帝京が15年ぶりの選手権で残したもの 転籍、Jリーグ挑戦の田所は「本当に来て良かった」
帝京は明秀学園日立にPK戦で屈し、ベスト16で大会を後にした 【写真は共同】
近年も稲垣祥(名古屋)や三浦颯太(川崎)のような人材は輩出しているし、2022年夏にはインターハイ準優勝を飾った。しかし東京は堀越、関東一、国学院久我山が次々にベスト4入りを果たしている激戦区で、予選も壁が高い。
ようやく迎えた晴れ舞台は3試合で幕を閉じたが、間違いなくその魅力が伝わる戦いだった。
ベスト8入りは逃すも、発揮した強み
明秀学園日立の萬場努監督は試合後にこう語っていた。
「まず、サブの選手にあのクオリティーがあることは非常に驚異的でした。もう最後は5バックにしないと耐えられないという判断で、後ろ重心でカウンターを狙う狙いに切り替えました。スキルは相当に高かった印象です」
帝京の藤倉寛監督もこう口にする。
「後半はトラブルもあって、砂押(大翔/キャプテン)があそこでいなくなるシチュエーションは想定していませんでした。ちょっとバタついたところはありますけど、逆に誰が出てもクオリティーを下げずにやれた。慌ただしいゲーム展開の中でもボールテクニックを生かし、入った選手が自分たちの長所を出して流れを引き寄せていった。本当に感心させられるようなプレーもありました」
帝京はボールを握って動かしたいチーム。前半は明秀学園日立のハイプレスを受け、相手が得意とするハイテンポで試合が進んでいた。ただ選手たちはそんな流れを、決して後ろ向きにならず受け止めていた。藤倉監督もそんな姿勢を尊重して、選手を後半のピッチに戻した。
「ハーフタイムに『やれていない』『うまくいっていない』という顔でなく、『このまま行っちゃおうぜ』みたいなテンションで帰ってきました。『そっちを選ぶんだ』『それでもいけるという気持ちだな』というところを、選手たちはハーフタイムに話してくれた。こちらも『そうじゃない』とか、そういう(否定的な)話はしないで送り出しました』(藤倉監督)
相手の流れへ対応した選手たち
センターバックの田所莉旺はこう振り返る。
「相手の方がスピードも速くて、自分たちの持つ時間は短かったと思いますが、中盤の選手が落ち着いて前を向いて攻めるシーンはチャンスになっていました。自分からの対角のボールも成功率は高かったです。ああいう(プレスの圧が強い)相手に対して、ずっと後ろからボールをつなぐと、逆に餌食になってしまうのも分かっていました。相手に触らせないようなショートカウンターや、頂点に森田(晃)や土屋みたいな戦える選手がいることもウチの良さです。そういうところで割とやれていたのかなと思います」
選手権はペナルティキック1本の差でその先の道が絶たれる儚い大会だが、若者の可能性を引き出し、成長させる実りの場でもある。藤倉監督は選手のパフォーマンスをこう評価する。
「前回の試合もそうですが、『こんなことができるんだ』『こんなに守備を頑張れるんだ』と感じました。メンタルの部分でも1週間を通して『変に気負わず、いつも通りにやれる』とか、気づかされるところがありました。この学年の子たちは割とこういうお祭りが好きで、持ち上げてもらえれば頑張れる集団でした」
44歳の藤倉監督は第77回大会の決勝(帝京2●4東福岡)に、キャプテンとしてピッチに立っている。そんな時代との比較について問われると、こう返していた。
「『あの頃は』みたいな質問をされると私もちょっと困るというか、正直まったくそういう気持ちはありません。選手は『常勝』とか、そういったものを感じない中でやらせてもらえた」