柔道混合団体、フランスの返り討ちで銀メダルに 個人戦との違いや奥深さを杉本美香が熱弁

田中凌平

柔道混合団体の決勝で日本はフランスに敗戦。東京五輪決勝で敗れた相手へのリベンジは果たせなかった 【写真は共同】

 パリ五輪の柔道が8月3日(日本時間4日)に最終日を迎え、最後の種目となった混合団体が行われた。東京五輪の決勝でフランスに敗れた雪辱を果たすべく臨んだ今大会、日本は再び決勝でフランスと相まみえた。第7試合の代表戦までもつれこんだ死闘は、斉藤立(JESグループ)がフランスの英雄テディ・リネールに敗れる形で決着。日本は同種目で2大会連続となる銀メダルに終わった。

 この日の日本は2回戦のスペイン戦から登場。初戦から第7試合の代表戦までもつれこんだが、高市未来(コマツ)がクリスティナ・カバナペレスに一本勝ちを決め、準々決勝へ駒を進めた。その後は、準々決勝のセルビア戦で4-1、準決勝のドイツ戦は4-0と順調に勝ち上がった日本だったが、東京五輪でも立ちはだかった“フランスの壁”を越えることができなかった。

 男女3名ずつ計6選手で行われる混合団体では、選出される選手によって試合の運び方が大きく変わるのが特徴だ。ロンドン五輪の柔道女子78キロ超級の銀メダリストで、世界選手権で日本人女子選手初の二階級制覇を果たした杉本美香さんに、決勝のフランス戦の見解と混合団体特有の階級差のある対戦について語ってもらった。

階級が上の選手に勝つための“戦略”が見えた

階級が上のフランスの選手たちにも果敢に挑んだ日本勢。特に角田(下)は体重差関係なく自身の柔道スタイルを貫いた 【写真は共同】

 非常に悔しい結果となりましたが、団体戦の特有の魅力や奥深さが凝縮された試合となりました。今回はケガで出場できない選手もいましたが、だからこそ選手に加えてスタッフや練習パートナーなど、多くの人の想いがひとつになったチームで戦っているように感じましたね。

 混合団体の特徴の一つは、自分の階級と異なる選手と戦う試合もあることです。個人では圧倒的な強さで金メダルを獲った阿部一二三選手(パーク24)でしたが、ひとつ階級が上の選手と戦うだけでこんなにも苦戦するんだなと皆さんも目の当たりにしたと思います。阿部選手は自身の柔道を思う存分出していましたが、ことごとくジョアンバンジャマン・ガバ選手に防がれてしまいましたよね。

 高山莉加選手(三井住友海上)は下の階級であるにもかかわらず、本当に素晴らしい勝利でした。相手のロマヌ・ディコ選手は男子でも「力が強い」と言うほどパワーのある選手ですし、相手が踏ん張れないような位置に体を持っていく繊細な戦い方もします。ただ、高山選手が大内刈りで投げてから粘り強く技をかけにいくのが予想外だったのではと思います。高山選手は低い位置で技をかけることや、力を抜いて「待て」なのかと思わせた瞬間に技に入る“駆け引き”が得意な選手です。ディコ選手の一瞬の隙をついた見事な「技あり」でした。

 角田夏実選手(SBC湘南美容クリニック)は2階級も上の相手に自身の柔道スタイルを貫く、“かっこいい試合”を見せてくれました。巴投げを何回もかけるのですが、技が入っても持ち上げられてしまう姿に「どう戦い方を変えるのだろう?」と見ていたのですが、全く戦う姿勢を変えませんでした。組み方などを変えている部分はありましたが、全ては巴投げに持っていくための戦術であることが一貫していましたね。試合展開に応じて冷静に打ち手を考えて実行するには多くの経験が必要です。それができる角田選手は試合の運び方が上手だと感じましたし、自分の得意技への自信が溢れ出ていましたね。

長年のライバルとの一戦で見えた“駆け引き”

長年のライバル対決となった高市(右)とアグベニェヌの一戦。杉本さんもこの試合が事実上の決勝戦だったと語る 【写真は共同】

 高市選手は個人戦で2回戦敗退に終わり、悔しい思いをしています。なので、階級が同じクラリス・アグベニェヌ選手との試合を決勝戦のような気持ちで臨んでいたと思います。一方でアグベニェヌ選手は東京五輪後に出産して、膝のケガも乗り越えてのパリ五輪だったので、どこまで仕上がっているのかが楽しみでした。個人戦では銅メダルを獲得しましたし、地元開催ともあって団体戦にかける思いは強かったと思います。

 両選手の激突は、一見すると高市選手の姿勢の良さが際立っており、組み手も上手でアグベニェヌ選手に完全に対応できているように見えましたよね。しかし、アグベニェヌ選手は指導を取られない程度に相手の対応や息づかいまで見て、ここぞという瞬間に技をかけられる選手です。今回は、試合の途中でアグベニェヌ選手は組み手を微妙に変えていて、高市選手が「えっ」と戸惑いを見せた瞬間に決めにいきましたね。

 両選手は昔からのライバル関係であり、完全にお互いの手の内を把握しています。なので「どちらがほんの一瞬のチャンスをものにできるか」という勝負でした。私はこの2人の試合が見られるだけで胸が熱くなりました。

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著者プロフィール

東京都出身。フリーライター。ラグジュアリーブランドでの5年間の接客経験と英語力を活かし、数多くの著名人や海外アスリートに取材を行う。野球とゴルフを中心にスポーツ領域を幅広く対応。明治大学在学中にはプロゴルフトーナメントの運営に携わり、海外の有名選手もサポートしてきた。野球では国内のみならず、MLBの注目選手を観るために現地へ赴くことも。大学の短期留学中に教授からの指示を守らず、ヤンキー・スタジアムにイチローを観に行って怒られたのはいい思い出。

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