バレー新リーグは成功するのか? SVリーグが持つ可能性と課題

大島和人

変化は「経営力と人材」

SVリーグ大河チェアマンは、Bリーグ開幕時のチェアマンでもある 【写真は共同】

 SVリーグの発足に伴う最大の変化は、試合や演出を見ても分からない、目の届きにくい部分にある。一つは「経営力」だ。2024-25シーズンの予算が30億円に届きそうという大河チェアマンのコメントを聞いて、筆者は率直に驚いた。初年度のBリーグには届かないが、想定以上の成長だったからだ。

 JリーグとBリーグにスポンサー料や放映権料などの独自収入があり、それを原資にしてクラブへの配分金を出している。SVリーグも開幕を前にして大同生命、J SPORTSなどとの大型契約をまとめ、旧体制の4倍前後の事業規模まで売上を拡大しようとしている。

 SVリーグがクラブに対して分配金をいくら支払うか、どういう基準で差をつけるかについてはまだ公表されていない。リーグは立ち上げ直後で、チケットシステムなど投資も必要だ。ただリーグがこれだけの財源を持てるのならば、配分金はそれなりの額になる。

 極論すれば「お金=権力」で、「年会費よりも配分金の多いリーグ」になることは本質的な変化だ。これによりSVリーグはチームへ経済的に依存せず、より強い求心力を持てるようになる。

 人材の充実も大きな変化だ。リーグの職員は3倍程度に増加した。大河チェアマンはバスケ界へ転じるまでJリーグの常勤理事を務めていた経歴の持ち主で、サッカーとバスケの両競技を熟知している。他にもバレーボール以外でクラブ、リーグを経験した人材が何人もSVリーグに加わった。それが組織としてどう機能するかはまた別の話だが、リーグ本体がクラブに先んじて「プロ化」したことは見て取れる。

 どう新しいファンを増やし、その満足度をどう上げるか――。そんな取り組みには戦略とリソースが必要だが、今までのバレーボールには戦略を立てる以前にデータさえなかった。SVリーグもようやく、スポーツビジネスの一歩目がスタートする。

課題は「女子」と東西格差

SVリーグ女子も12日に開幕戦を行っている 【写真は共同】

 しかしバレーボール特有の難しさもある。SVリーグは女子のほうが男子より4チーム多い構成だが、昨季の実績を見ると女子は1チームあたりの観客動員数が男子の半分以下。木村沙織、メグカナ(栗原恵、大山加奈)といったスター選手が活躍していた10〜20年前ならば別だが、近年のバレー界は男子に注目が集中している。

 そもそも「女子スポーツをどうエンターテインメント、ビジネスとして成り立たせるか」は難題だ。クリアが不可能なテーマとは思わないが、SVリーグにとって女子の成功は男子以上に難しいチャレンジだ。

 もう一つSVリーグが持つ特殊事情に「西高東低」がある。開幕戦が大阪対決だったことで分かるように、男子の強豪は日本列島の西側に固まっている。昨季のVリーグのトップ5を見ると「大阪、大阪、愛知、広島、大阪」となっていて関東圏の最上位は7位の東京グレートベアーズだ。

 是非は別にしてメディアの報道は東京発が多く、このままだとSVリーグ男子はそのアンテナにかかりにくい。もっともそれは嘆いて解決のする問題ではない。Jリーグは1993年の10チームから57チームまで拡大したが、SVリーグ男子も新規参入で東西格差を埋められれば理想だ。

「出遅れ」もアドバンテージ?

SVリーグが成功するための「材料」は揃っている 【写真は共同】

 現時点でSVリーグが成功する、目標を達成できると断言するのは早い。しかし「成功の材料」は揃っていて、あとはリーグとチームがそれをどう活かすかだ。

 シーズンを重ねるごとにリーグ内、チーム同士に意見の違いは出るだろう。また外部人材、新住民は業界の中でどうしても浮きがちで、すんなり定着する人間は少数派に違いない。外から見ると華やかなプロスポーツにも、近くに寄れば様々なトラブルがある。ただプロ野球もサッカーもバスケも、様々な波風を乗り越えてこの国に根付いてきた。

 リスクを取らず「目先の現状維持」を選ぶ競技に、明るい未来があるとも思えない。実際に日本のバレー界でも男女の名門実業団チームがいくつも活動を止めてきた歴史がある。法人として企業から切り分け、プロとして独立させることはチームが生き延びるための知恵でもある。

 外部人材だけが熱くなっても日本バレーの未来は変わらない。西田有志や高橋藍の行き届いたコメントを聞くと既に「プロ意識」は根付いているように思えた。彼らのようなマインドを共有できる人間が増えれば増えるほど改革は成就に近づく。

 この20年を振り返ると、プロスポーツは経済的に低迷する日本社会における数少ない成長産業だった。バレーボールはプロ化と成長に出遅れたが、だからこそSVリーグは他競技の知見を活かせる。そう考えると成長・発展の可能性は決して低くないはずだ。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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