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モハメド・サラーの「爆弾発言」に英国内騒然 その言葉からうかがえるスロット新監督の求心力

森昌利

リバプールは32歳を超えた選手とは契約を更新しない

主将のファン・ダイクもリバプールとの契約は2025年6月まで。置かれた状況はサラーと同じだ 【Photo by Shaun Botterill/Getty Images】

 リバプールでは今季、サラーに加え、主将のフィルジル・ファン・ダイク、そして生え抜きスターのトレント・アレクサンダー=アーノルドの不動のレギュラー3選手が契約最終年に突入している。

 これは極めて異例の事態だ。通常なら、クラブがチームの主力選手の契約期間が残り2年を切らないように細心の注意を払う。そうでなければすぐに他の有力クラブが引き抜きに動き出すからだ。契約の残り年数が少なくなればなるほど、獲得に必要な移籍金の額が減るため、移籍の現実味が増すことになる。

 ただし、サラーとファン・ダイクはそれぞれ32歳、33歳という年齢が問題である。基本的にリバプールは32歳を超えた選手とは契約を更新しない。選手としての上積みがないと判断するからだ。

 25歳のアレクサンダー=アーノルドの場合は今夏、レアル・マドリーへの移籍話が度々取り沙汰された。

 もちろんこの状況は、ユルゲン・クロップ政権の終焉が影響しているのは間違いない。スロットが新監督となり、はたしてどんな変化が訪れるのか、選手としては大いに気になったところだろう。ボスが代わるのはどんな職場でも一大事である。自身の去就を決めるのは、新体制の行方を見極めてからでも遅くはない。

 そしてまずサラーが動いた。開幕3連勝で新チーム、すなわち新監督の将来に大きな可能性を見いだしたのだろう。サポーターに“エジプト王”とチャントされるスーパースターが、シーズン前にしっかりと体を作り、絶好調で開幕を迎えて、クラブに年齢を例外視させる状況を作っていたことも忘れてはならない。

ファン・ダイクはサラーより明確に残留願望を示唆

マンU戦で前節に続いて途中交代したアレクサンダー=アーノルドだが、その表情は満足気だった。これは新監督への忠誠の表れでもあるだろう 【Photo by Nick Taylor/Liverpool FC/Liverpool FC via Getty Images】

 間もなく46歳になるオランダ人監督は、クロップ監督からプレミアリーグのなかでもレベルが高く、優勝の可能性がある質の高いチームを引き継いだ。

 ただしそのクールで論理的な個性は、サポーターを熱狂の渦に巻き込んだ前任の熱いカリスマ監督との違いをはっきりと打ち出し、攻撃一辺倒だったヘヴィメタルの騒々しい調べに、抑制のきいた守りの意識を植え込んで、わずか3試合で攻守の絶妙なバランスを生み出した。

 また開幕2試合目となったブレントフォード戦では、後半28分に去就が話題になっているアレクサンダー=アーノルドに代えて21歳の新鋭コナー・ブラッドリーを起用した。この際、スロット監督がベンチに戻ったアレクサンダー=アーノルドの耳元で何か一言告げると、生え抜きの25歳イングランド代表DFが明らかな不満の表情を浮かべた。

 当然ながら、このアレクサンダー=アーノルドのリアクションは翌日に英メディアで“移籍に拍車がかかるか!?”と取り上げられ、大きな話題になった。ところがスロット監督は続くマンチェスター・U戦でも後半31分に同じ交代策を実行したのである。

 無論、この瞬間、筆者を含めて記者席にいた全てのメディア関係者がアレクサンダー=アーノルドの表情に注目した。しかしこの時のアレクサンダー=アーノルドは、宿敵マンチェスター・Uに3点をリードしていた試合内容に満面の笑みを浮かべながらピッチを降りると、スロット監督とがっちりと抱擁を交わして、ブレントフォード戦後の不穏な空気を完全に払拭した。

 これはスロット監督の求心力の強さが表れた光景だろう。天才肌で自己主張が強いアレクサンダー=アーノルドが1週間で完全に態度を改めた。あの笑顔は“監督の采配は絶対である”という忠誠を反映したものだ。

 さらにはファン・ダイクも、「次のワールドカップもプレーしたい。コンディションには自信がある。体調はすごくいい。自分がリバプールの主将である限り、資格は十分だ」と発言。ファン・ダイクの場合、同じオランダ人であるスロット監督との意思の疎通も容易のはずで、この発言でサラーより明確に、来季以降もリバプールの選手でありたいという願望を示唆した。

 ファン・ダイクもサラーと同様、並外れた能力と体力で年齢的な衰えを見せない稀有な選手。クラブ側が新契約交渉を始めさえすれば、オランダ代表でも主将を務める素晴らしいセンターバックはすんなりとリバプールでの選手生活を延長するはずだ。

 いずれにせよ、これも開幕3連勝の相乗効果と言えるだろう。スロット新監督が極めて有能であることを自ら証明し、クロップ前監督の最大の遺産とも言えるサラー、ファン・ダイク、アレクサンダー=アーノルドの完全なる忠誠も勝ち取った。そんな新たなスロット・リバプールが英メディアの話題を完全にさらった、2024-25シーズン開幕直後のプレミアリーグだった。

<企画・編集/YOJI-GEN>

※次週9月18日は休載となります

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2024-25で24シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル29年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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