帝京が15年ぶりの選手権で残したもの 転籍、Jリーグ挑戦の田所は「本当に来て良かった」

大島和人

「本当に帝京に来て良かった」

田所莉旺(左)は川崎U-18からの転籍 【写真は共同】

 田所は187センチの大型センターバックで、年代別代表候補にも招集された実績の持ち主だ。高校1年生まで川崎フロンターレU-18でプレーしていたが、そこから帝京高に転籍した経歴を持つ。彼は決断の理由をこう説明する。

「出場機会を求めてというところが一番大きかったです。(帝京高の)1個上にプロになるような選手も2人いたので、(川崎を)辞めた中でも高いレベルでサッカーやりたいと思ったときに、関東だと帝京が自分に合っているかなという考えでした」

 高校サッカーの良さについて、彼はこう述べる。

「選手権の時期になるにつれて、チームの完成度が上がって、Jユースと互角に戦えるようなレベルまで持ってくる。そこは高校サッカーのすごさなのかなと感じました」

 かつては上下関係、プレースタイルなどが「部活とクラブの違い」としてよく言われたが、そういう違いをあまり感じなかったという、

「3年生になって思いますけど、下との関係が良いと、試合でも意見交換だったりがスムーズにできます。ガチガチの上下関係という感じではないのが、逆に今の帝京の良さです。試合中も強く意見してくるような選手もいますけど、それが許されてもいる。そういう気を使われていないことが、いいチーム(の証明)なのかなと思っています」

 大会を通したチームと個人の収穫について、田所はこう振り返る。

「帝京の良さは全国に見せられたし、昔ながらの伝統みたいなものは自分たちの代で取返せました。『強豪だった』というだけのイメージだったのが、選手権へ出ることで昔からのファンの方も出てきてくれました。応援してくれている人が多かったし、本当に帝京に来て良かったなと思います。夏、冬の全国大会に出られた経験は次のサッカー人生にも大きく影響してくるはずです」

田所はJのキャンプに参加

 チームの強烈な伝統は否定しようのない現実だ。しかしピッチ上のプレーを見ても、選手や監督のコメントを聞いても、帝京は自然体だった。今大会はメディアの注目を受け、藤倉監督の言葉を借りれば「チヤホヤされる」状況もあったが、悪い意味で浮かれる様子もなかった。選手たちは過去を重荷にせず、伝統に縛られず、等身大のプレーをしていた。そんなたくましさが一観戦者として印象的だった。

 田所は現時点で来季の進路が未定。これからJクラブのキャンプに参加し、そこで加入の可否が判断されるという。

「選手権が終わってから決めようというところで、プロのキャンプにも参加する予定です。それがダメなら、待ってくれる大学があるみたいです」(田所)

 選手権は高校3年間の締めくくりだが、同時に未来へのスタート。ベスト16という結果以外にも、チームと田所が3試合で得たもの、次に活かせるものは確実にある。田所は後輩への期待をこう口にしていた。

「帝京の良さは全国に見せられたし、15年ぶりに出たことで、昔ながらの伝統みたいなのは自分たちの代で取り返せたと感じています。ここからは後輩に託すだけですが、少し戻ってきた注目を1、2年生につないでもらえばいいなと思います」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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