SVリーグの選手が語るそれぞれの「春高」 彼女たちは何に気づき、どう活かすのか?

田中夕子

春高を観戦して得たもの

24年の大会で笠井(写真左)は旭川実業をセンターコートに導いた 【写真は共同】

 そんな笠井にとって、「原点」であり「スタート」と振り返るのが春高だ。

 とにかく必死で戦い抜いた結果、やっとたどり着いた、というセンターコート。連戦で体力は限界、結果だけを見れば下北沢成徳に0対3で敗れはしたが、「全員の力を合わせてたどり着いた場所で、最後まで戦えたことが嬉しかった」という準決勝を「自分にとってはスタートライン」と笠井は言う。

「実は今年も春高を見に行ったんです。その日はまだ4面で試合をしていたので、センターコートの雰囲気とは違ったんですけど、でもやっぱり、春高でしか感じられない特別感がある。どこのチームも3年生を中心に、一生懸命戦っていて、その姿は高校生でしかないような素晴らしさ、1点1点をつないで取った一本の喜びは春高でしか味わえない、人の心を動かせる力があるな、って。あの頃も今も、壁に当たることはありますけど、でも春高を見て、またSVリーグを戦うやる気が出てきました」

 春高に「力をもらった」「新たな気づきを得た」と言うのは笠井だけではない。下北沢成徳から東京女子体育大を経て今季入団し、久光戦でも活躍した吉永はこう言う。

「女子の準決勝と男女決勝を映像で見ました。自分たちの頃に比べて攻撃も多彩で、レベルが高い。オフェンス力だけでなくディフェンス力も上がっていて、組織として戦っているチームが多くて、それぞれの役割を果たしながら精度の高いプレーをして、勝負所では勝ちたい気持ちがぶつかり合う。たくさんの刺激を与えられました」

春高の経験を活かして

深澤めぐみは春高の経験を活かし、久光の主力として活躍している 【写真提供:SV.LEAGUE】

 対戦相手の久光でアウトサイドヒッターの対角に入る深澤めぐみと、北窓絢音も同じだ。

 2021、22年の春高を就実で連覇した深澤は「高校生のレベルがすごく高いと感じた」と振り返りながら「春高は自分のバレー人生を変えるような大会だった」と言い、大舞台の経験が、久光でレギュラーをつかんだ今シーズンにも生かされていると胸を張る。

「私たちの春高は無観客で、観客はいなかったですけどあれだけ大きな会場で試合ができて、相手は必死に自分たちを倒そうとしてくる中、勝ち切ることができた。今、SVリーグを戦っていてもフルセットになったり、デュースを繰り返したり、苦しいことはたくさんあるんですけど、そういう状況でも堂々と戦えているのは春高の経験が大きいです」

 勝った経験が力になった、という深澤とは異なり、誠英高のエースで主将として出場した23年の春高で準優勝した北窓は、むしろ「忘れかけていた悔しさや高校時代の原点を再確認した」と言う。

「昨年末の皇后杯で負けた時に、すごく悔しかったんですけど、春高の最後で取り切れなかった悔しさを忘れていたかもしれない、と思いました。誠英高校は“どろんこバレー”を掲げて、どんな相手にも粘り強く、サボらず戦ってきた。そういう原点を再確認できたし、気付かされたことがいっぱいあった。もう1回ここから、今日の自分の課題を見直して、やれることをやっていきたいと思いました」

 春高は女子が共栄学園、男子は駿台学園が制し、閉幕した。かつて自分も同じ場で戦った春高から得た学びや気づきを、オールスターを経て再開するSVリーグでどんなふうに活かしていくのか。高校生たちだけでなく、元高校生の選手たちにとっても新たな幕開けとなるはずだ。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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