清水邦広が感じる男子バレー代表躍進の要因「僕が代表にいる間に感じた転機は、2014年に…」

米虫紀子

8月で38歳になる日本バレー界のレジェンド・清水は五輪の舞台を二度経験 【© OSAKA BLUTEON】

 北京と東京──。五輪の舞台を二度、経験している清水邦広選手。まもなく38歳を迎える今も現役で活躍する、日本バレー界のレジェンドに、来たるパリ五輪の見どころ、注目選手を聞いてみた。『バレーボール男子日本代表 応援BOOK 』(Gakken Mook)から抜粋して公開します。

世界を知った選手たちが日本のレベルを底上げした

――男子日本代表は昨年、ネーションズリーグで銅メダルを獲得するなど躍進し、今年は世界ランキングを2位にまで上昇させました(6月24日現在)。パリ五輪ではメダル獲得の期待も高まっており、選手たちも「メダルを目指す」とハッキリと口にしています。苦しい時代も経験しながら長く代表を引っ張り、2021年の東京五輪でもプレーされた清水邦広選手から見て、日本がメダルを目指せるほど強くなった要因はどこにあると思いますか?

清水 一つの要因としては、海外のリーグでプレーする選手が増えて、海外の選手の高さやパワーに慣れることができたということが挙げられると思います。それを、先頭に立って導いてきたのがやはり石川祐希選手。彼が世界最高峰のイタリア・セリエAでプレーし続けて、みんなを引っ張ってくれたから、徐々に底上げできてきたんじゃないかと思います。

 東京五輪後、髙橋藍選手も後を追ってイタリアで3シーズンプレーしましたし、西田有志選手もイタリアに行きました。宮浦健人選手もポーランド、フランスでプレーしました。多くの選手が日本国内だけでなく、いろんな世界を見て、経験を積んで帰ってくることで、日本代表がさらに強くなった。その代表で活躍したり、国際大会で勝ちを重ねることでさらに自信がついて、というふうに本当にいい循環ができていると思います。強豪相手に勝つことが、まぐれではなく、もう必然に変わってきている。選手たちは、今までやってきたことは間違いじゃなかったという思いでプレーできているんじゃないかと思います。

 もう一つ、僕が代表にいる間に感じた転機は、2014年に南部正司さんが監督になってから、海外遠征が増えたことです。しかもそこで試合をするだけでなく、海外のチームと一緒に練習することで、いろいろなことがわかってきました。ここが通用するんだとか、ここはまだ足りないというのが、より明確になった。僕らが若手の頃はできなかったそういう経験が増えたことが、日本が変わり始めた一つのきっかけになったんじゃないかと感じます。

キーマンは同じポジションのあの2人

――パリ五輪で勝ち上がっていく上で、日本のキーマンになりそうな選手を挙げていただけますか。

清水 やはり石川キャプテンが、必ずキーマンになってくると思います。彼はイタリアリーグで長年プレーして、世界トップの選手たちにもまれながら、大一番の舞台でどう戦うべきか、どういう試合運びをするべきかというのを肌で感じてきている。プレーでも、言葉がけでも、チームをしっかりと導いてくれるので、彼が一番のキーマンになってくるんじゃないかと思いますね。

 それと、個人的にはやはり自分と同じポジションであるオポジットの宮浦選手、西田選手の2人には活躍してほしい。世界的に見ると、身長では日本のオポジットは一番低いんですけど、それでもこれだけ爆発力、決定力があるんだぞというのを見せてほしいなと思います。

――西田選手は、昨年のネーションズリーグでは苦しんでいましたが、今年のネーションズリーグでは非常に頼もしい活躍です。

清水 パリ五輪に向けて、コンディションをしっかり上げてきているなという印象がありますね。昨シーズン加入したパナソニックパンサーズ(今季から大阪ブルテオンに改称)で、彼はトレーニングを見直して、ボール練習の前にしっかりと体のバランスを整えるようなトレーニングメニューをこなしたりしていたので、空中バランスがすごく良くなりました。

 そうなると余裕ができるので、ブロックをしっかり見ることができるし、いろいろなコースにスパイクを打ち分けられる。全身の力を使えるのでより強力なスパイクも打てる。そういうトレーニングを経て、今の西田選手がいるんじゃないかなと思います。彼は若いので、トレーニングをした分だけ能力として身に付く。スピードも増しています。瞬発系の能力もピカイチで、日本代表でも一番ではないでしょうか。

――スピードとパワーに、年々うまさも加わっているのでは?

清水 本当にうまくなりました。彼は見て盗むタイプなんでしょうね。代表でも石川選手のテクニックなどを見ていると思うので、単に強打だけでなく、フェイントを上手く使うなど技の選択肢が増えて、1本ブロックされたら次は違うことをやって、連続で失敗しないということを心がけていますね。

 僕自身は、怪我をしたり歳を重ねるにつれて、ジャンプ力が落ちたり、パワーもだんだん若い選手に比べたら少なくなってきた中で、試行錯誤しながらいろいろなスパイクのバリエーションを増やしてきましたが、西田選手はそれを、ベテランになってからではなく、若いときからやれているからすごい。難しい体勢のときに無理して打たずに、相手のブロックを利用して簡単に決めるというシーンが、特にここ1年で増えたと思います。僕が若い頃だったら力任せに打ちにいっていたな、と思うような場面でも、西田選手はちゃんと我慢して、ベテランのような決め方をしている。本当にうまいです。

――宮浦選手の印象は?

清水 西田選手がスピードとパワーなら、宮浦選手は高さと、スパイクの精度がウリなんじゃないかと思います。トスは西田選手に比べたら少し遅いですが、その分、高さを活かせている。打てるスパイクのコース幅が広いですし、精度の高さもある。トスが多少短くなっても、ボールの下に早く入って、体をひねってライン(ストレート)のコースに打てたり、難しいコースにも打てる対応力もあります。

 キーマンといえば、アウトサイドヒッターの甲斐優斗選手も気になる存在です。彼はこれからどんどん化けていくと思う。一番いいお手本になる石川選手や髙橋藍選手が近くにいるので、彼らのプレーをしっかり盗んで、吸収していってくれると期待しています。やっぱり身長2メートルのアウトサイドヒッターというのはなかなか日本にはいないので、やっと出てきたという感じです。彼は器用さもあるし、サーブもいいし、肝が座っている。サーブはメンタルに左右される部分が大きいのですが、彼は劣勢の場面でリリーフサーバーとしてコートに入っても、強力なサーブを打てる。そういう選手はなかなかいません。もちろん今の代表にはそういう選手が何人も揃っているんですけど、彼もその一人で、本当に楽しみな選手ですね。

――甲斐選手も昨シーズン、約3カ月間フランスリーグのパリ・バレーで経験を積みました。何か変化を感じますか?

清水 もちろん、海外を経験して伸びている選手の一人ですね。一番は自信がついたんだと思います。海外の2メートルのブロッカーが2枚揃った中でも、練習や試合の中で打ち抜ける、決められる、という経験を重ねるにつれて、自信がついて、どんどん自分のプレーに磨きがかかっているんじゃないでしょうか。

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著者プロフィール

大阪府生まれ。大学卒業後、広告会社にコピーライターとして勤務したのち、フリーのライターに。野球、バレーボールを中心に取材を続ける。『Number』(文藝春秋)、『月刊バレーボール』(日本文化出版)、『プロ野球ai』(日刊スポーツ出版社)、『バボちゃんネット』などに執筆。著書に『ブラジルバレーを最強にした「人」と「システム」』(東邦出版)。

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