来場1万2000人、コスト減、地元にも愛される空手のお祭りウィーク 成功のキーワードは「統合」

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複数大会を一度に開催する空手のお祭り「KARATE WEEK」、2024年は8月8日~12日に東京武道館で開催され約1万2000人が来場する盛り上がりとなった 【公益財団法人全日本空手道連盟】

 東京都足立区の新たな夏の風物詩となるかもしれない。全日本空手道連盟が2023年、24年と2年続けて8月に東京武道館で開催した空手のフェスティバル「KARATE WEEK」。これまで別々に開催されていた複数カテゴリの大会を1つの大会に集約したことで、コストカットのみならず、来場者数も1万2000人に大幅増加、開催地である足立区との連携・地域活性に貢献したほか、パラ大会への興味関心を広げるなど画期的なイベントとなった。

 この企画と取り組みが高く評価され、さまざまなスポーツ団体の広報・PR・情報発信に焦点を当て表彰する『スポーツPRアワード2024』のコミュニティ賞を受賞。全日本空手道連盟の笹川善弘副会長、大会担当の岡﨑紀創さんにKARATE WEEK開催の裏側を聞いた。

3大会分の設営費をカット、1つの一大お祭りに

2024年は全日本少年少女空手道選手権大会、全日本パラ空手道競技大会、全日本空手道体重別選手権大会の3大会を統合して開催 【公益財団法人全日本空手道連盟】

――始めに、今回受賞した施策の概要を教えてください。

笹川 はい。ひと言で言いますと「統合」された大会、それがKARATE WEEKです。2023年、24年とこれまで2回開催してきまして、その構想自体は3年前の2022年から始まりました。2022年は私たちにとって転換期でして、東京オリンピックが終わり、また新型コロナの影響もあったことから経営的な見直しを連盟全体で行っていたのですが、その際にどこを効率化できるかと分析していった中で、大会の数自体が非常に多いことに着目しました。それで大会ごとに財務分析をしたところ、面白いことに大会の大小関わらず設営のコストが全体の経費の3割から3割5分だったんですね。

――設営費って、結構かかるんですね。

笹川 そうなんですよ。なので、例えば4大会やるところを1回の大会に統合して中身のコンテンツを変えていけば、3回分の設営費が消える。もちろん、この時点ではペーパー上の計算なのですが、大会の統合はこれまでやったことなかったけどやってみようという話になったのがKARATE WEEKのきっかけでした。昨年は8月8日から12日の5日間で3大会を実施して、おかげさまで大変な好評をいただきました。1万2000人もの方に来場いただいて、大会の収支としても非常に良かったです。ファンの方々にもとても喜んでいただくなど、特別な1週間になったと思います。

――では、昨年のKARATE WEEKでは5日間でどのようなコンテンツ、イベントを実施したのでしょうか?

笹川 コンセプトは「空手のフェスティバル」「空手のお祭り」。出場する選手はもちろん、応援に来ていただく方々にとっても楽しく、思い出に残る大会にして、なおかつ、地元の方たちにも愛される大会にする。実はこれまで、私たちは「地元に愛される」ということについてはあまり考えたことがありませんでした。プロスポーツでは地域密着という考え方は広まっていますが、私たち連盟はどうしても「大会を開催する」ということが主軸になっていた部分があるので、そこを変えて「地元に愛される」ということをコンセプトに据えたことが大きかったと思いますね。

岡﨑 コンテンツとしては、第1回目の2023年は中学生の全国大会、小学生の全国大会、パラの全国大会、体重別の全国大会の4つを統合して実施しました。2024年は中学生の全国大会がもともと開催地持ち回りでしたのでこれを除いて、残りの3つの大会を統合して実施しました。これまで一つの大会で開催していた時は試合だけで完結していたのですが、お祭り的な盛り上げを作るためには選手、スタッフ、そして地元の方たちも巻き込むような楽しいイベントが必要ということで、試合以外の色々な施策を実施したことがこれまでの大会とは大きく違った点になると思います。

これだけ地元に歓迎される大会なんて今までなかった

地元から愛される大会を目指し、足立区の行政や商店と連携して地域活性に貢献 【公益財団法人全日本空手道連盟】

――その地元も巻き込むイベント、施策について印象に残っているものを教えていただいてもよろしいでしょうか?

笹川 KARATE WEEKのスタッフTシャツを作ったのですが、大会会場の東京武道館の目の前にある東綾瀬中学校の生徒さんにデザインしてもらったんです。これがまず、私の中で印象に残っていますね。

 それで、大会前には会場の周りにあるお店、居酒屋さんなどに足を運び、「今度大会があるのでポスターを貼ってください。もし良かったら大会期間中にこのTシャツも来てください」とプレゼントするのですが、1年目はやはり初めてのことでしたので結構厳しいことを言われてしまったこともありました。でも、2年目の昨年はむしろ「もうそんな時期なの? 今年は3枚くださいよ」という感じで協力していただける店舗数も増えていきましたね。これだけ地元に歓迎されている空手の大会というのは、私の知る限りはKARATE WEEKしかないです。

――それだけKARATE WEEKのインパクトが地元にとっても大きかったということでしょうし、今後も継続していけば足立区の風物詩として根付いていきそうですね。

岡﨑 私の方からも印象に残っている取り組みを一つ、紹介させていただきます。今回、SDGsワークショップというものを実施しました。これは空手とは全く関係がないのですが、「大会をコンパクトにする」というコンセプトのつながりから、より環境に配慮して地元にも還元する取り組みをということで、廃食用油で石鹸を作る、アップサイクルでキーホルダーを作る2つのワークショップを開催しました。武道館の中にブースを設置して子どもたちに体験してもらったのですが、夏休み期間中でもありましたので、子どもたちにとっては自由研究にもなったと思います。

 また、このワークショップの主催・講師に関しては足立区のSDGs担当部署を通じて募集した中からやっていただけましたので、地域の人材を活用する点でも良かったですし、足立区との連携という意味でも非常に良かったなと思っています。また、これがきっかけで全日本空手道連盟が足立区のSDGsパートナーに登録するなど行政とのつながりができましたので、今後もぜひそういった取り組みをやっていきたいですね。

――地元の商店のみならず、区や行政とのつながりができたというのは素晴らしいですね。そのほか、大会によって得られた成果と言いますと、どのようなものがありますか?

笹川 複数の大会を1週間に集約することによって、出場する選手が大幅に増えますよね。それに伴って選手の家族や応援する人たちの来場も増えますので、来場者が1万2000人にもなりました。そして、来場者が増えることによってTシャツ、道着などを販売する業者さんの出店意欲も非常に増しまして、11社15店舗ほどにもなりました。これまで2ケタの出店数になったことはありませんでしたから。

――業者さんから見てもそれだけ魅力的な大会になったということですね。

笹川 はい、そう思っていただけると嬉しいですね。また、大会のコスト面についてですが、4大会分の設営を1大会分に抑えられたほか、スタッフ数に関してもコンパクトにすることができました。これまで大会は週末に行われてきたので、4大会を続けて開催すると1カ月分の週末を毎週使うことで負担も大きくなります。でも、1つの大会にまとめることで、1週間単位では拘束期間が長くなるスタッフもいますが、短期集中によってスタッフの負担は全体的に減りました。それにより、スタッフ数も20%減らして効率化を図ることができましたね。

パラ空手を多くの人たちが見るきっかけに

パラ大会を多くの人たちが見るきっかけにもなった 【公益財団法人全日本空手道連盟】

笹川 そして、社会的な意味でもパラ大会ですごく嬉しかったことがありました。正直に言いますと、これまでパラ大会は観客動員では最も苦戦していたんです。でも、1日の試合スケジュールの中で小・中学生の大会や体重別大会の間にパラ大会を置くことで、たまたまかもしれませんが、観客が非常に増えて、これまでの3倍近くにもなりました。もともと母数が少なかったというのもありますが、今までパラ空手を知らなかった方々の目に触れる機会が増えたのが非常に良かった。また、パラ選手のレベルは健常の選手と変わらないくらい高いので、驚かれた方も多かったようですね。パラの選手たちも喜んでいましたよ。

――パラ空手と言えば、2024年大会では子どもたち向けにデフ空手の体験会も実施したとお聞きしています。

岡﨑 はい、小学生大会の開催期間中に耳の聞こえる子どもたちを対象に実施しました。こちらについても講師は地域の方からの紹介で来ていただいて、実際に耳が聞こえない状態で空手をするとどうなるのかということを体験してもらいました。また、空手だけでなく、耳の聞こえない方たちの日常生活や、その中で困っていること、どのような関わりをすればいいのかを体験してもらうなど、これらを一つのパッケージとして実施したところ、非常に満足度の高い反響をいただきました。2023年大会ではブラインド空手など視覚障がいをテーマにしたワークショップを開催しておりまして、今後も継続していきたい施策の一つとなっています。

――KARATE WEEKに関して、実際に出場した選手からはどのような反響がありましたか?

岡﨑 パラ空手の選手からはYouTubeライブ配信に対する満足度が非常に高かったですね。1日のスケジュールの中間にパラ大会を組み込んだことで、午前中の体重別大会から撮影機材をそのまま使用でき、コストもかからず配信できる環境が整いましたのでパラ大会も2023年から初めてライブ配信することができたんです。大会後のアンケートでも5段階評価のうち「とても満足している」と回答した選手が70%を超えていました。先ほどの認知度にもつながる話ですが、パラ空手の選手にとってライブ配信は非常に嬉しいことだったと実感できる出来事でしたね。

――トップ選手からの反響はいかがですか?

岡﨑 はい、これは私たちとしても意外なことだったのですが、東京オリンピック銀メダリストの清水希容さんが大会にいらっしゃって、「パラ空手を初めて目の前で見ました」とおっしゃっていたんです。それ以降、パラ空手に関して非常に興味を持っていただいて、我々の方で作成しているパラ空手向けの教材にも色々と協力していただきました。様々な大会を統合することでトップアスリートが初めてパラ空手をナマで見る機会を作れたことが非常に良かったと思います。また、清水さん以外の選手でも「パラ空手を初めて見た」という選手は多かったので、これは私の想像ではあるのですが、良い影響があったのではないのかなと思いますね。

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