超攻撃的ウイングバックが生んだ大量得点 日本が最終予選の「鬼門」を突破した理由
「全体の連携」の中でサイドが生きる
三笘の個人技を「生かす」連携があった 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
「1対2の状況を作ると、バックパスをしたら絶対に空いています。仕掛けるフリをして、バックパスで数的優位を作ることも意識しました」
相手が右に食いついてくるなら、左には必ずスペースがある。狭いところをこじ開けるよりも、広いところにボールを運んだほうがいい。
そして左サイドの連携も鮮やかだった。三笘はこう説明する。
「町田(浩樹/左センターバック)は左足の素早いボールを足元に届けてくれるので、より早く仕掛けられるのが武器になったと思っています。南野選手は間で受けることもあれば、後ろから入ってきて得点シーンのように仕掛けることもできる。そこを見ながら、距離感があれば自分が仕掛けることを考えながら、それぞれのレパートリーを考えながらやっていました」
結果的にウイングバックとシャドーが光る展開となり、1トップの上田綺世は無得点だった。もっとも上田の縦パスを引き出す、センターバックと駆け引きをして混乱を誘う、スペースを開ける動きがあったからこそ周りは生きた。
上田が引いてセンターバックを食いつかせたら、南野は入れ替わってゴール前に入る。三笘は南野が近くにいれば使うし、少し距離があれば仕掛ける。堂安が中に入れば、久保は外に開く――。そうやって重ならないように、全体のバランスが崩れないように、日本は位置取りで変化をつけ、状況に合わせたアクションを起こしていいた。
「全体のバランスを保ちつつ『隣のレーン』と入れ替わる」動きは現代サッカーの基本だが、代表は連携の構築が難しい。今回の日本代表も過去の蓄積があるとはいえ、直近の全体練習はわずか2日だった。にもかかわらず中国戦に限ればかなり高度な連携が成立していた。そこは結果と同様に、大きなサプライズだった。
「前からの守備」で90分を戦い切る
試合後の久保は「頭が疲れた」と口にしていた 【写真:つのだよしお/アフロ】
森保一監督は試合をこう総括する。
「攻撃的な選手である右サイド堂安、左サイド三笘、シャドーに入った久保、南野、FWの上田も含めてみんなが高い守備意識を持って、我々の戦いをしてくれていました。最後はおそらく中国がサイド、我々の攻撃的選手のところを突いてチャンスを作ろうとしていたと思います。だが守備もみんなしっかりと献身的に、泥臭く戦ってくれた結果、無失点に抑えながら攻撃の特徴も出してくれました」
堂安もこう述べる。
「攻撃的な選手をウイングバックにして3バックができるのも、前線の選手の守備意識があってだと思いますし、それがないとおそらくやられます」
日本が取り組んでいたのはそれなりにリスクのある戦術だ。だからこそキックオフからロスタイムまで1枚も「守備的カード」を切らず、形も替えず、攻撃的な選手を攻撃的な選手に入れ替えただけで90分を戦い切ったことは驚きだった。中国戦のピッチに立った16選手のうち15名はヨーロッパでプレーする選手だが、彼らの「経験値」「サッカーIQ」が存分に出た試合だ。
堂安と久保は同じようなコメントをしていた。堂安はこう口にしている。
「最近サッカーが難しくなりすぎていると思います。いろいろやりすぎて、いろいろ考えすぎて……。もっと簡単でもいいかもしれません」
久保も「今日はいろいろ考えることあって、頭がちょっと疲れましたね」とこぼしていた。
ただ中国戦に関しては「いろいろ考えた」ことが、ピッチ上のパフォーマンスと見事に結びついていた。まだ最終予選全体を見れば「10分の1」で、10日(日本時間11日未明)にはアウェイのバーレーン戦が待っている。W杯出場決定も本大会もかなり遠い先の話だ。だとしても中国戦は途中経過として、何よりエンターテインメントとして価値の大きな90分だった。