、ファンの心をつかみ、集客、売上ともに予想をはるかに超える大成功を収めた。

 この企画と取り組みが高く評価され、さまざまなスポーツ団体の広報・PR・情報発信に焦点を当て表彰する『スポーツPRアワード2024』の優秀賞(ユナイテッド賞)を受賞。川崎フロンターレ・カスタマーリレーション部 チケット・ファンクラブマネージャー兼満員プロジェクトリーダー(役職名)の加藤悠也さんに「ワルナイトカーニバル」の舞台裏を聞いた。

集客、売り上げともに予想をはるかにオーバー

――はじめに今回の施策に関する概要から教えてください。

 はい。川崎フロンターレには「ワルンタ」という名前のマスコットがいるのですが、そのワルンタを主役にした「ワルナイトカーニバル」というイベントを、6月26日水曜日・19時キックオフの湘南ベルマーレ戦で実施しました。ほかのスポーツでも同じだと思うのですが、平日のナイターゲームはかなり集客が厳しい状況です。そこでフロンターレでは全社横断で「満員プロジェクト」という20人くらいの組織をシーズン開幕の時期に立ち上げて、平日の注力試合をいくつか設定した中の最初の試合が6月26日でした。

 一番の目的はスタジアムを満員にすること。そのためにいろいろと考えている中で「仕事や学校をサボってでも平日の試合に来てもらえないかな……」と思ったんですね。それで、「あ、サボると言えば、ワルンタだ」と(笑)。ワルンタは直近でテレビ出演したり、Jリーグのマスコット総選挙2023でクラブ史上最高の2位になったりと注目を集めていたのですが、悪キャラ、サボりキャラなんですよ。そうした流れから、ワルンタを主役にしたイベントを企画・構成して、動画やSNSのほかグッズ、グルメなど様々な施策を掛け算していくことでファン、サポーターの皆さんに共感してもらえるような働きかけをしていきました。

――「ワルナイトカーニバル」を実施して、どのような成果がありましたか?

 一番重視していたのはやはり「満員プロジェクト」という名前の通り入場者数となります。もともと、頑張って18,000人くらいかなという目標入場者数を立てていたのですが、実際には20,720人もの人たちが来てくれました。この日の平日ナイターではフロンターレ以外にも10数試合やっていました、2万人を超えたのは川崎と広島くらいだったと記憶しています。そこが一番の成果かなと思っています。

 また私自身が嬉しかったことなのですが、このイベントをきっかけにもともと試合に行く気がなかったけど観戦してみようと思った方や、迷っていたけど観戦しようと思ったという方たちが20%ほど増えたこと。また、誰かを試合観戦に誘った人のうち半分以上がこのイベントをきっかけに誘ってくれたところが良かった点だったと思います。

 また、補足となりますが、売り上げ面でもかなり伸びまして、シーズン当初の予算に対して140%達成となり、社内的にはかなり良かったことでしたね。

――一番の目的だった集客面で予想を大きく上回ったのは素晴らしい成果でしたね。

 これまでも平日ナイターでは色々と企画を実施してきたのですが、頑張って18,000人。もし19,000人行けば凄いなという感覚だったんです。ですので、社内では平日夜に2万人なんて行かないだろうという空気はずっとありましたね(苦笑)。

プロジェクト立ち上げから4カ月でイベント実施

川崎フロンターレの各施設でも「ワルナイトカーニバル」を積極的にアピール 【©KAWASAKI FRONTALE】

――そうした空気を打ち破っての2万人超えはなおさら価値がありますね。今回の「満員プロジェクト」は社内部署横断プロジェクトとのことですが、フロンターレさんでは初めての試みだったのでしょうか?

 はい、初めてのことでしたね。集客に関しては横串が刺さっているようで実際は各部署それぞれで動いていたようなところは散見されていました。そうした中、2024年2月のACLの重要な試合でチームがすごく悔しい負け方をしてしまったんですよ。それをきっかけに「本当に僕たちは選手を後押しできているのか?」「ファン・サポーターを楽しませているのか?」ということを社長も含めて重く受け止め、全社横断での満員プロジェクトが立ち上がりました。

――2024年2月の試合がきっかけとなり、満員プロジェクトの最初の試合が6月26日ですから、その間はわずか4カ月。かなりスピード感を持って実施した施策となりますね。

 そうですね。2月20日のホーム戦で中国・山東泰山に2対4で負けてしまい、その翌週には満員プロジェクトを立ち上げていました。その後、4月に平日のJリーグ、ACLの中から計5試合を注力試合に選定して、その初めての試合が6月26日の湘南ベルマーレ戦でした。社長を含め経営陣がある程度自由にやらせてくれたので、企画に関しても即決即実行でやりきれたのが大きかったですね。

――今回の「ワルナイトカーニバル」をはじめとして、満員プロジェクトを進めていく中でサポーター・ファンの方たち向けた一番の思いはどのようなものだったのでしょうか?

 やっぱり「平日でもフロンターレはすごく楽しいことやっているんだよ」、「平日にスタジアムに来ても楽しい!」ということを知って、体験していただきたいと思っていたことが一番ですね。土日に来れば色々と楽しそうなことをやっているイメージはあるかもしれませんが、水曜ナイターも試合だけじゃなく興行として楽しいよということをあらためて知っていただきたいなと思っていました。また、いつも来ていただいているコアなサポーター、ファンの方たちが「これがあるから一緒に行こうよ」と誘いやすい形になればいいなと思っていましたね。

「平日は集客できない」固定概念をどう振り払うか

――一方で、社内で初めての全社横断プロジェクトということもあり、大変だったこと、苦労されたこともあったかと思います。

 そうですね。社内では「平日にお客さんは入らない」という固定概念がありましたので、それをどうやって振り払うか。そのために社長が「いったん予算やお金を度外視しても集客して、成功体験を積み上げていこう」という話をしてくれましたので、それに応えるためにもどうやってメンバーをやる気にさせるかという部分に関しては、今もですが、ずっと悩んでいるところではあります。そうした中で、一番苦しんだのはイベントのテーマ(コンセプト)、アイコン、ターゲットなどを設定することでしたね。

 また、トップから「予算は度外視」と言っていただいたものの、使うからには最低でも回収はしないといけないですし、スタジアムを満員にすることで売り上げや収益にはどのように反映するのかと経営層は気にしていますから、僕の立場としてはメンバーには伝えませんでしたが、お金の勘定のバランスを取るのが大変でした(苦笑)。

――テーマと言えば、ワルナイトカーニバルでの「サボってこい」というキーワードがとても印象に残りました。一般的にはあまり良い意味では使われない言葉であえて呼びかけたところが面白いなと感じました。

 実は、6月26日の集客を頑張ると決まった後すぐに、ファンクラブ担当者が「MLBでは首振り人形を来場者にプレゼントしていますよ」という話を持ってきてくれて、「今、ワルンタがすごく人気になっているから、クラブではまだやったことがないフィギュアのプレゼントをやってみはどうですか?」と。しかも、その担当者はすでにデザイン画まで起こしていたんですよ(笑)。

 そこからワルンタを主人公にしてどのようなストーリーで行こうかとプロジェクト内で話していく中で、僕たちが集客に悩んでいること、学校や会社をサボってでも来てほしいということを、もう赤裸々に伝えていこうとなったんです。

――そうしたフロンターレさんの正直な思いがファンの方たちにも刺さったのですね。

 たぶん、ワルンタの悪キャラ・サボりキャラもファンの人たちは分かっているので、面白がってくれたんだと思いますね。

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