帝京が15年ぶりの選手権で残したもの 転籍、Jリーグ挑戦の田所は「本当に来て良かった」

大島和人

帝京は明秀学園日立にPK戦で屈し、ベスト16で大会を後にした 【写真は共同】

 帝京の全国高校サッカー選手権出場が「15年ぶり」と聞いて、驚いたファンも多いはずだ。彼らは1974年度の第53回大会の初優勝から通算6度の選手権制覇を誇り、Jリーグ開幕後も1994年度、97年度、98年度と立て続けに準優勝を達成している。ただ2009年度の第88回大会以降、この大会と縁が無かった。

 近年も稲垣祥(名古屋)や三浦颯太(川崎)のような人材は輩出しているし、2022年夏にはインターハイ準優勝を飾った。しかし東京は堀越、関東一、国学院久我山が次々にベスト4入りを果たしている激戦区で、予選も壁が高い。

 ようやく迎えた晴れ舞台は3試合で幕を閉じたが、間違いなくその魅力が伝わる戦いだった。

ベスト8入りは逃すも、発揮した強み

 等々力スタジアムで戦った1月2日の3回戦は、後半開始早々の41分にコーナーキックから明秀学園日立の先制を許す展開だった。帝京は計5人の入れ替えで流れを引き戻すと、69分に途中交代3選手の絡む形から土屋裕豊が同点ゴールを決める。PK戦は全員が成功した相手に4-5で屈したが、終盤の攻勢と交代選手の質は圧巻だった。

 明秀学園日立の萬場努監督は試合後にこう語っていた。

「まず、サブの選手にあのクオリティーがあることは非常に驚異的でした。もう最後は5バックにしないと耐えられないという判断で、後ろ重心でカウンターを狙う狙いに切り替えました。スキルは相当に高かった印象です」

 帝京の藤倉寛監督もこう口にする。

「後半はトラブルもあって、砂押(大翔/キャプテン)があそこでいなくなるシチュエーションは想定していませんでした。ちょっとバタついたところはありますけど、逆に誰が出てもクオリティーを下げずにやれた。慌ただしいゲーム展開の中でもボールテクニックを生かし、入った選手が自分たちの長所を出して流れを引き寄せていった。本当に感心させられるようなプレーもありました」

 帝京はボールを握って動かしたいチーム。前半は明秀学園日立のハイプレスを受け、相手が得意とするハイテンポで試合が進んでいた。ただ選手たちはそんな流れを、決して後ろ向きにならず受け止めていた。藤倉監督もそんな姿勢を尊重して、選手を後半のピッチに戻した。

「ハーフタイムに『やれていない』『うまくいっていない』という顔でなく、『このまま行っちゃおうぜ』みたいなテンションで帰ってきました。『そっちを選ぶんだ』『それでもいけるという気持ちだな』というところを、選手たちはハーフタイムに話してくれた。こちらも『そうじゃない』とか、そういう(否定的な)話はしないで送り出しました』(藤倉監督)

相手の流れへ対応した選手たち

 選手権は中1日で試合が続き、しかも負けたら終わりの一発勝負だ。どうしても「はっきりしたプレー」「長いボール」が増えやすい。ただ選手たちはそんな流れを受け入れ、普段とは違う引き出しを開いてプレーしていた。

 センターバックの田所莉旺はこう振り返る。

「相手の方がスピードも速くて、自分たちの持つ時間は短かったと思いますが、中盤の選手が落ち着いて前を向いて攻めるシーンはチャンスになっていました。自分からの対角のボールも成功率は高かったです。ああいう(プレスの圧が強い)相手に対して、ずっと後ろからボールをつなぐと、逆に餌食になってしまうのも分かっていました。相手に触らせないようなショートカウンターや、頂点に森田(晃)や土屋みたいな戦える選手がいることもウチの良さです。そういうところで割とやれていたのかなと思います」

 選手権はペナルティキック1本の差でその先の道が絶たれる儚い大会だが、若者の可能性を引き出し、成長させる実りの場でもある。藤倉監督は選手のパフォーマンスをこう評価する。

「前回の試合もそうですが、『こんなことができるんだ』『こんなに守備を頑張れるんだ』と感じました。メンタルの部分でも1週間を通して『変に気負わず、いつも通りにやれる』とか、気づかされるところがありました。この学年の子たちは割とこういうお祭りが好きで、持ち上げてもらえれば頑張れる集団でした」

 44歳の藤倉監督は第77回大会の決勝(帝京2●4東福岡)に、キャプテンとしてピッチに立っている。そんな時代との比較について問われると、こう返していた。

「『あの頃は』みたいな質問をされると私もちょっと困るというか、正直まったくそういう気持ちはありません。選手は『常勝』とか、そういったものを感じない中でやらせてもらえた」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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