田中刑事が語るフィギュアNHK杯もう一つの熱い真剣舞台 ルール無用「選ばれし者」たちの自由演技に注目!
プロスケーターでNHK杯公式アンバサダーの田中刑事さんがエキシビションの魅力を語る 【スポーツナビ】
連覇を狙う男子シングル・鍵山優真、2022~24年世界選手権3連覇中の女子シングル・坂本花織、2023年世界選手権で日本人ペアとして初めて優勝を飾った三浦璃来/木原龍一など国内トップスケーターが集結し、世界の強豪と競う白熱の週末となりそうだ。
そして、NHK杯のお楽しみと言えば、最終日に行われるエキシビションも忘れてはいけない。正式には「GALA エキシビション」と呼ばれており、GALAとはお祭りの意味。競技の緊張感から解放された選手たちが自分たちの好きな曲で滑り、小道具を使用するなどルールに縛られずに自由に演技する、まさにお祭りのようなショーを楽しめる2時間となっている。
このエキシビションの魅力、楽しみ方についてNHK杯の大会公式アンバサダーを務めるプロスケーターの田中刑事さんに話を聞いた。
※リンク先は外部サイトの場合があります
NHK杯は日本人スケーターにとって憧れの大会
NHK杯は日本人スケーターみんなの憧れ、田中さんは3度出場し2016年大会で3位に入った 【写真:アフロスポーツ】
田中 競技スケーター目線で言いますと、憧れの大会ですね。限られた選手しか出場することができないグランプリシリーズの1つであり、歴史の深い大会です。グランプリシリーズは「グランプリファイナル」という世界最高峰の大会の出場を目指すための大会なのですが、6大会あるグランプリシリーズは一人の選手につき1大会または2大会しか出場できるチャンスがありません。その中でグランプリシリーズ自体に出場できる選手もすごくレベルの高い条件が求められますし、出場する大会を選べるわけではないのでNHK杯に出たくても出られない選手がたくさんいるんです。だから自国開催であるNHK杯は日本人スケーターにとって本当に憧れであり、すごく出たい試合だろうなと思いますね。
――田中さんはNHK杯に3度出場(2015、16、20年)しました。思い出に残っている出来事などはありますか?
田中 選手として出場していたころは会場に入ってしまうと試合の緊張感がほぼ100%だったのですが、やはり日本にいる安心感、落ち着く感じがありました。そして、国際大会だけど日本で滑ることができるという嬉しさがありましたね。と言うのも、日本のスケートファンの皆さんはすごく熱をもって応援してくださるんです。その中で滑ることができるというのはすごく気持ち良かったですね。その印象が一番、NHK杯らしいなという感じがします。
――試合以外で何か印象に残る出来事、面白かったことなどはありましたか?
田中 やっぱりご飯が美味しい(笑)。グランプリシリーズに出場すると色々な国に行くことができるのですが、やっぱり慣れていない部分もあるので毎日の食事がどうしても偏ってきてしまうんです。でも、日本だといつも通りの味をいつも通りに食べられますし、またホテルで食事をいただけるので贅沢な気持ちにもなります(笑)。そうした場で選手みんなで食事をするのはすごく楽しかった思い出がありますね。試合の期間中だけど、そうやってみんなでいただく食事の時間はすごく落ち着きました。
ブッ飛んだプログラムも……それがエキシビション
競技のルールを取り払い、選手それぞれが自由な表現で演技するのがエキシビションの面白さだ 【aflo sport / JSF】
田中 試合での緊張感から解放された選手たちがフィギュアスケートのルールをいったん脱ぎ捨てた中で、本当に好きなものを演じるというイメージですね。そして「前日までの試合の応援ありがとうございました」という意味も込めて、その自由な演技をお客さんに楽しんでいただく貴重な時間だと思っています。エキシビションは誰もが出られる時間ではなく、大会上位の選手などが選ばれて出られる光栄な場でもありますからね。
また、選手だったころの感覚で言いますと、ショート、フリーとこれまで頑張ってきたものを全て出し切った後の翌日なので、正直、選手はみんなヘトヘトなんです。試合が終わるとインタビュー、記者会見などを経てホテルに帰っても、アドレナリンが出すぎているからほとんど眠れない。そんな状態で翌朝からもうリハーサルですから、ある意味ではめちゃくちゃ過酷です。でも、カッコよく言いますとエキシビションは「選ばれし者」だけが立てる時間でもありますので、できれば選手の皆さんには感謝の気持ちを込めて、応援してくれたファン、大会運営者など関わっていただいた全ての皆さんにお届けできる演技を滑ってほしいなという気持ちがありますね。
――NHK杯に限らず、これまで田中さんが見たエキシビションの中で印象に残っている演技はありますか?
田中 やっぱりアイスダンス、ペアの選手が奇抜なことをやっていたり、「そんなことするの?」と思ってもなかった方向から来るプログラム、見たことのない角度から組み上げたコンセプトの演目もやってくるので、そういったものを楽しみにしています。本当に力の入れ具合がすごいカップルがいますし、もちろんそうしたシングルのスケーターもいますので、見たこともないような演技を見ることができますよ。
――田中さんでも見たことがないプログラムとはいったいどういったものなのでしょうか?
田中 例えばですが、顔までペイントして全身一色になって面白いコンセプトで演技していた選手がいました。もちろん、きれいな曲で滑る選手もいますし、激しい曲で会場を盛り上げるプログラムなどもたくさんあるのですが、普段のアイスショーでもなかなか見ないようなすごく作り上げられたプログラムもあります。ちょっと言葉では説明しづらいのですが、フィルターなしで言えば“ブッ飛んでいる”(笑)、そういった演技を見ることもありましたね。
――もしかしたら競技よりも力が入っているのではないかという選手もいそうですね。
田中 そう思うこともあります(笑)。でも、それはそれでいいと思いますし、自分たちの個性を出せるエキシビションを滑りたいからこそ作り上げたんだと思いますね。試合にはもちろんルールがあり、やらないといけない課題の中である意味、選手たちは自分たちをギュッと締め付けて戦っている部分があるので、そういうものを全て取っ払ったルール無用なものをスケートリンクで演技することができるのがエキシビション。初めてフィギュアスケートを見る方々にも楽しんでいただけると思いますし、「スケートってそんなことしていいんだ」と思うようなことがたくさん詰め込まれていると思いますね。