なぜ名門クラブがリブランディングを? 大阪ブルテオンの狙い「バレーボール界へ送れるメッセージがある」

坂口功将

「ローカルとグローバル」

本拠地「パナソニックアリーナ」で行われた大阪Bのプレシーズンマッチ 【(C)大阪ブルテオン】

 今回のリブランディングはあくまでも手段の一つだ。このチームが今後も継続して活動し、発展を遂げ、世界最高峰を目指すSVリーグの中で最も輝くクラブであるために。久保田氏はキーワードとして「ローカルとグローバル」の2つを挙げた。

 “ローカル”とは、「徹底的に大阪で愛されるクラブになるために活動を深めていくこと」と久保田氏。同氏がパナソニックに入社したのが2019年。2022年の春にパナソニック スポーツ株式会社が発足された。バレーボールに対しては「有望なポテンシャルを備えた競技」だと捉えていたが、同時にブームが一過性に終わった歴史を外から見ていただけに危機感を覚えた。そこで、徹底的に地域に寄り添うことから始めている。本拠地「パナソニックアリーナ」の最寄り駅である京阪電鉄・枚方公園(ひらかたこうえん)駅を中心に広報活動を行い、サッカーなどの他競技が取り組んでいるように、選手たちが地域のお店を一軒一軒回ってはポスターの掲示をお願いし、チームを知ってもらえるように努めた。京阪電鉄との提携も含め、やがて枚方公園駅はチームの意匠で彩られるようになった。

 そして、久保田氏が口にしたキーワードのもう一方の“グローバル”が、アジア戦略である。

 大阪Bは今年9月のいわゆるプレシーズンで東南アジアへ2度、出向いている。まずは7日、8日にフィリピンで開催された「ALAS Pilipinas Invitationals」に参加。これは来年のFIVB男子世界選手権フィリピン大会の1年前カウントダウン事業であり、招待チームとしてフィリピン代表と戦った。その翌週にはタイへ。こちらは久保田氏の呼びかけで昨年から実施しているアジアツアーであり、現地で親善試合「Panasonic ENERGY CUP」を行った。大会の決勝では、2024-25 SVリーグ開幕戦と同じカードであるサントリーサンバーズ大阪と対戦し、大阪Bは“前哨戦”で勝利を飾っている。帰国後、久保田氏は「去年以上の盛り上がりを感じました」と目尻を下げた。

 なぜアジア圏で大阪Bは活動を展開するのか? そこには日本の国内リーグを世界最高峰へと押し上げるためのビジョンがあった。

「大枠でいえば『世界』になりますが、具体的には『アジア』を指します。というのも、アジア圏でバレーボールをいかに輝かせられるかが、このスポーツ自体をメジャーにできるかどうかに大きく関わると考えているからです。
 現在、アジア圏から日本のバレーボールは非常に大きな関心を寄せられ、憧れを抱いてもらえています。それなのに何もしないのか、と。アジア各国でそれぞれのバレーボールリーグが発展し、その頂点に日本のSVリーグがあるような構造ができあがれば、サッカーではヨーロッパ圏でチャンピオンズリーグが世界最高峰と位置付けられているように、日本がアジア圏でのメッカとなりえる可能性が十分にあります。
 例えば、サッカーはヨーロッパが本場で、バスケットボールはアメリカのNBAが世界ナンバーワンとして存在します。野球もアメリカのMLBで、これらは絶対的。ですが、バレーボールは日本が世界一になれる可能性に満ちている。だからSVリーグでは“世界最高峰”という言葉を使っていますし、それは決して空想ではない。競技力の高さは選手たちが証明してくれていますし、事業的なポテンシャルからしても、そう言えますね」

 アジアで輝けば、それが世界最高峰につながる。リーグが舵を切った方向性と同じく、大阪Bもまた世界トップに向けて突き進んでいるというわけだ。事実、SNS上の数字を引き合いに出すと、フィリピンやタイ、それにインドネシアや台湾などからのフォロワー数は現在2万人近くに及ぶという。それはチームの魅力が日本国内に留まっていない証しに他ならない。

チームを形作るものは変わらない

9月にタイで開催された「パナソニックエナジーカップ」 【(C)大阪ブルテオン】

 これからSVリーグが開幕し、アジア圏における大阪Bそのものの価値やファンエンゲージメントは高まるだろう。その一方で、9月のアジアツアーでは現地タイでこんな場面が。

 パナソニック自体、タイでは工場を構えて60年以上に渡り操業している。従業員も、大会の冠名となった「パナソニック エナジー」の関連だけでなくパナソニックグループ全体で1万人を超える。それは日本人だけでなく、現地の人々がほとんどだ。今回、大阪Bの面々がアジアツアーで工場に足を運んだ際、従業員が手放しで歓迎。いざ試合会場では私設の応援団やチアリーディングチームをつくり、声援を送っていた。

 その光景を見て、久保田氏もあらためてチームそしてアジア戦略のもとに実施した大会の価値を実感した。

「元々バレーボールが好きで応援しているファンの皆さんはもちろん、会社として応援する、さらには従業員の方々も含めて、チームとのエンゲージメントを強めるツールになるとあらためて実感。地域、チーム、ファン、それに会社やビジネスパートナーの企業、とみんなにとって“WIN-WIN-WIN”になっていましたね」

 トップ選手たちが奏でる競技力、地域に根ざして同時に魅力的な企画で高まる事業力、そして母体企業の支援力。それが大阪Bというチームを形作っている。

「私どもは運営面や環境面において、リーグ内でも最も恵まれていると言えるでしょう、そのチームが真っ先に変わることで、バレーボール界へ送れるメッセージがあるのではないかなと思っています」

 SVリーグを発足するにあたって、運営する一般社団法人SVリーグ(SVL)は当初の会見でも、参加全チームが「完全なるプロクラブでなくてもいい」と提示した。この先、各チームがどのような事業形態で運営していくかは様々だろうが、そうしたあらゆる可能性を踏まえて、よりよい形を模索しながらSVリーグは世界最高峰へ歩を進めるに違いない。その中で、大阪Bが打ち出す姿は、一つのロールモデルと言えそうだ。

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著者プロフィール

ライター。大学時代に“取材して伝える”ことの虜になり、母校の体育会ラグビー部で専属記者兼カメラマンを務めたほか、「月刊バレーボール」(日本文化出版)を経て、2024年から独立。読者の心が動く原稿を書けるように現場を駆け回る。競技問わずスポーツ界のユニフォームに深い造詣を持ち、所持数はゆうに100枚を超えるコレクターでもある。

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