“連覇懸けた決闘”に敗れしエペ剣士たち 宇山賢が見たフェンシング史に残る大接戦

久下真以子

フェンシング男子エペ団体の金メダルに沸くハンガリーの選手たち。日本の四剣士たちも輪になり健闘を称え合った 【写真は共同】

 8月2日(日本時間8月3日)、パリ五輪のフェンシング男子エペ団体が行われ、日本は加納虹輝(JAL)、見延和靖(ネクサス)、山田優(山一商事)、古俣聖(本間組)の4人が出場。初戦でベネズエラ、準決勝でチェコを下して決勝に駒を進めると、同種目の連覇がかかった一戦では、ハンガリーに25‐26で敗れて準優勝に終わった。

 決勝は延長戦にまでもつれる大接戦となった。前回王者として“連覇を懸けたグラン・パレでの決闘”に臨んだ日本の四剣士たちだったが、強力な布陣をそろえるハンガリーの前にあと一歩及ばず。日本フェンシング界にとって初となる五輪連覇は逃したものの、すべてを出し尽くしたエペの剣士たちの表情は晴れやかであり、頂点を極めたハンガリーの選手たちを素直に称えていた。

 2021年の東京五輪フェンシング男子エペ団体で金メダルを獲得し、現在はフェンシングやスポーツの幅広い普及の活動を行う宇山賢さんの目には、かつての同志たちの姿がどのように映っていたのだろうか。世紀の一戦を振り返ってもらうと同時に、日本フェンシング界の今後の展望についても聞いた。

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あと一歩及ばずも、全く恥じることのない結果

一発勝負の延長戦でポイントを奪われた加納(左)。最後は剣のやり取り合戦で一歩遅れた 【写真は共同】

 決勝は本当に「みんなよくやった」の一言でしたね。銀メダルだからと恥じることは全くないですし、最後は一本勝負でついた決着なので、勝負の厳しさを感じさせられました。僕はこの試合を会場で見届けていたのですが、3年前に続いてもう一度決勝の舞台に立てるのはすごいことなので、非常に感慨深かったです。

 18‐20で迎えた最終ピリオドでは、2点ビハインドからしっかり追いついてみせました。不思議なことに、「この点差なら80%くらいの確率で延長戦に持ち込める」と僕は予測していました。おそらくですが、日本としては少しずつリードを重ねて勝ちたかった一方で、ハンガリーとしてはできるだけ日本のミスを誘って、一本勝負に持ち込めば分があると考えていたのではないかと見ています。ハンガリーはどんどん積極的に攻めるよりは、ディフェンスでどっしりと構えて最後の選手につなぐ展開でしたね。

 延長戦は一本取った時点で勝負が決まるので、じゃんけんの勝負くらいにどちらに転ぶか分からないものです。最後は剣のやり取り合戦で相手のゲルゲイ・シクローシ選手のほうが一瞬速かっただけなのですが、さすがは個人世界ランキング1位の加納選手と2位のシクローシ選手ならではの見応えある戦いでした。

 僕が注目していたのは、リザーブの古俣選手です。東京五輪の僕と同じリザーブ登録ながらも、初戦のベネズエラ戦から起用されました。五輪のフェンシングでは、リザーブを交代できるのは1回のみであり、出場後は交代メンバーに代わり試合に出続けることになります。古俣選手は初戦こそ少し迷いが見えたものの、試合を重ねるごとに成長し、決勝では得点源として重要な働きを見せてくれましたよね。リードされては追いつく接戦の展開に持ち込めたのも、彼の活躍が大きかったと思います。

 古俣選手と交代した見延選手は、ベテランらしい働きを見せていました。ベンチに下がった悔しさは絶対にあると思いますが、声を出し続けるなどメンバーを支えて鼓舞するのも団体戦における大切な要素です。見延選手はリオデジャネイロ、東京、パリと3大会連続で五輪に出場しており、チームの年長者でもあります。状況を踏まえて最善の振る舞いをするという彼のキャプテンシーが、チームを1つにまとめたのではないでしょうか。

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著者プロフィール

大阪府出身。フリーアナウンサー、スポーツライター。四国放送アナウンサー、NHK高知・札幌キャスターを経て、フリーへ。2011年に番組でパラスポーツを取材したことがきっかけで、パラの道を志すように。キャッチコピーは「日本一パラを語れるアナウンサー」。現在はパラスポーツのほか、野球やサッカーなどスポーツを中心に活動中。

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