小田凱人「I am a Dreamer 最速で夢を叶える逆境思考」

17歳で史上最年少世界ランク1位となった小田凱人 「人と違っていい」から生み出される「自分らしさ」とは

小田凱人

【Photo by Daniel Kopatsch/Getty Images】

17歳の若さでその名を轟かせた、小田凱人(おだ・ときと)。
9歳のとき、左脚の骨肉腫を手術したことで車いす生活を余儀なくする。「サッカー選手になりたい!」という夢は絶たれたが、偶然出会った車いすテニスでいま世界中から大注目を集めている。驚くべきはラケットを初めて手にしてから、わずか8年での偉業達成である。

◎なぜ、驚異的な記録を短期間で達成することができたのか?
◎なぜ、大病を患ったのに前向きでいられたのか?
◎なぜ、厳しい世界で勝ち続けられるのか?
◎なぜ、プロでも「楽しさ」維持し続けられるのか?

本書は、小田凱人の人生をひとつずつ紐解きながら、「最速で夢を叶えた秘訣」を明らかにする。
小田凱人著『I am a Dreamer 最速で夢を叶える逆境思考』から、一部抜粋して公開します。

他者との「ズレ」は「個性」になる

 僕の家は、他と比べて少し変わっている。例を挙げてみよう。

・テレビがない
・部屋の壁が赤
・トイレの壁が紫
・家のあちこちに時計がある(今パッと思いつくだけでも5つある)。……しかもどれも時間が合っていない(笑)
・自転車が、5台も6台もある
・部屋に仕切りがないので、常に、誰がどこにいるかが丸わかり
・玄関からリビングまでは、土足で入れる

 と 、このように、人も物もツッコミどころ満載だ。一言で表すと「自由な家」である。

 小さなころは、大して気にもしていなかったのだが、あるときから「僕の家は、ちょっと変だぞ」と感じるようになった。そのきっかけは、友達の家へ遊びに行くようになったことだ。当たり前なのだが友達の家は、土足で家に上がることもないし、時計の数もほどほどだし、部屋もきちんと仕切られている。このように、自分を誰かと比べたときに、他者とのズレを意識し始めるのだ。

「あれ、僕って少しズレている?」

 このように、誰かと比較をすることで起こる違和感は、環境に限ったことではない。友人たちと付き合うなかで感じることはいくらでもある。

・友達との会話がうまくかみ合わない
・テレビがないから話についていけない

 こうしたちょっとしたズレが積み重なってきたとき、僕って「普通」じゃないのかな?と不安を感じる気持ちも大きくなっていくのだろう。

 読者のなかにも、こういった出来事に直面したとき、みんなについていけずに寂しい、辛い、輪に入れない、といった孤独の感情に押しつぶされそうになる方がいるかもしれない。

 ただし僕が幸せだったのは、それらのズレをネガティブに捉えなかったこと。これは間違いなく、家の環境がそうさせてくれている。不思議で、ナゾだらけだった僕の家は、見方を変えれば「見どころ」がたくさんある家なのだ。飽きることがない。
だから、僕は「心が豊か」になったと思う。

 家にいるだけで、感受性が磨かれた。誰かとズレていても「別にいいじゃないか」「いろんな人がいていいんだ」と、ズレをズレのままにしておくことにした。

 やがて僕は、アスリートとして世界に出る機会が増えた。驚いたのは、世界で活躍している方ほど「みんな個性的」なのだ。友達同士で感じるズレなんて比較にならないくらい個性豊かで、他人に合わせることなどもってのほか。同じ競技でも、それぞれのやり方を突き通し、自由にプレーしているのだ。

 いや、より正確にいうならば、僕がズレだと思っていたものは、ズレではなかった。なにかを成しとげている方、誰よりも輝いている方たちには、その方にしかない「魅力」があるんだと知った。

 ちなみに僕はアスリートとしてだけではなく、「エンターテイナー」というキャラクターも個性として大事にしている。試合でポイントを獲ったとき、ガッツポーズをとり大きな声で吠えるのは、自分を奮い立たせるために始めたパフォーマンスだ。

 それから、試合に勝ったときにラケットをギターに見立て、「ジャーン」と弾くポーズをするのだが、これは応援してくれた観客と喜びを分かち合うためのセレブレーションだ。

 このように、誰もやらないことをすることで、僕は「人と違う」ことを自ら進んで行っている。

 ところで僕は以前、とんねるずの木梨憲武さんとテレビでご一緒させていただいたことがある。木梨さんのエンターテイナーとしてのかっこよさは、まさに超一流だった。

 現場では、スタッフにも、他のタレントさんと分け隔てなく接する。そして、「さあみんな、次はなにしよう!?」といったように、誰よりもその場を明るく、ポジティブに引っ張っていき、まさに「支配」していた。

 その姿を見た僕は、アスリートとしてと同じくらい、いくつになってもエンターテイナーとしてもあり続けたいと強く感化された。

 個性的な家で育ったこともあり、「人と違っていい」という気づきをくれた両親にはほんとうに感謝している。

……ちょっと笑い話だが、両親たちは今、エンターテイナーとしての姿を見て「アスリートなんだから、もう少し落ち着いてほしい」と思っているようだ。小田家の長男として生まれたからには、それは厳しい話であろう(笑)。

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著者プロフィール

 2006年5月8日生まれ。愛知県出身。9歳のときに骨肉腫になり車いす生活に。10歳から車いすテニスを始め、数々の偉業を最年少で達成。2023年、全仏オープンでグランドスラム史上最年少優勝(17歳1か月2日)&最年少世界ランキング1位(17歳1か月4日)を達成し、ウィンブルドンも制覇。  名実共に、車いすテニス界の次代を担うトッププレイヤーとして国内外から注目されている。東海理化所属。世界シニアランキング1位、世界ジュニアランキング1位(2024年4月1日現在)。

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