高校サッカー選手権は新たなフェーズへ チームカラーと選手層が重要になる傾向が加速
第103回全国高校サッカー選手権大会はPK戦の既に前橋育英の優勝で幕を閉じた 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】
明暗はくっきりと分かれたが、彼らが見せた110分間の戦いはハイレベルで戦術的な側面や個人技術の部分、そしてエンターテインメントとしても非常に濃密な時間だった。来場者数は高校サッカー決勝史上最多となる58,347人を記録し、観客にとっても決勝にふさわしい戦いだったに違いない。
選手権を勝ち抜くために必要なこと
流経柏の亀田歩夢(中央)も自身のプレースタイルと課題を踏まえ、進む学校を選んだ1人だ 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】
前者においては、ここ10年でよりその傾向が強まったように感じる。パスサッカーなどとも表現されるが、基本的には狭い局面でダイレクトパスや3人目の動きを駆使して打開しつつ、ミドルパスやロングボールを駆使して縦幅、横幅を効果的に使って打開もできるという戦術的柔軟性を持っているチームが増えた。裏を返せばそういうサッカーを標ぼうしないと選手が集まってこないという現状もある。
近年、高校年代を取材していて感じるのは、チームの伝統や看板に影響を受けて進学する選手が減ったことだ。もちろん高校選手権の舞台や学校のユニフォームに憧れて入ってきた選手もいるが、多くの選手は「このサッカーが自分には合っている」「ボールを大事にするチームでサッカーをしたい」と、自分のサッカー観とチームカラーを重ね合わせて、「ここなら成長できる」「ここなら自分が望むサッカーができる」という尺度でチーム選択をしている印象を受ける。
流経柏の亀田歩夢のように「フィジカルやプレー強度を求められる環境だけではなく、つなぐ部分や技術面も非常に大事にしていると感じたからこそ、ここなら自分の技術も課題のフィジカルやプレー強度も同時に磨けると思った」と、自分のスタイルに合っている部分と課題の部分を両方兼ね揃えているからという理由の選手も多かった。
実際に過去10年で見ると東福岡、青森山田(4回)、前橋育英(2回)、静岡学園、山梨学院、岡山学芸館の優勝チームはどれも明確なチームカラーがあった。準優勝チームを見てもそれに当てはまる。この流れはこれからもより加速するだろう。
トップに加え、セカンドチームのカテゴリーの重要性
ユース年代のサッカーは高円宮杯プレミアリーグ(全国を東西に分けた24チームのリーグ戦)、プリンスリーグ(全国9地域)、都道府県リーグという通年リーグがある。プリンスの関東、北信越、関西、九州は2部も存在し、都道府県リーグは4部、5部などにわたる地域もある。
1年間の集大成である選手権を勝ち抜くには、プレミア、プリンス1部に所属し、ハイレベルな試合経験を積み重ねて選手、チームのレベルを上げておかなければならない。加えて、「セカンドチームがどのカテゴリーにいるか」も重要な要素になっている。これが新たなフェーズだ。
戦術レベル、技術レベルが上がる一方で、“球際、切り替え、運動量”と言われるように、フィジカル面やプレー強度、走力がより求められるようになってきているからこそ、選手の消耗度も激しくなる。
昔と比べると選手権は試合間隔が空くようにはなったが、それでも中1日の連戦が続く準々決勝まではかなり負担が大きい。ましてや今回はカレンダーの関係で準々決勝から準決勝が中6日なったが、来年以降は1年で1日ずつ減っていくことを考えると、過酷なトーナメントであることには変わりない。
さらに登録メンバー、ベンチ入りメンバーが増え、2020年以降は交代選手枠も5人に広がった。そうなると戦術的な変化、コンディション面に考慮した交代をより戦略的に使うことができ、その交代選手のレベルが非常に重要になる。誰が出ても変わらないのが理想で、そこまでいかなくても戦力ダウンの幅が抑えられる選手がいることは重要な条件となる。