4団体に4人の日本人王者、バンタム級戦線の近未来は? 武居は天心に異例呼び掛け、中谷の標的は井上弟に

長谷川亮

WBOバンタム級タイトルマッチは、王者の武居(左)が同級1位の比嘉に判定勝ちで初防衛を果たした。今後もバンタム級は日本人選手による席巻が予想される 【写真は共同】

 9月3日、東京・有明アリーナでボクシングのWBOバンタム級タイトルマッチ、王者・武居由樹(大橋)対同級1位の比嘉大吾(志成)が行われた。高いKO率を誇る日本人同士による対決は、3-0(115-112、114-113、114-113)の判定の末に武居が勝利。辛くも初防衛を果たした。

 同日のメインカード、井上尚弥(大橋)とテレンス・ジョン・ドヘニー(アイルランド)による世界スーパーバンタム級の4団体統一戦は、モンスターが本領を発揮する前にドヘニーが腰の痛みを訴えてレフリーストップ。圧倒的な力量差によってあっけない結末に終わってしまっただけに、判定にまでもつれ込んだ武居と比嘉による激戦と比較すると、現在のバンタム級の群雄割拠さが色濃く映る。4団体で日本人が王座に君臨するバンタム級は今後どうなるのか。期待の日本人対決など近未来を占う。

王座防衛の武居が名指しした天心との対戦実現は?

比嘉(左)に苦しめられるも、無敗をキープした武居。実現を切望する天心との対戦前に土がつくことを避けられた 【写真は共同】

「天心くん、10月の試合、頑張ってください。応援しています」

 比嘉を降しWBO世界バンタム級王座を守った武居は、試合後に那須川天心(帝拳)へ異例の呼び掛けを行った。どちらが勝つにしてもKOが予想された試合は、予想通りの打ち合いで展開され、武居は右目を腫らし、左目上のカットに加えてダウンも奪われる。ダウンは終盤11R、足を滑らせスリップ気味に思われたが、比嘉のヒッティングを受けてのものと判断され、レフェリーはダウンを宣告した。

  王者となった5月のジェイソン・マロニー(オーストラリア)戦では最終12Rに失速。あわやの場面を作り、前戦と同様の展開であればそのまま押し切られてもおかしくなかったが、武居はここで前に出て一気の猛攻。比嘉を防戦一方に追い込み、判定で勝利した。

 ジャッジは115-112が1者に、114-113が2者。11R終了時点で105-103、104-104、104-104だったが、最終12Rを制したことで武居が勝利をものにした。試合後に比嘉も「強引さが足らなかった。自分がやらないといけないことを最後に相手にやられちゃいましたね」と振り返った。

 最後の攻勢がなければドローもしくは判定負けもあった試合に武居は、「納得のいく試合はできなくて、まだまだ力不足」と反省しきり。だが、ほぼ短期決着で進んだデビューからの8試合とは一転、ここ2戦は世界王者、ランキング1位の比嘉と強者を相手にタフな12Rを戦い抜いた。

武居から名指しでエールを送られた天心は、10月にWBOアジアパシフィックバンタム級王座決定戦に臨む。武居と対戦するうえではタイトル獲得が最低条件となる 【写真は共同】

 武居が名前を挙げた天心はまだ世界トップレベルの相手と対戦に至っておらず、この点は武居にとってアドバンテージ。対戦が実現し、もつれた接戦となった場合は、今回の比嘉戦の経験が武居に優位に働く可能性がある。

 節目となる10戦目を終えた武居だが、それでもまだ10戦目。「ボクシング技術、ボクシングを底上げしないと世界のトップの人たちは強いのをこの2戦で感じたので、まだまだ成長しないといけないし、できると思うので、頑張りたい」と試合後に語り、未完成であるとともに今後の伸びを感じさせた。
 
 バンタム級はWBAを武居と同門の井上拓真(大橋)、WBCを中谷潤人(M.T)、IBFを西田凌佑(六島)と日本人王者が席巻。日本人同士による王座統一戦への期待が高まっているが、武居は「K-1時代からやりたい気持ちがあった」と、まだ世界王者に名を連ねていない天心を指名。キックボクシングという出自を同じくする2人であり、比嘉戦の前に「無敗同士でやれれば」と武居は語ったが、まずはそのハードルを自身でクリアした。

 天心の次戦は10月14日、フィリピンのジェルウィン・アシロと争うWBOアジアパシフィックバンタム級王座決定戦。WBO認定のこのタイトルを獲れば、さらに武居との対戦が現実味を帯びてくるか。7月の第4戦では、いよいよボクシングと噛み合ってきた姿を見せた天心。第5戦でどんなボクシングを見せ、武居の呼び掛けにどうアンサーするのかが注目される。

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著者プロフィール

1977年、東京都出身。「ゴング格闘技」編集部を経て2005年よりフリーのライターに。格闘技を中心に取材を行い、同年よりスポーツナビにも執筆を開始。そのほか映画関連やコラムの執筆、ドキュメンタリー映画『琉球シネマパラダイス』(2017)『沖縄工芸パラダイス』(2019)の監督も。

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