“連覇懸けた決闘”に敗れしエペ剣士たち 宇山賢が見たフェンシング史に残る大接戦

久下真以子

拮抗したレベルの中で勝ち取った価値ある銀

メダルセレモニーで笑顔を見せる(左から)見延、加納、山田、古俣。決勝で敗れはしたものの、ベストは尽くした 【写真は共同】

 日本の男子エペ団体は、2連覇を期待されていたので良くも悪くもプレッシャーはあったでしょう。ただ、前回の五輪と今回の五輪は「全く違うスポーツイベントなんじゃないか」とも思えるくらい別物だと感じています。東京五輪は無観客開催でしたし、練習の制限もありました。また、コロナ禍という未曾有の事態もあり、五輪そのものを開催する意義をみんなで考える大会になりましたよね。

 打って変わってパリ五輪は100年ぶりに花の都での開催ということもあり、かなり盛り上がっています。街中が五輪の雰囲気で溢れていますし、飲み屋でも地元の人たちがテレビを見ながら自国の選手を応援している姿があります。でも、「これが本来の五輪の姿なんだよな」とあらためて感じますよね。古俣選手以外の3人は東京とパリの両方を経験しましたが、自分たちや審判の声もスタンドの応援に掻き消される空間での試合は、また違った経験になったと思います。

 今大会で日本が銀メダルを獲ったことは、現在の選手たちの実力を踏まえれば、他国から見ても何の驚きもないことでしょう。ただ実際の競技力に関して言えば、日本がずば抜けてレベルが高いというわけではありません。今大会の男子エペ団体に出場した国は全て、メダルを獲得できる拮抗したレベルにあります。だからこそ日本の選手たちも、いわゆる「ディフェンディングチャンピオンの座を死守する」という感覚ではなく、「連覇に挑むチャレンジャー」というマインドだったはずです。
 
 そんな中で僕がいたポジションに古俣選手のような若い人材が台頭してきて、さらには2大会連続でメダルを獲得できたという意味では、日本のフェンシング界の未来は明るいですよね。

「フェンシングは面白い」という輪を広げる取り組みを

フェンシングの面白さや魅力は日本の人たちにも十二分に伝わったことだろう。だからこそ今後、それをどう普及・定着させていくかが重要だ 【写真は共同】

 歴史的な建造物として話題になっている「グラン・パレ」での、しかも有観客での試合でメダルを獲得した選手たちを、素直にうらやましいなと思いました。僕は無観客でのメダルでしたからね。また開会式では、人種や性別、争いといったものから解き放たれて、世界中の選手たちが一堂に会して切磋琢磨するスポーツ本来の素晴らしさが胸に響きました。

 パリ五輪で戦った彼らには今後、パリでの経験や見てきた景色を、メディアや講演を通して日本の皆さんに伝えてほしいと切に願いますね。そのための場所の提供などは、普及する立場にいる僕がしっかりサポートしていきたいと思っています。

 選手たちの堂々たる戦いぶりや白熱した決勝のおかげで、SNSでも「フェンシングって面白い」「かっこいい」という投稿がたくさんあったのは本当に嬉しかったです。フェンシングを気軽に楽しむ人が増えてほしいと思っていますが、スポーツへの関わり方は人それぞれであっていいと思います。だからこそ、今大会を通して少しでもフェンシングに興味を持ってくれた方たちに、どう次の機会を提供することができるのか――。そうした次世代に向けての取り組みを真剣に考えていきたいです。

宇山賢(うやま・さとる)

【株式会社Es.relier】

中学の時に兄の影響でフェンシングに出会うと、高校2年時のインターハイで個人優勝を果たす。同志社大学に進学後は2~4年時にインカレ個人3連覇を達成。4年時には全日本選手権で個人優勝を果たした。大学3年時より日本代表選手として活動し始め、ワールドカップやアジア大会など多くの国際大会を経験。2021年に行われた東京五輪では男子エペ団体で金メダルを獲得した。同年に現役を退き、その翌年に株式会社Es.relierを設立。現在は、フェンシングやスポーツの幅広い普及のための活動を幅広く行っている。

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著者プロフィール

大阪府出身。フリーアナウンサー、スポーツライター。四国放送アナウンサー、NHK高知・札幌キャスターを経て、フリーへ。2011年に番組でパラスポーツを取材したことがきっかけで、パラの道を志すように。キャッチコピーは「日本一パラを語れるアナウンサー」。現在はパラスポーツのほか、野球やサッカーなどスポーツを中心に活動中。

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