首位転落も町田に「反攻」の兆しあり 国立の劇的同点弾を決めた“前エース”エリキが持つ価値

大島和人

エリキが98分に同点弾を決め、町田は浦和と引き分けた 【(C)FCMZ】

 FC町田ゼルビアが3カ月と少しの間、守り続けた首位を明け渡した。町田は8月31日の第29節・浦和レッズ戦を2-2で引き分けたのに対して、サンフレッチェ広島が同日のFC東京戦に3-2と勝利し、両チームは「勝ち点55」で並んだ。広島が得失点差で上回るため、首位に躍り出た。

 ただ国立で開催された浦和戦は、町田の今後に向けた「いい兆し」が見えた試合だった。

チャンスで決め切れず、敗戦寸前に

 公式記録によると、シュートの本数は町田が17本で浦和は6本。コーナーキックも町田が7本で浦和は1本と大きな差がある。町田の先発は平均181.5センチで、173.8センチと小柄な浦和に「高さ」のアドバンテージもあった。

 ただ町田がとにかく決め切れない試合で、37分にはデザインされたセットプレーから浦和の先制を許した。町田はハーフタイム明けの修正に成功し、浦和のインサイドMF3人にマンマークをつけてビルドアップを遮断。49分に、オ・セフンのゴールで同点に追いつく。

 しかし87分にはカウンターからチアゴ・サンタナの勝ち越しゴールを許し、95分にも「幻の3点目」を奪われた。松尾佑介が流し込んだシュートはボールが無いところのファウルで認められなかったが、6分と掲示されたアディショナルタイムは97分台に入り、タイムアップの笛がまさに鳴ろうとしていた。

 窮地を救ったのが後半から起用されたミッチェル・デューク、藤本一輝、そしてエリキだ。まずデュークがGK谷晃生のロングキックに競り勝ち、藤本はセカンドボールから左サイドからドリブルで切れ込む。最後はエリキが鋭い反応からクロスに合わせ、勝ち点0を「勝ち点1」に変えた。

 町田にとって素直に喜べる結果ではなく、記者会見場に現れた黒田監督のコメントも辛口だった。

「シュートは打っているのですが、なかなか1本が入らなかった。無人のゴールでも入らない、フリーでも入らないところに、プレッシャーもあるのでしょうけど、技術の無さがつきまとったゲームでした。悪くても2対0で勝たなければいけないゲームだったと思いますし、チャンスをしっかりと決めていれば3点4点と取れるチャンスもありました。我々にとって反省すべき試合だったし、選手にもそこを伝えてきました」

 指揮官が「後半は押せ押せのムードで、相手のポゼションをしっかり遮断した中で、良いチャンスをつかめていた」「前で潰せる時間、ルーズボールを拾える時間は増えた」と振り返るように、後半は町田の流れだった。しかしFW藤尾翔太が2度3度とあった決定機を決め切れなかった。

出番を失った選手たちは何を思ったのか?

鈴木準弥は「ライバル」が日本代表に招集された 【(C)FCMZ】

 もっとも藤尾はここまで攻守両面で町田を引っ張ってきたエースだ。キャプテンの昌子源は言う。

「ウチで一番点を取っていますし、彼がエースであることに変わりはありません。僕たちがどうこう言うのでなく、エースストライカーとして、自分で解決してやっていくものだと思っています。セフンもそうだけど、FWは点が取れないときに言われるし、シビアなポジションです。でも彼が彼なりにやって、色んなことを吸収して、次はチームを勝たせる点を取るのではないかと(思っている)」

 同点弾のエリキは昨シーズンのJ2 MVPで、町田の「前エース」だ。だが昨年8月19日の清水エスパルス戦で左膝の重傷を負い、今年5月の復帰後もなかなか結果を出せていなかった。直近の2試合は右サイドハーフとして起用されていたが、8月25日のアルビレックス新潟戦は前半45分でベンチに下げられている。オ・セフンや藤尾翔太が首位のチームを牽引する影で、出番とゴールを減らしていた。

 エリキは81分、荒木駿太の負傷後に「5人目の交代選手」としてピッチに入った。彼はこう振り返る。

「1秒だけでももらえたならば、必ず(チャンスを)モノにするというメンタリティで準備をしていました。(同点ゴールは)本当に感動的な瞬間でした」

 チームが首位を走る中でも、町田には悔しさを抱える選手たちがいる。浦和戦の鈴木準弥は右サイドの起点となり、特に攻撃面で貢献を見せていた。統率力も含めてチーム内の評価は高い彼だが、若きライバルの台頭で出番を減らしている。しかも2日前には望月の日本代表招集というニュースがあった。

「日本代表はすごいところですし、自分自身も目指している場所です。今シーズンの最初は自分が出ていて、途中からヘンリーに替わり始めて、結果を残して代表に行く――。そこはシンプルに選手として悔しさがあります。でもヘンリーの特徴、ダイナミックさはみんなの目に留まるものです。それにせっかくJ1の上位にいて、自分とポジション争いをしている選手が代表になったのだから、何か吸収できるものがないかな?とも思っています。素直に悔しい思いと、もっとやらなきゃという思いの両面です」(鈴木)

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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