F1オランダGPでノリス圧勝! マクラーレンの躍進を支える日本人エンジニア

柴田久仁夫

マクラーレン躍進の影の立役者

マクラーレンのモーターホームで、ランド・ノリスと談笑する今井 【©柴田久仁夫】

 第15戦オランダGP。マクラーレンのランド・ノリスが、2位マックス・フェルスタッペンに22秒896もの大差をつけて、キャリア2勝目を挙げた。

 今季三度目のポールポジションからのスタート。過去2回はいずれもスタートで順位を落とし、優勝を逃してきた。今回も加速が伸びず、フロントローのフェルスタッペンにあっさり首位を奪われてしまう。

 しかしフェルスタッペンは、そこからノリスを振り切れない。先行するレッドブルマシンの乱流もかまわず背後につけたノリスは、18周目のターン1で仕留め首位に返り咲く。そこからはノリスが一方的に差を広げ、フェルスタッペンはなすすべもなかった。

 王者レッドブルに23秒近い差をつけての勝利は、今やマクラーレンが完全に最速マシンとなった表れと言える。そんな大躍進の影の立役者ともいうべき人物が、日本人エンジニアの今井弘だ。

 ブリヂストンでレーシングタイヤの開発に携わり、マクラーレンではタイヤスペシャリストの観点からレース戦略やマシン開発に関わってきた。今やマクラーレンのエンジニアの中でも古株となった今井は、アンドレア・ステラ代表の右腕としてレース現場を統括する。

「ヒロシが大丈夫だと言ってる」

ピットで作業中の今井。ピアストリの担当エンジニア、トム・スタラード(左)も、よく無線で「ヒロシ」の名前を出す 【©柴田久仁夫】

 マクラーレンのドライバーと担当エンジニアの無線では、他のチームだとまず聞くことのないユニークなやり取りが聞ける。ある特定のエンジニアの名前が、頻繁に出てくるのだ。

 最近では7月のハンガリーGPで、首位を譲れというチームの指示を無視し続けたノリスに、担当エンジニアのウィル・ジョゼフがこう言った。

 「ランド、きみのタイヤの使い方に、ヒロシがストレスを溜めてる」

 今のラップタイムだと、タイヤが最後まで持たないと今井エンジニアは判断している。だからペースを落とせという指示だった。それでもノリスは抗ったが、最終的にオスカー・ピアストリに順位を譲り、2位チェッカーを受けた。

 ドライバーを励ます際にも、「ヒロシ」の名前はよく出される。たとえば2021年のロシアGP。これもノリスとジョゼフのやり取りだったが、上位入賞を狙ってプッシュを続けるノリスが、「このペースでもタイヤは持つ?」と訊いてきた。それに対しジョゼフは「ヒロシが大丈夫だと言ってる」と返すと、ノリスは安心したようにさらにペースを上げて行った。

 同じ年のポルトガルGPでは、「ヒロシがソフトタイヤを見て、きみがすごくいい走りをしたと言ってる」と、ジョゼフがノリスを励ましたこともあった。

 レース現場を統括する立場の今も、今井は交換した後のタイヤを丹念にチェックし、エンジニアに伝えている。細かい路面コンディションや、車体の挙動変化など、そこから読み取れる情報は多く、それが戦略変更につながることも少なくない。そんな今井の仕事ぶりをドライバーや同僚エンジニアたちが高く信頼しているからこそ、「ヒロシ」の名前が効果を発揮するのだろう。

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著者プロフィール

柴田久仁夫(しばたくにお) 1956年静岡県生まれ。共同通信記者を経て、1982年渡仏。パリ政治学院中退後、ひょんなことからTV制作会社に入り、ディレクターとして欧州、アフリカをフィールドに「世界まるごとHOWマッチ」、その他ドキュメンタリー番組を手がける。その傍ら、1987年からF1取材。500戦以上のGPに足を運ぶ。2016年に本帰国。現在はDAZNでのF1解説などを務める。趣味が高じてトレイルランニング雑誌にも寄稿。これまでのベストレースは1987年イギリスGP。ワーストレースは1994年サンマリノGP。

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