坪井慶介が見た男子サッカー決勝の“死闘” 考えさせられた「組織と個のバランス」と「OAの是非」
“ドリームチーム”と言われた92年バルセロナ五輪以来の金メダル。スペインは組織の力と、フェルミン(右)やバエナ(左)らの個の力をバランスよく融合したチームだった 【Photo by Eurasia Sport Images/Getty Images】
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即興性に委ねる部分が大きかったフランス
スペインの決勝ゴールは、延長前半の100分だった。複数人が連動してパスをつないで崩し、最後は途中出場のカメロが冷静に浮き球のシュートを流し込んだ 【Photo by Icon Sportswire/Getty Images】
立ち上がりは、ホームの観客に背中を押されたフランスの出足が素晴らしかった。前からプレッシャーをかけて相手のクリアミスを誘い、11分に幸先よく先制しましたが、スペインもその勢いにのみ込まれることなく押し返しました。
優勝したEURO2024のA代表もそうでしたが、スペインは中がダメなら外、外がダメなら中という使い分けが本当にうまいんです。開始早々にキープレーヤーのフェルミン(・ロペス)が二度、厳しいチェックで削られました。中央をこじ開けるのは難しそうだと判断すると、両サイドバックを高い位置に押し出し、サイドを起点に攻めることで、意識的にフランスの守備陣形を横に揺さぶるようにしたんです。その結果、18分の同点ゴールは右サイド、25分の逆転ゴールは左サイドを起点にして生まれました。
ただ、これもA代表に通じることなんですが、今のスペインは伝統的な組織としての崩しにプラスして、個の力による局面打開もかなり意識するようになっています。今日で言えば、左サイドバックの(フアン・)ミランダの突破であったり、同点、逆転弾を奪ったフェルミンの決定力であったり。3点目を決めたアレックス・バエナの見事な直接フリーキックもそうでしょう。その「組織と個のバランス」が非常にいいんですね。
フランスも後半の頭から、アンカーの(マニュ・)コナも積極的に前線に飛び出すなど、文字通り総攻撃を仕掛けます。その力押しが実って、2点のビハインドをはね返すわけですが、スペインとの比較で言えば、やはり個の力、即興性に委ねる部分が大きかったように思います。オーバーエイジの(ジャンフィリップ・)マテタと(アレクサンドル・)ラカゼット、そしてトップ下の(ミカエル・)オリズ。結局、この強烈なアタッキングトリオの力で、ここまで勝ち上がってきた印象もありますし、最終的には「組織と個のバランス」という部分で、本当にわずかな差が生まれたのかなと思います。
スペインは後半にフェルミン、バエナという攻撃のキーマンを下げ、最後は5バックにして逃げ切りを図ります。結果的に土壇場(90+3分)で追いつかれたとはいえ、個人的には間違った選択ではなかったと思っています。あの時間帯、後ろを5枚にしてスペースを消すことを優先するのは当然ですし、勝利という結果にこだわればこその判断。そうした割り切った戦い方ができるようになったのも、ここ最近のA代表も含めたスペインの変化ではないでしょうか。
守備に関しても、スペインには個の力を感じました。フランスの2点目(フリーキックから)と3点目(コーナーキックからファウルで得たPK)は、いずれもセットプレーから。流れの中から奪われたものではありません。エリック・ガルシアと(パウ・)クバルシは高さ勝負で劣勢を強いられましたが、決して相手に良い形でシュートを打たせなかった。そこは個の守備戦術、駆け引きの巧さだったと思います。それは、スーパーセーブを連発したキーパーのアルナウ(・テナス)についても言えるでしょう。