選手権の大舞台で輝いたタレントは? 4強で最後に生き残るのは? 高校サッカー通による準決勝直前対談【後編】

吉田治良

バイオリズム的に上向きな前橋育英

シーズンが深まるにつれて調子を上げてきたのが前橋育英だ。休息日の6日間で怪我人の回復も見込めるだけに、2017年大会以来の優勝は十分に狙える 【写真は共同】

──ではここからは、今後の展望に移りましょう。今大会は準々決勝から準決勝までの間に、6日間という長い休息日が設けられています。このレギュレーションは準決勝以降の戦いにどんな影響を及ぼすと思いますか?

森田 プラス面とマイナス面、どちらの影響もあるんじゃないですかね。地元に一度帰るチームもありますが、そこで日常生活に戻った時に、緊張感を維持するのが難しくなるかもしれない。

土屋 それもあって前橋育英は地元に戻らず、違う場所で調整をしていますね。

森田 東海大相模もそうすると聞いていますが、東福岡は一度、福岡に戻るそうです。いずれにしても、この6日間の過ごし方が1つのポイントになるのは間違いないでしょうね。

土屋 単純に、怪我人とか体調不良者の回復という意味では、6日という休息日はすごく大きな意味を持つと思います。前橋育英なんかは結構コンディションに不安を抱えている選手が多くて、山田(耕介)監督も「なかなか想定していたベストメンバーが組めない」とおっしゃっていたので、ここで6日間空くのはプラス材料だと思います。

森田 ただ、この季節はインフルエンザも含めて、新たな体調不良者が出るリスクもありますからね。

──では、ずばり優勝するのはどこだと思いますか?

土屋 単純に実力の比較で言えば、やっぱり流経が頭1つ抜けているでしょうね。ただ、それだけですんなり決まらないのが選手権ですし、この1年高校サッカーを取材してきた流れで見ると、バイオリズム的には前橋育英が今、いい感じに上がってきているんじゃないかと思いますね。

 実際、今シーズンのプレミアリーグEASTは開幕3連敗スタートで、夏のインターハイ予選も準決勝で敗れるという不本意な前半戦を過ごしましたが、最終的にはプレミアで優勝争いをするまでに状態を上げてきましたからね。そして今大会も、2回戦で愛工大名電にPK戦まで追い詰められという土俵際から、ベスト4まで這い上がってきた。そういったストーリーも、前橋育英を後押ししているような気がしています。

国立の雰囲気をポジティブに変換できるか

今大会で旋風を巻き起こす東海大相模は、準決勝で強豪・流経大柏までも飲み込んでしまうのか。沖本らタレントも粒ぞろいで、4強入りは決してフロックではない 【写真は共同】

──森田さんはどうですか?

森田 僕も実力的には流経が抜けていると思います。個性的な選手たちが1つにまとまって、優勝という目標に向かって加速している勢いも感じもしますし。あとは夏のインターハイでも露呈したトーナメント戦の弱さという課題を、今大会の戦いを通じて克服し、自信を手にした印象もあります。巧さと勝負強さを兼ね備えたチームへと進化した流経が、このまま頂点まで駆け上がるんじゃないかと見ています。

 ただ、東福岡の堅守も大きな強みですし、流経が準決勝で対戦する東海大相模も、まだ何か持っていそうな気もするので……(笑)。準々決勝後に東海大相模の有馬(信二)監督が、「バレるまで12人で戦うしかない」と冗談で話されていましたが、秘策があるかもしれません。

土屋 確かに、おそらく対戦経験が全くないチームなので、流経も戦いながら東海大相模の特徴をつかんでいく難しさはあるでしょうね。

──今大会の東海大相模の躍進は、「データ不足」にも支えられている?

森田 いや、タレントもそろっていますし、普通に強いですよ。各ポジションにこれといった穴がありませんからね。

──もしかしたら、流経を食う可能性も?

土屋 ありますよ。ベスト4になったら何が起きてもおかしくありませんから。それに会場が国立競技場ですしね。勝ち上がった4チームで、国立のピッチに立った経験がある選手って、たぶん1人もいないはずなんです。あの雰囲気をポジティブに変換できるか、逆に飲み込まれてしまうかっていうのは、実際にそこに立ってみないと分からないと思うんですね。そこはもう、実力云々とは別次元の話ですから。

──メンタルコントロールを含めた監督の手腕も問われますね。

土屋 そうですね。ただ1つ言えるのは、4人の監督さんは、みんな個性的でキャラが立っているってことです(笑)。

森田 4人とも愛したくなるキャラクター。取材をしていても、「この人、好きだな」って思えるような。

土屋 東海大相模の有馬監督って福岡の東海大第五出身で、1年生から3年生までレギュラーとして選手権に出場しているんですけど、調べてみたら、1年生の時に3回戦で東北学院に負けていたんです。だから今回、同じく3回戦で東北学院と対戦することが決まった時に、もしここで勝ったら42年越しのリベンジになるなって、僕は密かに思っていたんですよ。

 それで、実際に3-0で勝った試合後に、「1年生の時の選手権で東北学院に負けていましたよね?」って監督に聞いてみたんです。そうしたら、「ああ、そうだ! 忘れてましたー!」って、本人がすっかり忘れていた(笑)。でもそのやり取りで、42年前の自分のことなんかより、今の選手たちのことだけを考えて生きているんだなって、十分伝わってきましたけどね。

──前橋育英の山田監督も、ずいぶん長いですよね。

土屋 就任43年目の65歳。今大会の最年長監督です。でも、すでに教員を退職されて、逆に今が一番サッカーを楽しんでいるのかもしれません。公式戦が終わった後、真っ先に映像の分析をするのは山田先生ですから(笑)。

森田 みなさん心の底からサッカーを愛しているし、子どもが好きだし、バイタリティーが凄いですよね。

土屋 本当に、頭が下がります。

(企画・編集/YOJI-GEN)

土屋雅史(つちや・まさし)

群馬県出身。高崎高3年時にインターハイでベスト8に入り、大会優秀選手に選出される。2003年に株式会社ジェイ・スポーツへ入社。サッカー情報番組『Foot!』やJリーグ中継のディレクター、プロデューサーを務めた。当時の年間観戦試合数は現場、TV中継を含めて1000試合に迫ることもあったという。21年にジェイ・スポーツを退社し、フリーに。現在もJリーグや高校サッカーを中心に、精力的に取材活動を続けている。

森田将義(もりた・まさよし)

1985年、京都府生まれ。路頭に迷っていたころ、放送作家事務所の社長に拾われ、10代の頃から在阪テレビ局で構成作家、リサーチャーとして活動を始める。その後、2年間のサラリーマン生活を経て、2012年から本格的にサッカーライターへと転向。主にジュニアから大学までの育成年代を取材する。『エル・ゴラッソ』『ゲキサカ』『サッカーダイジェスト』『サッカークリニック』などに寄稿している。

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著者プロフィール

1967年、京都府生まれ。法政大学を卒業後、ファッション誌の編集者を経て、『サッカーダイジェスト』編集部へ。その後、94年創刊の『ワールドサッカーダイジェスト』の立ち上げメンバーとなり、2000年から約10年にわたって同誌の編集長を務める。『サッカーダイジェスト』、NBA専門誌『ダンクシュート』の編集長などを歴任し、17年に独立。現在はサッカーを中心にスポーツライター/編集者として活動中だ。

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