「トルメンタ」を見て高川学園を目指したエースが2得点 0-6から始まった青森山田超えの取り組み

大島和人

青森山田の「強み」で渡り合う

3年前は青森山田に0‐6の完敗を喫した 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 もちろん高川学園がトルメンタ「だけ」で勝ったわけではない。彼らは先発11人の平均が171.5センチとかなり小柄なチームだが、青森山田が強みとする「球際」「セカンドボールへの出足」で互角に渡り合った。

 江本監督はこう強調する。

「流れが相手へ行かないように、どうにか戦っていたと思います。セカンドボールも相手よりも高いパーセンテージで拾えていました。あとは本当に走りの部分です。昨日のトレーニングまでガンガン走らせていたので、それも実を結びました」

 フィジカル面の取り組みについて、指揮官はこう説明する。

「3年前の準決勝は0-6で負けてしまって、これくらいの身体を作らないと全国では勝てないと感じました。特に今年は全部員がプロテインを摂取するなど、食事の面において強化をしてきました。それは間違いなく今日の結果に結びついています」

 江本監督はチームの強みを尋ねると「僕もよく分からないですけど……」と首をひねった。しかし少し間を置くと、彼はこう語り始めた。

「本当によく走っているし、ピッチ外の取り組み、私生活のところを全部員がきちんとやってくれているかもしれないですね。『凡事徹底』がきちんとできだしています。昼休みに全部員で集まってミーティングをしたり、休み時間にプロテインをみんなが飲んだり、そういう部分をしっかりとできています」

 大森にチームの強みを尋ねると、彼は「絶対に走り」と即答した。

「週1で朝1時間ほど走っています。練習中に自分たちが駄目な部分がでたり、静かになったりしたときも走ります」(大森)

本気で目指す頂点

 高川学園はパワー、走力といったベースを引き上げ、さらに戦術的な準備もしていた。

 キャプテンの沖野眞之介はこう振り返る。

「青森山田との対戦が決まってから(最終ラインを)5枚でやる準備をしてきたので、それが勝利つながりました。(満員の観客で)声は届きにくかったと思いますが、しっかり隣同士、縦同士でコミュニケーションを取れました。怖がらずに後ろの選手はラインを上げて、前の選手が思い切って守備に行けるような環境を作って、前の選手は身体を投げ出して寄せてくれた。自分たちの強みは守備ですが、そこは通用したと思います」

 青森山田は2023年度の高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグ、全国高校サッカー選手権を制したこの世代を象徴するチームだ。当然ながら相手はモチベーションを上げて立ち向かうし、普段とは違う戦術も用意してくる。「奇策だけ」で勝てる相手ではない。まず称賛するべきは高川学園のスタンダードと、それを生み出した日常の取り組みだ。

 青森山田の正木昌宣監督は、試合後にこう語っていた。

「どの相手もやはり青森山田に対してああいう形で来ます。インターハイでも経験はありましたし、プレミアでもそのような相手がいっぱいいました。それに怯んでいたわけではないですし、単純に相手を褒めたいと思います」

 今大会の高川学園は監督、選手が揃って優勝を目標として公言している。選手と話をしても、言葉と表情から「本気」「自信」が伝わってきた。それだけの準備を積んだ自負もあるのだろう。

 沖野はこう口にする。

「この試合は通過点です。自分たちの目標である日本一を取るためにも、このような相手が準決勝、決勝と続いていくと思っています。そこに初戦で勝ててよかった」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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