フェルスタッペンの4連覇がほぼ確実に ノリスに足りなかったものとは?

柴田久仁夫

依然としてスタートを失敗し続けるノリス

サンパウロGPでも、ポールスタート直前のノリスはいかにも緊張した表情だった 【(c) Mclaren】

 最強となったマクラーレンだが、ピットインのタイミングを誤るなど度重なる戦略ミスで少なくとも2回、勝てたはずのレースを落としてきた。チームメイトのオスカー・ピアストリにも勝てるチャンスをつい最近まで与え続け、ノリスの勝利を優先する方針への変更も遅きに失した。

 しかしそれ以上に、ノリス自身が大きな問題を抱えている。「スタートの失敗」である。以前のコラムでは9月のイタリアGPまでに4回のポールスタートでいずれも順位を落としたことを紹介した。ではその後改善したかといえば、残念ながらそうなっていない。

 アゼルバイジャンGPからサンパウロまでの5GPで、3回のポールポジションを獲得。しかし首位を守ってそのまま勝てたのはシンガポールだけで、アメリカは4位、今回のサンパウロも6位に終わった。いずれもスタート直後に、順位を落としたことが直接の敗因だった。

 特にオースチンは、「マペット(操り人形)のような無様なドライビングだった」と本人が言うほどで、背後のフェルスタッペンにスペースを与えてしまい、2台がコースアウトする間にシャルル・ルクレールに首位を奪われ、そのまま勝たれてしまった。

 ノリスがこれほどスタートの失敗を繰り返してしまうのはおそらく、「レース前はほとんど何も食べられない」と本人が言うほど異常に緊張しやすい性格のせいなのだろう。

 ノリスはすでに1年前にも、自身のYouTubeチャンネルで、「予選やレースで失敗すると、家に帰ってからも落ち込み続けて、考え込んでしまう」と語り、専属コーチとメンタルトレーニングに打ち込んでいると言っていた。しかし残念ながら今も、その成果は出ていないようだ。

レッドブルはコンストラクターズ3連覇を諦めた?

ペレスが最後に表彰台に上がったのは、4月下旬の中国GPだった 【(c) Redbull】

 一方でコンストラクターズ選手権での、レッドブルの劣勢は明らかだ。

 開幕以来ずっと守ってきた首位を、9月の第17戦アゼルバイジャンGPでマクラーレンに奪われ2位に陥落。さらに先月のメキシコでは、フェラーリにも抜かれて3位まで順位を落とした。理由は言うまでもなく、レッドブルで期待できるドライバーはフェルスタッペンしかいないからだ。

 マクラーレン、フェラーリは二人のドライバーが揃って上位入賞を続け、大量ポイントを稼ぎ出しているのに対し、レッドブルはフェルスタッペンの孤軍奮闘状態。セルジオ・ペレスは第5戦中国GP以来、一度も表彰台に上がれない大低迷からいまだに抜け出せずにいる。

 問題は不振の理由を、本人もチームもつかみかねていることだ。ペレスは今も、RB20を自信を持って運転できない。ではそれがなぜかといえば、誰も明確にはわからない。それでもドライバー人事に強い影響力を持つヘルムート・マルコ博士は、ブラジルでペレスが11位に終わった後も、「今季中のペレスの更迭はない」と、言明した。

 49ポイントまで差を広げられたマクラーレンはともかく、2位フェラーリとの13ポイント差は十分に挽回可能だ。もしリアム・ローソン、あるいは角田裕毅を抜擢して2位を確定できたら、選手権順位に応じたF1からの分配金の損失を、少なくとも10数億円防ぐことができる。

 それでもマルコ博士がペレスを使い続けるのは、若手二人にペレス以上の活躍は期待できないと踏んだのか。それとも途中解雇で発生する、ペレスが持ち込んだ大口スポンサーであるテルメックスへの違約金の大きさを考えて踏みとどまったのか。いずれにしてもレッドブルのコンストラクターズタイトル3連覇は、ほぼなくなったと見ていいだろう。

(了)

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著者プロフィール

柴田久仁夫(しばたくにお) 1956年静岡県生まれ。共同通信記者を経て、1982年渡仏。パリ政治学院中退後、ひょんなことからTV制作会社に入り、ディレクターとして欧州、アフリカをフィールドに「世界まるごとHOWマッチ」、その他ドキュメンタリー番組を手がける。その傍ら、1987年からF1取材。500戦以上のGPに足を運ぶ。2016年に本帰国。現在はDAZNでのF1解説などを務める。趣味が高じてトレイルランニング雑誌にも寄稿。これまでのベストレースは1987年イギリスGP。ワーストレースは1994年サンマリノGP。

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