国立でエスパルスにハマった人々~清水に縁がなかった人がライト層に、そしてサポーターへ~

榊原拓海

清水エスパルスと新・国立競技場 【©️J.LEAGUE】

 清水エスパルスが“新”国立競技場でホームゲームを開催するのは、2022シーズンの横浜F・マリノス戦から数えて、今季が3度目となる。試合日は9月28日で、今回の対戦相手はJ1昇格争いのライバル・横浜FCだ。

 過去2シーズンはイベント面でも様々な取り組みを実施し、普段から頻繁にスタジアムに足を運ぶ人々はもちろんのこと、サッカーに詳しくない人々にも楽しんでもらえるような施策を行ってきた。

 今回は、国立競技場での試合を通して清水エスパルスに関心を抱いた、都内に在住する3名の方々にインタビューを実施した。彼らは以前からサッカーへの興味関心が高かったわけではないが、今や“オレンジサポーター”の1人として、スタジアムで選手たちを後押ししている。

“ライト層“と呼ばれる人々にとって、国立競技場でのホームゲーム開催はどのような意味を持つのだろうか。

今回インタビューをさせてもらった清水エスパルスサポーターの3名(手前から、楯石さん、ミノさん、宮本さん) 【本人提供】

Q:本日はよろしくお願いいたします。みなさまは国立競技場での試合観戦を経て、それぞれの形でエスパルスにハマったとうかがっています。清水エスパルスの試合に訪れた理由、その後ハマった流れを教えてください。

楯石さん 正直なところ、私は非常にドライでして(笑)。サッカー観戦はしたことがなかったのですが、上司に連れられて、一昨年の横浜FM戦を観に行ったんです。エスパルスとのつながりを持った試合でした。
 その1年後、今度はビジネスの関係で昨年の国立開催のジェフユナイテッド市原・千葉戦に訪れることが決まりました。おそらく、千葉戦に関しては、仮に国立開催でなくてもスタジアムに訪れていたと思います。
 そこから実際にアイスタでも試合を観るようになり、どんどんのめり込んで、今やホームだけでなくアウェイにも足を運んでいます。

宮本さん 私は20年来エスパルスを応援しているコアサポーターの上司がいて、去年の千葉戦に誘っていただいたことがきっかけで、本格的にエスパルスにハマりました。やはり、国立に行ってみようと思ったきっかけは、交通の便の良さが大きかったです。試合後に飲みに行って、試合について話ができるのが魅力的でした。映画を観に行くくらいの感覚で、1つのエンターテインメントとして観に行きました。

ミノさん 私はコロナ禍の頃にプレミアリーグを観始めて、サッカーをリアルで観たいと思ったことがきっかけです。都内に住んでいるのでアクセス面の良さもあり、まずは国立競技場の試合に行ってみようと思い、それが2022年のエスパルスの試合でした。
 何度も観戦を重ねるにつれて理解していきましたが、エスパルスは、クラブにもサポーターにも、新しいサポーターを増やすための前向きなアクションや雰囲気があります。自然と「もう1度行ってみよう」という感覚になれたのも、周囲のお陰なんだなと思いました。もともとリアルで応援したいというのが出発点なので、何度かアイスタを訪れるうちに、メインスタンドから居場所を移してゴール裏での応援にも参加し、今やほぼ毎試合観に行くようになりました。
 ただ、都内在住で清水を「ホーム」に選んだ身からすると、アイスタに足を運ぼうと思っても、なかなか遠いんですよね。単に自分の選択の結果でもあるのですが。

楯石さん 立地は大きいですよね。去年の国立の試合に誘って一緒に観戦した私の知人のほとんどが、エスパルスの存在をよく知りませんでした。もちろん、「なんかサッカー観てみたいな」という方も多かったのですが、最も多かったのは「国立の中に入れるのが嬉しい」という方でした。新・国立競技場になってから、見るきっかけがなかった方も意外と多いのかもしれません。なので、「国立」に興味を持っている方が多かった印象はありますね。

今では清水のホームだけでなく、一緒にアウェイ遠征に行く仲間に 【本人提供】

Q:東京オリンピックが開催された会場でJリーグの試合が行われるというのは、普段からサッカー観戦をしたことがない方、スポーツ観戦に訪れたことがない新規層やライト層の方も誘いやすいですよね。

ミノさん おそらく、スポーツ観戦をしたことがない方からすると、花火大会や音楽のライブに誘われているのと変わらないのではないでしょうか。普段から頻繁にスタジアムに足を運んでいても国立はちょっとした特別感がありますが、観戦がほぼ初めての人にとっても、国立で試合をやるのは、ライブに誘われてちょっと心が浮き立つような、特別なイベントだと思います。

 当たり前なのですが、試合結果は事前にはわからないので、連れて行った友だちに勝利を味わって楽しんでもらえるかどうかは約束できません。ただ、エスパルスの場合は応援のリズムがオシャレで、そのライブ感というか、ユニークさとワクワク感に関しては、約束してあげられると思っています。今やサポーターの内側にいるので客観視は難しいですが、観戦し始めた頃のその感覚やエスパルスの応援の魅力は、誘った友だちにも共有できたら嬉しいですね。
Q:これまでに国立で一緒に観戦された方からの感想はどのようなものがございましたか?

楯石さん 国立はアイスタと違って屋根があるので、声が反響しやすいですよね。ゴールが決まった時のコールや歓声、メイン・バックスタンドの人でも手拍子で参加できるようなチャントの統一感が凄かったと感じたようです。スタジアムを飲み込むような雰囲気に驚いた、圧倒されたと言われました。

宮本さん 自分も「国立に入れて良かった」という声が多かったですね。自分が誘うようなライト層の方々は、試合の内容や選手の動きなどよりも、“体験”の全体感を見ていると思います。老若男女いろんな人がいて、温かい雰囲気を感じました。

ミノさん 私は去年、「全然サッカーに興味がない」と言っていた友だちを連れて行って、最初はそんなにテンション高くなかったのですが、得点が入った瞬間に、笑顔ではしゃいでハイタッチしているのが印象的でした。
 また、個人的にはキックオフ前の「レオレオ」(※清水エスパルスの応援歌)に心を揺さぶられましたね。国立の大観衆、迫力が本当にすごかったですし、初めて見ると「なんでこれだけの人数が当然のように息を合わせられるの?」という驚きもありました。
 あとは、去年の千葉戦で実施した電気グルーヴのミニライブは、ライト層の方を誘うフックになるので非常にありがたかったです。

楯石さん 本当にそう思います。常にあのような演出をしてほしいというわけではなくて、1年に1回のお祭りのような感じで、今後何年も続いていってほしいなと思います。

いつも以上に試合前のイベントも多く、友人や同僚を誘いやすい国立での試合 【©️J.LEAGUE】

Q:試合が行われている時間以外の演出なども含めて、普段のアイスタでの試合とは異なる体験ができているのでしょうね。

楯石さん そう思います。サポーター以外の方にとっては、勝った負けたはあまり関係ないと思っています。2022年の横浜FM戦は、私が初めてのサッカー観戦だったこともあって、正直なところ試合内容をあまり覚えていないんです。ただ、応援の迫力がすごかったことは鮮明に覚えています。ライト層の人たちにとって、試合の結果はあまり重要ではないのではないでしょうか。

ミノさん きっと、連れていった家族や友だちにとって大事なのは、エスパルスが勝つことよりも、エスパルスが勝って僕らの機嫌が良くなることだと思います(笑)。

1/2ページ

著者プロフィール

神奈川県出身のフットボールライター。Jリーグを中心に取材活動を行っており、これまでサッカーキング、サッカー専門新聞ELGOLAZO+を中心に寄稿。2024シーズンよりELGOLAZO+にて清水エスパルスを担当している。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント