男子バレー、メダル獲得には「石川の爆発が不可欠」 元代表主将・山村宏太が考えるエース復活の策とは?

田中夕子

日本は最終戦でアメリカに敗れ、1勝2敗・勝ち点4のグループ3位で予選リーグを終えた。なんとか駒を進めた準々決勝では、どんな戦いを見せてくれるのか 【写真は共同】

 男子バレーボールの日本代表は、パリ五輪予選リーグ最終戦でアメリカに1-3で敗れプールCの3位に終わったものの、セット率により全体の8位として準々決勝進出を決めた。元日本代表キャプテンで、今春までV1サントリーサンバーズの監督を務めた山村宏太氏に、アメリカ戦の日本の戦いぶりを解説してもらうとともに、決勝トーナメントに向けた課題、期待することを聞いた。

大黒柱を外すという勇気ある決断が吉と出た

ブラン監督は第3セットのスタートから石川に代えて大塚(写真左)を起用。この英断が奏功し、流れを引き寄せた日本は、1セットを獲るという最低限の目標をクリアした 【写真は共同】

 準々決勝進出が決まりました。

 ターニングポイントは、(アメリカ戦の)第3セットでした。アメリカ戦に限らず、オリンピックが始まってから石川祐希選手の調子が今ひとつ上がらないなか、フィリップ・ブラン監督が石川選手から大塚達宣選手に代えた。そして大塚選手、同じく小野寺太志選手に代わった髙橋健太郎選手を含め、途中出場の選手が頑張ってくれましたね。

 チームの大黒柱を外すのは非常に勇気がいること。あの場面で、ブランさんはよく決断したな、という印象です。でもそれぐらい、今日(アメリカ戦)の石川選手はあまり調子がよくなかった。そして結果的に交代が吉と出ました。

 この試合で1セットも獲ることができずに敗れていたら、自力での準々決勝進出の可能性は消えるところでした。そういう意味で言えば、まずはアメリカ戦で1セットを獲るという最低限の目標はクリアできた。それは素直によかったと思いますし、評価すべき点でもあります。

 とはいえ、石川選手の状態は少し心配です。アメリカ戦も相手がサーブで攻めてきていたこともありますが、1セット目はほとんどパイプがなかった。初戦のドイツ戦から、石川選手と(セッターの)関田誠大選手のタイミングが合っていないのも気がかりでした。

 アルゼンチン戦でも改善されたわけではなかったのですが、関田選手はその状況を打破すべくまずミドルの攻撃回数を増やして、小野寺選手も数多く決めることができた。アメリカ戦も同様に、パイプがなかなか使えなかったので関田選手はまずミドルのクイックを使おうとしましたが、ブロックが高く、ディフェンスがしっかりしているアメリカのようなチームにはなかなか通用しない。そもそもパイプが少ないことは相手もわかっているので、まずクイックに対してブロックを手厚くしていこう、と対応された結果、やりたいことができないまま2セットを獲られてしまいました。

 2セット目に入って、ようやくパイプが決まりましたが、そもそもなぜ使えなかったかというと、サーブレシーブが乱されていたというのが1つの要因でした。

 その結果、淡泊なバレーになってしまい、1、2セットはミスと被ブロック(相手のブロックポイント)で日本は11失点している。本来日本がやりたいバレーボール、しつこくリバウンドを取って、いい状況をつくるためには、まずサーブレシーブを安定させなければならないということで大塚選手が投入され、3セット目に改善された。サイドアウトが取れるようになって全体が落ち着き、ネガティブなミスが少なくなりました。

 日本がやりたいバレーボールをさせないために、アメリカはサーブで攻めることを徹底してきました。序盤からミスを恐れず、実際にセット平均5本程度のミスを出していましたが、サーブが機能しないと苦しい展開になることを理解していたのでどんどん攻めてきた。3セット目を日本が獲った後、4セット目に入ってからは一段とアメリカのサーブのギアが上がったので、また流れを引き戻されてしまった。日本が勝つためには、サーブレシーブを安定させることが1つの鍵になる、と再認識させられた試合でした。

石川と髙橋藍のポジションの入れ替えを試す価値はある

石川の調子がなかなか上がらないことで、チーム全体の決定率も下がっている。準々決勝では、悩めるエースが本来の姿を取り戻すことが期待される 【写真は共同】

 アメリカ戦の結果も受け、準々決勝ではどの選手がスタートで、どんな布陣でいくのかも注目です。石川選手の調子も気になりますし、ミドルも誰がスタートでいくのか。監督としては非常に悩ましく、難しいところですね。

 繰り返すようですが、日本にとって石川選手は大黒柱とも言うべき存在です。何とか調子を上げていこうと関田選手もタイミングを気遣いながらトスを上げているのですが、ここまではなかなかうまくいかず、他の攻撃を選択するケースも多くなる。当然、今までも誰かに頼って勝ってきたわけではなく、全員が活躍してバランスよく決めるのが日本の強みではあります。ただ、石川選手がなかなか決まらないことで全体の決定率が下がってしまっているのが現状です。

 打開策として、これはあくまで僕のアイデアですが、1つ、思いついたことがあります。

 石川選手が交代した3セット目に、本来石川選手が入るポジション2(セッターの隣、セッターの次にサーブを打つポジション)に髙橋藍選手が入りました。同じアウトサイドヒッターの選手が入るポジションとはいえ、ポジション2と5(オポジットの次にサーブを打つポジション)ではサーブレシーブに入る場所や、ライトからの攻撃が求められる場面があるなど、さまざまな違いがあります。

 これまでは石川選手がライトからの攻撃を得意とすることなどを考慮し、石川選手がポジション2に入り、バランスに長けた髙橋選手がポジション5に入っていました。でも石川選手に代わって大塚選手が入ることで髙橋選手がポジション2、大塚選手がポジション5に入る新しい布陣を試すことができた。このパターンを、アメリカ戦だけでなく新たなオプションとして加えることもできるかもしれません。

 アメリカ戦は大塚選手のサーブレシーブが安定していましたが、もしも次の試合で髙橋選手と石川選手の位置を入れ替えたら、髙橋選手がゾーン6(コート後衛中央)でサーブレシーブをする回数が増えるので、より広い範囲をカバーできるようになり、石川選手はサーブレシーブの負担が減って攻撃に専念できるかもしれない。練習でそのパターンを想定しているかどうかはわかりませんが、対応できる力のある選手たちです。試してみる価値はあるのではないでしょうか。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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