今季から米PGAツアーに本格参戦 欧州ツアー優勝も経験した星野陸也の決意と原点
米国出発直前に取材に応じてくれた星野陸也選手 【北村収】
子供時代の多彩なスポーツと音楽経験が、今のプレーに生きている
星野陸也も幼少期は様々なスポーツを行ってきた。「小学校の頃はサッカーが大好きで、キャプテンも務めていました。他にもテニスや水泳、卓球と、いろいろなスポーツを楽しんでいました。持久走大会では上位に入り、リレーの選手にも選ばれましたね」と星野は振り返る。
「サッカーでは瞬発力や体力が養われ、下半身の強化にもつながりました。サッカーをやっていたので自然と地面反力を生かしたスイングが身につきました」と、他競技の経験が現在のゴルフに役立っていると語る。
音楽の経験も豊富だ。「ピアノは幼稚園の頃から9年間やりました。中学ではドラムも習っていて、音楽の先生には『絶対音感があるね』と褒められました」と、音楽を通じてリズム感を養ったことが今のスイングにも好影響を与えているという。「フィル・ミケルソンのスイングのリズムが大好きでした。一流プロのスイングには流れがありますが、僕は音楽をやっていたのでタイミングとかリズム感が良くなりました」
高校でゴルフ一本に専念!名門・水城高校で学んだ“ゴルフを超えた教え”
「高校からはゴルフだけに絞りました。入学時はゴルフ部の中で実績は下の方でしたが、強い選手と一緒に練習することで刺激を受けました。1年の冬には全国大会に出場し、2年生になる前には団体戦メンバーに選ばれました。そのとき先輩方から“お前ならいける”と声をかけてもらえたのが本当に嬉しかったですし、自信が持てるようになりました。それからは練習もたくさんしました」
水城高校の恩師、石井貢監督の指導が今にも生きていると振り返る。「ゴルフ以外のこともたくさん教えていただきました。生活態度や練習への向き合い方を教えていただいたおかけで今の自分があると思っています」と語る。「掃除の仕方で怒られたこともありました。何事も漠然とやるのではなく、考えならがら効率的に行うという姿勢が身につきました」
プロ2年目の全米OPが転機に、2021年の東京五輪にも出場
2018年の全米オープンに出場した星野 【Photo by Andrew Redington/Getty Images】
2年目の2018年6月、ウェイティングで急遽出場した全米オープンが転機になった。「結果は予選落ちでしたが、世界のレベルの高さを肌で感じました。そして(日本ツアーでも)優勝するには優勝争いを重ねることが大事」と考え方を改めた。“勝たなくては”という焦りを捨て、スイングやクラブ、ゴルフの考え方を常に見直し続け“勝てる準備をしよう”という考えに切り替えた。その結果、2018年のフジサンケイクラシックで初優勝を達成した。
2021年、東京オリンピックに松山英樹選手とともに出場 【Photo by Mike Ehrmann/Getty Images】
オリンピックでは、第1組のティーショットを任されるという重責を担った。
「開催国の代表として、世界中が注目するティーショットを打つというプレッシャーは想像以上に大きかったです」と振り返る。その経験は、確実に星野を一回り大きな選手へと成長させた。
欧州ツアーで身につけた環境の違いを楽しむ力
「コースは距離が長く、フェアウェイは狭い。その上、天候も不安定で風が強い場面も多かったです。日本のゴルフ環境とはまったく異なりました」と最初は戸惑いの連続だった。また、言葉や食事の問題もあった。
欧州ツアーでは英語が共通語とはいえ、イギリス英語、スペイン英語など国によって発音や言い回しが異なり、初めは話しかけられても聞き取れないことが多かった。しかし、「英語が話せなくても積極的にコミュニケーションを取る」ことを心がけた星野は、今では多くの欧州ツアーの友達もできたという。
食事の面でも当初は苦労したが、考え方を変え、次第に順応した。「現地の食事を楽しもうと思うようになりました。パスタ中心の食事も今では楽しめるようになりましたね」と笑顔で話す。
環境の違いに適応できなく海外のツアーを撤退する日本人選手が少なくないが、星野はその国や地域の環境を受け入れ、楽しもうという姿勢を常に持っている。
「緊張をプラス」に、2024年に欧州ツアー初勝利
2024年2月、欧州ツアー初優勝を達成した星野 【Photo by Octavio Passos/Getty Images】
「オーストラリアでの開幕戦では、地元選手との接戦が続きましたが、僕のバーディよりも相手のパーの方が大きな歓声を浴びていました」と苦笑い。完全にアウェイでの戦いだった。そして、「本当に悔しかった」という2戦目の2位。早い時間にスタートした選手が好スコアを出す中、星野の組は強風に見舞われ、スコアを伸ばせない状況だった。しかし、「これで優勝争いができるところまで来ているんだ」という自信になりこの経験が初優勝の原動力となった。
欧州ツアーでの初優勝を果たしたのは、2024年2月の「カタールマスターズ」だった。映像では最後まで落ち着いている様子だったが、「最終ホールはティーショットからパットまで、すごく緊張しました」と振り返る。星野は「基本的には上がり症なんです」と笑うが、緊張からは逃れられないゴルフというスポーツで勝つには「緊張によって集中力を上げるようにしなければならない」と話す。「緊張を自分のプラスにする」ことは水城高校、日本大学、日本ツアーと長年取り組んできたという。
「(水城高校の)監督からも、練習は試合のようにとずっと言われてきましたし、今もその気持ちでやっています。アプローチの練習ではあえて『見とけよ!寄せるから』と口に出して緊張を高めています。練習でできるから本番でもできるようになるんです」と語る。「緊張するから嫌だ、集中力が下がるというパターンになりがちですが、みんなに見られて緊張しているからこそ、よしやってやろうという風に気持ちを切り替えられるようになった」と精神的にも成長した。