元バレー代表・山村宏太が指名するキーマン2人 パリのメダルのために決勝へ意識を

花田雪

元日本代表の山村宏太氏は今季までサントリーサンバーズ大阪を率いた 【© サントリーサンバーズ大阪】

52年ぶりのメダル獲得が期待されるバレーボール男子日本代表。その強さの秘密、キーマンを元日本代表で今季までサントリーサンバーズ大阪の監督を務めた「ヤマコフ205」こと山村宏太さんに聞いた。『バレーボール男子日本代表 応援BOOK 』(Gakken Mook)から抜粋して公開します。

世界の強豪相手でもプランを遂行できる日本

――昨年から今年にかけて、日本代表が好調をキープしています。山村さんから見ても、オリンピック本番に向けて、調整は順調に進んでいるといえそうでしょうか?(※取材はネーションズリーグ日本ラウンドが終了した6月10日に実施)

山村 ネーションズリーグに関して言うと、最初のブラジルラウンドは石川(祐希)君、(髙橋)藍君という二人を欠いた状態で3勝1敗。主力がいない状態でもしっかりと勝ちを稼げたのは大きかったと思います。次の福岡ラウンドではその二人がチームに合流し、ここでも3勝1敗。本来のメンバーが揃った中で、オリンピック本番に向けての調整や確認作業ができたはずです。

――福岡ラウンドで話題となったのが第3戦となったポーランドとの試合。選手を大幅に入れ替え、結果的には敗れましたが「温存」や「新戦力の確認」という表現もされました。

山村 フィリップ・ブラン監督の下した決断に賛否があったのは知っています。もちろん、チケットを買って試合を楽しみにしていたファンの方の気持ちもわかります。同時に、監督としてチームを強化していくこと、主力選手をどこで休ませるか、次世代やサブの選手の実力をオリンピック前に確認しなくてはいけないなど、「やらなければいけないこと」が多いこともすごくわかるんです。そういう意味ではブラン監督も難しい決断をしたな……という印象です。

――結果としてポーランド戦は0-3のストレート負けに終わりましたが、次のスロベニア戦ではしっかりと勝ち切りました。

山村 メンバーを大きく入れ替えたポーランド戦に関して言えば、ある程度想定していた結果だったと思います。やはり、今の日本であってもメンバーを大きく入れ替えればその強みを十分に発揮するのは難しい。相手は世界ランク1位ですから、なおさらです。ただ、スコアを見れば大敗ですが、試合に出た選手たちも自分たちに何が足りなかったのか、何がやれなかったのかを認識することができたはず。

――その意味では収穫もある試合だったともいえそうです。

山村 その上で、次の試合でしっかりと勝てたのも大きかったと思います。あそこで負けていたら、「なんのためにポーランド戦で主力を休ませたのか」と言われても仕方なかった。日本ラウンドの最終戦をきっちり勝って、6勝2敗という成績で次のラウンドへ進めたのは、ある意味で「プラン通り」だったはずです。

――世界の強豪を相手にしても、「プラン」を遂行できる力が今の日本にはあるといえるでしょうか?

山村 1試合単位だけでなく、大会を通じての戦術、戦略を実行するためには、当然ながら実力が必要です。以前の日本であれば、世界と戦うためには毎試合ベストのメンバーで臨むしか選択肢がなかった。本当に強いチームになってきたからこそ、ポーランド戦のようなプランも可能になっているんだと思います。

同じ時期に、これだけの選手が揃うことが「奇跡」

――日本の世界ランキングは現在3位(※取材時点)。メダル候補とも呼ばれています。日本がここまで強くなれた要因は?

山村 もちろん、理由はひとつではありません。ただ、確実に言えるのは今の日本には各ポジションに世界トップレベルの選手が揃っている。その一方で世界の強豪国は今、世代交代を推し進めている時期でもあります。そういうタイミングで日本がしっかりと勝ち切ることができている。それが自信にもつながって、良いサイクルが生まれているんだと思います。

――世界トップレベルの選手が各ポジションにいる現状は、やはり日本バレーボール界の育成や競技普及が上手くいっている証なのでしょうか。

山村 もちろん、日本のバレーボール界も人材育成を含めて努力は続けています。ただ、現時点の“日本の強さ”に関しては、このタイミングで、これだけの選手が揃ったことが「奇跡」だと感じています。

――日本代表の選手たちからも、ことあるごとに「メダル」という言葉が聞かれます。

山村 私が日本代表として北京大会に出場したときは、正直に言って「オリンピック出場」が目標でした。だからいざ、4大会ぶりにオリンピックに出られることになったとき、「メダルを狙います」とは簡単に言えなかったのも事実です。でも今の日本代表は前回の東京大会で予選を勝ち抜き、7位という結果を残し、そこからさらに世界で経験を積んでパリを迎えます。それが「メダル」という言葉につながっているんだと思います。口に出すだけでなく、しっかりとメダルへの道筋も見えているはずです。

今の代表を見ていると本当に「うらやましい」

――たとえばネーションズリーグの福岡ラウンド終了後にキャプテンの石川選手がXで「コイントス勝てません。すみません。笑」とポストしたことが話題になりました。日本代表として戦いながら、こういったジョークを発信できるのも、チームの雰囲気がすごく良い証拠なのかなと思うのですが?

山村 本当に雰囲気が良いですよね。選手全員が、心の底からバレーボールを楽しんでいる。たとえば以前の日本代表には日の丸を背負う以上、勝たなければいけないとか、最後まであきらめない姿勢を見せなければいけないとか、「背負い過ぎ」ていた部分も感じていたんです。もちろん、それが悪いわけではないんですけど、どこか張り詰めすぎている印象があったのも事実です。今の選手たちの発信を見ていても前向きなものが多いですし、それがバレーボールの魅力を多くの人に伝えられている理由でもあると思います。

――そういったチームをまとう空気感もまた、今の強さにつながっている?

山村 それはあると思います。今の代表を見ていると、本当に「うらやましいな」と思うんですよ(笑)。彼らを見ていると、スポーツの本質ってコレだよなと感じるんです。選手自身が楽しんで、それを見てくれる人も楽しんだり、感動したり、勇気をもらったりできる。すごく良いサイクルが生まれていると思います。その上で結果も残して、ワクワクさせるようなバレーを見せてくれる。私自身も「あと20歳若ければこの中で一緒にプレーしたい」と思ってしまいますね(笑)。そのくらい、魅力的なバレーをしています。

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