情報戦が進む“ネタバレ”の選手権で見た胸熱シーン 高校サッカー通による準決勝直前対談【前編】

吉田治良

“ザ・高校サッカー”という胸熱シーン

準々決勝で敗れ、2年連続の国立行きを逃した堀越。キャプテンの竹内(中央)が号泣し、副キャプテンの森章博と抱き合ったシーンには様々な想いが込められていた 【写真は共同】

──では、お2人が選ぶベストシーンは?

土屋 堀越が準々決勝で前橋育英に敗れた後のシーンですね。堀越って、選手主導でスタメンも戦術も決める“ボトムアップ方式”で知られていますが、そのチームのキャプテンである竹内(利樹人)選手が、インターハイ予選の後に怪我をして5ヵ月くらい戦列を離脱していたんです。その間、キャプテンの役割を担っていたのが、副キャプテンの森章博選手。実はこの2人、同じ右サイドバックでポジションがかぶるんです。だから選手権予選で竹内選手が戦列に復帰すると、森章博選手は控えに回ることになってしまった。

 去年、2人は2年生で準決勝の国立競技場のピッチに立って、1年後にまたここに戻ってこようと誓い合っていたんですが、前橋育英に敗れてその夢は叶わず、しかも今大会、森章博選手は結局1試合も出場できなかったんです。

──それは辛い……。

土屋 試合後、竹内選手は森章博選手と抱き合いながら号泣していたんですが、何が辛いって、自分が戦列に戻ってきたことで、それまでチームを支えていた仲間が試合に出られなくなって、それを決めているのが他ならぬキャプテンの竹内選手自身だということなんです。森章博選手はそれを笑顔で受け止めていましたが、あのシーンには彼ら2人にしか分かりえない感情が集約されていたようで、ちょっと胸が熱くなりましたね。

森田 そういう“ザ・高校サッカー”っていうシーンを見ると、心に響きますよね。

土屋 響きます、ビンビン来ちゃいます(笑)。

森田 僕は金沢学院大附対鹿児島城西戦(1回戦)のPK戦で見たワンシーンですね。金沢学院の4番手、キャプテンの山下(聖真)選手がキックを外すんですが、その直後にゴールキーパーの石山(アレックス)選手に、「お前が止めてくれ」っていう想いを込めてキャプテンマークを手渡したんです。そうしたら、石山選手が見事に次のキッカーを止めて、結局PK戦に勝利するんです。本当に漫画で見るようなシーンだったので、すごく印象に残っていますね。

土屋 あるんですよね、選手権って。そういう漫画みたいなシーンが本当に。

森田 しかも石山選手は川崎フロンターレU-15出身、会場が等々力(Uvanceとどろきスタジアム by Fujitsu)という舞台設定もあって……。彼、2年生なんですけど、高校を入り直しているので、年齢的には3年生と同い年なんです。試合後に、「3年生をここで終わらせるわけにはいかなかった」って話を聞いたときは、ちょっとウルって来ちゃいました。

──お2人とも、感傷に浸りたがりなんですね(笑)。

土屋 僕らはね、どっちかっていうとそっち寄りなんですよ。取材者としてのスタンスは(笑)。

森田 ハハハハ、確かに。でも、PK戦でキャプテンマークをゴールキーパーに渡すシーン、今年はめっちゃ増えましたよね。ここ数年のトレンドみたいですけど、あれ、すごくいいなあって思います(笑)。

※後編に続く

(企画・編集/YOJI-GEN)

土屋雅史(つちや・まさし)

群馬県出身。高崎高3年時にインターハイでベスト8に入り、大会優秀選手に選出される。2003年に株式会社ジェイ・スポーツへ入社。サッカー情報番組『Foot!』やJリーグ中継のディレクター、プロデューサーを務めた。当時の年間観戦試合数は現場、TV中継を含めて1000試合に迫ることもあったという。21年にジェイ・スポーツを退社し、フリーに。現在もJリーグや高校サッカーを中心に、精力的に取材活動を続けている。

森田将義(もりた・まさよし)

1985年、京都府生まれ。路頭に迷っていたころ、放送作家事務所の社長に拾われ、10代の頃から在阪テレビ局で構成作家、リサーチャーとして活動を始める。その後、2年間のサラリーマン生活を経て、2012年から本格的にサッカーライターへと転向。主にジュニアから大学までの育成年代を取材する。『エル・ゴラッソ』『ゲキサカ』『サッカーダイジェスト』『サッカークリニック』などに寄稿している。

2/2ページ

著者プロフィール

1967年、京都府生まれ。法政大学を卒業後、ファッション誌の編集者を経て、『サッカーダイジェスト』編集部へ。その後、94年創刊の『ワールドサッカーダイジェスト』の立ち上げメンバーとなり、2000年から約10年にわたって同誌の編集長を務める。『サッカーダイジェスト』、NBA専門誌『ダンクシュート』の編集長などを歴任し、17年に独立。現在はサッカーを中心にスポーツライター/編集者として活動中だ。

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント