プレミア前半戦の最大のサプライズ 絶対王者の大不振と古豪フォレストの大躍進
マンチェスター・Cはすでに6敗。グアルディオラ監督の下、黄金期を謳歌してきた絶対王者の思わぬ不振が、今季前半戦の一番のサプライズだ 【写真:ロイター/アフロ】
フットボールには必ず栄枯盛衰がある
先週木曜日の12月26日(現地時間、以下同)、リバプールはクリスマス翌日の伝統のボクシングデー・マッチとなったリーグ戦をホームで戦った。そして相手のレスターに先制されながら3-1の逆転勝利を飾って、首位をがっちりとキープしたアルネ・スロット監督が試合直後のテレビインタビューでそう言った。
質問は「去年まではプレミアリーグ特有の年末年始の過密日程をオランダで見ていたと思うが、実際ここに加わって試合をした感想は?」というものだった。まさにその通り。筆者はこの言葉を聞いた瞬間、思わず声を立てて笑ってしまった。
英国のクリスマスというのは聖なる日だ。この日だけはどんなことがあっても家族全員が集まり、ジーザス・クライストの生誕を祝い、山ほどのプレゼントを手に入れた子どもたちが狂喜乱舞してサンタクロースの存在に感謝し、お互いの健康も祝う。基本的に電車もバスも動かず、店も閉まり、国が完全に止まる。
日本には「盆と正月が一緒に来たよう」という言葉があるが、まさにその表現に当てはまる特別な日が、西洋のキリスト教国のクリスマスである。
ボクシングデーの26日に試合をするためには、当然ながら25日のクリスマスデーも練習場にいなくてはならない。しかもリバプールの次の試合は29日。アウェーでウェストハムと戦い、さらに年が明けるとまず1月5日、宿敵マンチェスター・ユナイテッドとホームで対戦し、8日はアウェーでトットナムとのリーグ杯準決勝第1レグ、そして11日のFA杯3回戦が続く。国内のコンペティションに加えて欧州チャンピオンズリーグ(CL)のリーグフェーズ2試合も戦うことになるから、1月はなんと8試合もこなす。
筆者はこの原稿を29日の午前中に書いているが、27日にブライトンの試合を取材し、30日はブライトンが敵地に乗り込むアストン・ヴィラ戦の取材。クリスマス気分は吹っ飛んでいるし、年末年始には遅延だらけの英国の電車で焦燥とフラストレーションと怒りを溜め込みながら、試合を追いかける。
しかしそんな過酷な日程のおかげで、遠藤航の出番が増える可能性がある。それを期待してなんとか1月を乗り切りたい。
首位リバプールが順調に勝ち点を積み上げていく一方で、マンチェスター・シティは怪物FWアーリング・ハーランドが後半にPKを失敗して、エバートンとのボクシングデー・マッチを1-1で引き分けた。またしても勝ち点3を逃したペップ・グアルディオラは、「ほんの些細なことばかりだが、それが積み重なっている」と語り、監督就任以来、最悪の不振の理由を説明した。
この発言を聞いて、ある高級靴ブランドの創業デザイナーの言葉を思い出した。筆者はフットボールと出会う前に、サブカルチャーやファッションの取材をしていた。そのブランドは「ガジアーノ&ガーリング」という。
ちなみに顧客の足を採寸し、手作りでこの世にたった1足の靴を作るビスポークの部門の作業部屋に、当時まだマンチェスター・U監督だったアレックス・ファーガソン氏の注文靴があったのを覚えている。
そのブランドの創業デザイナーのトニー・ガジアーノさんに、「素晴らしい靴を作る秘訣は?」と聞いた。すると苦笑いした彼からこういう言葉が返ってきた。
「そういう秘密のような工程はありません。しかしどの工程でも少しずつ時間と手間をかけます。そうして少しずつ少しずつ違いを生むことで、仕上がりに大きな差が生まれます」
フットボールチームもそれと同じで、ほんの少し他チームよりも時間と手間をかけ、金もかけ、情熱を吹き込むことでしか、勝利という大きな仕上がりを得ることはできないのだと思う。
もちろんペップは非凡な監督で、その才能も実績も現在のサッカー界で随一である。しかしこれが4連覇の反動なのだろうか。ケビン・デ・ブライネをはじめとする近年の栄光を支えた選手が少しずつ年齢を重ねて、突如として成績が悪化した。
1月の補強を経て、後半戦に信じられない巻き返しを見せる可能性はある。しかし歴史に残る偉大なチームに突如として訪れた大不振に、やはりフットボールは人間がやるもので、そこには必ず栄枯盛衰があるということを思い知らされた。だからこそ、その栄光は輝かしいし、尊いのだが。
リラックスしながらも手応え十分のリバプールが後続を引き離して
新任のスロット監督(右)がチーム変革に成功したリバプールが首位を快走。12月29日にはウェストハムに5-0と大勝し、リーグ3連勝で2024年を締めくくった 【写真:ロイター/アフロ】
タイトルレース中盤の現時点で大きく予想を裏切ったのは、やはり大不振に陥ったマンチェスター・Cだ。現在7位(編集注:12月31日時点で6位)。例年、シーズン半ばには首位か悪くても2番手にいて、レース終盤には無敵状態となり、連勝を重ねて序盤より力強い走りを見せて優勝を続けてきた絶対王者が、レースの折り返し地点で苦しそうに喘ぎ、全く手応えがなくなってしまった馬のように中位に沈んでいる。
ペップという名騎手中の名騎手が乗る最強のG1連勝馬が、どんどん先頭から離されて後退し続けている、という感じだ。近年のプレミアリーグは優勝するためには6敗以上できないという目安があるが、今季のマンチェスター・Cはすでに6敗して、昨季の3敗の倍の負け数を記録。もちろん近年の実績を考えると、残りの試合に全勝という奇跡も起こし得るチームではあるが、それでもマキシマムの勝ち点は88だ。その数字なら、首位リバプールは残り21試合で16ポイント落とすことができる計算になる。
リバプールは17試合を消化した現時点で、9ポイントしか落としていない。正直なところ、マンチェスター・Cの優勝はすでに絶望的な状況である。これがまず今季最大の波乱だ。
13勝3分1敗の勝ち点42で先頭を走るそのリバプールは、ユルゲン・クロップという腕っぷしの強い騎手から合理的に馬を走らせる頭脳派のスロットという騎手に乗り替わって、快走している(編集注:12月29日のウェスハム戦での勝利で14勝とし、勝ち点を45まで伸ばした)。
戦前は大本命マンチェスター・C、対抗アーセナルに続く3番人気だった。しかしシーズンが始まってみると着実に勝ち星を積み重ね、昨季までは常にかかり気味で最初から最後まで全力で走っていた馬が、リラックスしてスムーズに走りながらも手応えは十分。後続をどんどん引き離しているという様相だ。
GKのブラジル代表アリソン・ベッカーが「昨季とはプレースタイルが確実に変わっている」と話して、新監督と前任のカリスマ監督との間に明らかな違いがあることを示唆しているが、現場に行って試合を見ていても、クロップの興奮が去った代わりにスロットが安定をもたらしたという雰囲気を感じる。選手も超アグレッシブな試合を続けた昨季までのような心身の消耗が減り、よりテクニカルな試合をしてフットボールのゲーム性を楽しんでいるように見える。
大躍進フォレストは04-05シーズンのエヴァートンの再現も
快進撃を続けるフォレストは12月29日のエヴァートン戦で勝利を収め、暫定2位で新年を迎えた。得点源のウッド(写真)はこの試合で今季11点目を記録 【写真:ロイター/アフロ】
この状況を競馬にたとえると、20頭のなかで足色が一番良い逃げ馬に10馬身以上の差をつけられている、というイメージだろうか。エースのブカヨ・サカが故障し、最低でも2カ月は戦線離脱を余儀なくされそうなこともあり、気の早い英メディアのなかにはすでにリバプールの優勝は堅いと報じるところもちらほら現れている。
この2位アーセナルから4位までが先行集団となる。エンツォ・マレスカが新監督に就任して、ここも今季から騎手が乗り替わったチェルシーが勝ち点35で3位。健闘していると思うが、この成績は番狂わせとまではいえないだろう。しかし勝ち点34で4位につけるノッティンガム・フォレストの躍進は、マンチェスター・Cの不振に次ぐ今季前半戦のビッグサプライズだ(編集注:12月31日時点でフォレストが勝ち点37で2位、アーセナルが同36で3位、チェルシーが同35で4位)。
もしもフォレストがこのままのペースで後半戦も快進撃を続ければ、昨季のアストン・ヴィラ以上の意外性をもって来季の欧州CL出場権を獲得することになるだろう。
大躍進中のフォレストの特徴は、現時点でわずか5という得失点差に表れていると思う。これは首位リバプールの23、2位アーセナルの19、3位チェルシーの17との比較で大きく下回る数字だ(編集注:12月31日時点の得失点差は、フォレスト7、リバプール28、アーセナル19、チェルシー15)。それでもこの順位にいるということは、トットナムを1-0で下した26日の試合が象徴するように、競った試合をモノにする勝負強さとしぶとさがあるということだ。
GK出身のヌーノ・エスピーリト・サント監督は厳しい規律でチームをまとめ、基本的に守備的な戦術を好む。その守りのインテンシティを今後も保てるかどうかが重要なカギ。と同時に、すでに今季10ゴールを奪っているFWクリス・ウッドの好調が続けば、1978-79、79-80シーズンに欧州チャンピオンズカップ(欧州CLの前身)を連覇した古豪が、得失点差が-1だったにもかかわらず4位に食い込んだ2004-05シーズンのエヴァートンの成功を再現することになるだろう。
そのフォレストと5ポイント差の5位ニューカッスルから9位アストン・ヴィラまでが1ポイント差でひしめく中団を形成し、激しく欧州カップ戦参戦を争う様相を呈している(編集注:12月31日時点で5位ニューカッスルと9位アストン・ヴィラは3ポイント差)。
このなかからシーズン後半に抜け出し、トップ4に食い込むチームが出てくるのか。そこも後半戦の見どころだろう。最も可能性があるのはマンチェスター・Cの追い込みだが、一昨季に欧州CLの出場権を獲得したニューカッスル、そして昨季の実績があるアストン・ヴィラも4位候補に挙げておく。
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