“最激戦区”バンタム級戦線の現在地 井上尚弥昇級後の4団体で日本人世界王者独占なるか?

長谷川亮

WBAバンタム級のベルトを掲げる井上拓真(中央)。兄の尚弥(左)が去ったバンタム級は“最激戦区”となっている 【写真は共同】

 5月6日、東京ドームで開催される世界スーパーバンタム級4団体統一王者・井上尚弥(大橋)vs.元2階級世界王者で現WBC同級1位のルイス・ネリ(メキシコ)の一戦を間近に控え、盛り上がりを見せるボクシング界。話題の中心がモンスター・井上であることは言うまでもないが、その井上が階級をスーパーバンタム級に上げて去って以降のバンタム級では、日本人の活躍が光っている。

 5月4にIBFの世界戦、エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)vs. 西田凌佑(六島)を皮切りに、5.6東京ドーム決戦でもWBA王者で尚弥の弟・井上拓真(大橋)が同級1位の石田匠(井岡)対決し、WBO王者ジェーソン・モロニー(豪州)に同級10位で元K-1王者の武居由樹(大橋)が挑む。また、WBCはフライ、スーパーフライ、バンタムと3階級を制した中谷潤人(M・T)が君臨するなど群雄割拠な状況だ。今回の結果次第では、4団体で異なる日本人世界王者が誕生する可能性もある。そんな“最激戦区”バンタム級戦線を占う。

無敗の西田はIBF王者ロドリゲスに挑戦

西田はロドリゲス相手に番狂わせを演じることはできるのか。東京ドーム決戦の2日前に世界戦の日程が組まれている 【写真は共同】

 平成2年(1990年)2月のマイク・タイソン(米国)対ジェームズ・ダグラス(米国)戦以来となる東京ドームでのボクシング興行が迫ってきている。メインは言わずと知れた井上尚弥とルイス・ネリによる世界スーパーバンタム級4団体統一タイトルマッチだが、同興行で行われるバンタム級の2つの世界戦も見逃せない。

 バンタム級は井上尚弥が2022年12月に4団体を統一。その後スーパーバンタム級への転向を発表し4団体の王座を返上した。井上が手にした4本のベルトのうち、現在WBA王座は弟の拓真が、WBC王座は中谷潤人が保持。IBF王座はエマヌエル・ロドリゲス、WBO王座はジェイソン・モロニーと、かつて尚弥と対戦した選手が王者に君臨する。このうちゴールデンウイークには3団体のタイトルマッチが実施され、連休明けには日本人がバンタム級王座を独占する状況もあり得るのだ。眩い輝きを放っていた井上尚弥が去ったバンタム級だが、日本人実力者の充実がこの上なく、活況を呈している。

 5月4日には口火を切る形でIBF王者ロドリゲスに西田凌佑(六島)が挑戦。12年6月デビューのロドリゲスは、6年後の18年5月、IBFバンタム級王者に君臨する。そして無敗のまま迎えたWorld Boxing Super Series(WBSS)準決勝で井上尚弥と対戦した(19年5月)。

 まだ底を見せない無敗同士の一戦で、事実上の決勝とも言われたが、井上はロドリゲスを2Rに3度倒してTKO。ボディへのダメージから2度目のダウンを喫し、“ダメだ”と言わんばかりに弱々しげな表情で首を振るロドリゲスの姿は、井上尚弥が見せた強さとともに衝撃的だった。そこから半年、同年11月に再起の舞台へ臨んだロドリゲスだったが、対戦相手のルイス・ネリ(メキシコ)が体重オーバー。違約金を払うことで試合を行うよう交渉したネリ陣営だが、ロドリゲスはこれを拒否。試合は中止となった。

 そこからコロナ禍が発生したこともありロドリゲスの再起戦は遅れ、レイマート・ガバリョ(フィリピン)とのWBC世界バンタム級暫定王座決定戦(20年12月)に臨むも、疑問符のつく判定1-2で敗れてしまう。年が変わって21年8月、団体を変えゲーリー・アントニオ・ラッセル(米国)とWBA世界バンタム級挑戦者決定戦を争ったロドリゲスだが、開始わずか16秒、ラッセルの偶然のバッティングにより続行不可能となりノーコンテストに。

 不運に見舞われ、無敗から一転3年5ヵ月も白星に見放された期間もあった。しかし、ロドリゲスは諦めずに戦い続け、昨年8月にかつて保持したIBF世界王座に返り咲き。初防衛戦で西田の挑戦を受ける。

 西田は96年8月生まれで、奈良出身の27歳。高校でボクシングを始め、3年時に国体フライ級で優勝、大学卒業後一度は就職するも会社を辞めてボクシングの道に戻り、19年10月プロデビュー。サウスポーの技巧派で的確な右ジャブを武器に、ここまで元WBCフライ級王者・比嘉大吾(志成)を降すなど8戦8勝(1KO)と無敗できている。

 ロドリゲスも荒々しさよりテクニックを打ち出した戦いをする選手であり、25戦22勝(13KO)2敗1無効試合と経験で大きく西田を上回り、井上戦での完敗から這い上がってきたタフさもある。前評判はロドリゲスに傾くが、西田はジャブを駆使した空間把握とそこからつなぐ左ストレートでロドリゲスの技巧を空転させたい。世界的評価のあるロドリゲスを降せば、日本人強者が集うバンタム級に割って入ることとなる。

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著者プロフィール

1977年、東京都出身。「ゴング格闘技」編集部を経て2005年よりフリーのライターに。格闘技を中心に取材を行い、同年よりスポーツナビにも執筆を開始。そのほか映画関連やコラムの執筆、ドキュメンタリー映画『琉球シネマパラダイス』(2017)『沖縄工芸パラダイス』(2019)の監督も。

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