バドミントン新ペアの福島/松本「フクヒロ、ナガマツでは届かなかったところ」目指す挑戦開始

平野貴也

福島由紀(右)と松本麻佑、新たなペアでの挑戦がスタートした 【平野貴也】

 大きな子どもが、コートではしゃいでいるかのようだった。従来のペアを解消し、組み替えたばかりで負けられない立場ではなくなった解放感。今までとは異なるパートナーの特長に対する新鮮さ。その中で、今までにはなかったプレーを自身が繰り出す楽しさ。もう一度、世界を相手に挑戦できる喜び。ラリーを一つ終える毎に、互いの顔を見て笑う表情には、そんな思いが表れていた。

 バドミントン女子ダブルスで新たにペアを組んだ福島由紀(岐阜Bluvic)/松本麻佑(ほねごり)は、デビュー戦となった熊本マスターズジャパンで、いきなり準優勝の活躍を見せ、大きな可能性を感じさせた。初戦を勝った後、松本は「フクヒロ、ナガマツでは届かなかったところまで、2人で4人分、目指せればと思います」と大きな目標を掲げた。ともに五輪に出場してベスト8まで進んだペア。世界選手権の決勝戦で2度対戦したペアでもある。2組が届かなかったところは、五輪の表彰台だ。

初戦敗退の可能性も否めなかったが……

 2人は、パリ五輪の後にペアを結成した。福島は、廣田彩花(岐阜Bluvic)との「フクヒロ」、松本は、永原和可那(北都銀行)との「ナガマツ」で長く日本代表として活躍してきたが、ともに9月にペアを解消。同月、熊本マスターズジャパンから福島と松本がペアを組んで戦っていくことが発表された。

 しかし、大会開幕の2日前には、国内のS/Jリーグ秋田大会で行われた岐阜Bluvicと北都銀行の試合の第1ダブルスで対戦。当然、試合前は互いに所属チームで練習していたため、2人で連係を確かめる時間はなかった。移動による疲労を考えれば、ホーム開催の有利も揺らぐ。10月に数日練習をした程度の準備では、いくら個々の力があっても、世界の強豪に挑むのに十分なわけがない。

 初戦の相手は、パリ五輪4位のタン・パーリー/ティナ・ムラリタラン(マレーシア)。福島は、出身地である熊本での試合だったが「1回戦から強すぎる相手。正直、弱気だったので、知り合いには、一番大事な試合だから、初戦を見に来てほしいと言っていた」と明かした。

いきなり、パリ五輪4位に勝利

 しかし、その初戦で、驚異的なポテンシャルを発揮した。第1ゲームは、初戦でコートの感覚になれない相手を9点に抑えて先取したが、第2ゲームを奪われ、ファイナルゲームは追いかける展開。しかし、15-19と追い込まれても、福島は「正直、半分、諦めかけたけど……、なんか(以前にナガマツと対戦したときのことが頭を)よぎった、じゃないけど、ああいう場面で松本選手は強いイメージがある。追いついたら面白いなと思いながら、1点1点と思ってやっていた」と、ポジティブなイメージを保っていた。

 世界選手権の決勝で2度対戦した2人は、チャンピオンシップポイントの奪い合いを経験している。互いの粘り強さを信頼するには十分な経験があった。ともに追い込まれても前向きな姿勢を崩さず、即席ペアに負けたくない相手にプレッシャーを与えると、女子の世界最速スマッシュのギネス記録保持者であるタンがミスを連発。福島/松本が5連続得点で逆転した。20オールで追いつかれたが、23-21で振り切って粘り勝ち。最後にネット前からプッシュを決めた福島は「あんなにキャッキャと喜んだのは、初めてじゃないかと思います」と笑顔を見せ、大きな可能性を感じた試合の手ごたえを語った。

以前とは逆パターン、松本が前衛に意欲

長身の松本がネット前に立ちはだかり、相手の打球を捕まえた 【平野貴也】

 福島と松本は、過去に日本代表の団体戦でペアを組んだことがある。初めて組んだ2021年の女子国別対抗戦のユーバー杯では、後にパリ五輪の金メダルを獲得する中国のエース、陳清晨/賈一凡(チェン・チンチェン/ジァ・イーファン)を相手にファイナルゲーム18-21と健闘した。福島、松本はともに後衛でプレーしていたが、このときは、福島がネット前へ出て前衛の役割を務めた。しかし、福島は、正式にペアを組んでからは、どちらが前に出る形もできるようにしたいと話していた。福島が31歳、松本が29歳。ともにベテランと言われる領域に入り、戦い方の引き出しの多いペアになる必要性を感じ取っている部分もあるという。

 今大会では、2回戦で松本が前後の動きに迷いが生じたことを明かしたが、3回戦からは松本が前に出る形を明確に増やした。準々決勝を勝った後、松本は「私が前で福島さんが後ろというパターンを作りたいなと思っていた。コーチも含めて話した。自分も(永原とのペアで)後衛の方が長かったので(前に)行くところ、行かないところの判断が難しいところもあって、試合を重ねていくうちにちょっとずつ良くなっているのかなとは思うので、もう少しこの形を固めていければと思う」と新たなプレーへの挑戦に意欲を見せていた。

 世界ランク8位の中国の若手ペア、李怡婧/羅徐敏(リ・イージン/ルオ・シューミン)を破った準決勝でも、身長177センチの松本が、ネット前で相手の打球を捕まえる場面が多かった。ネット前にいる松本が腕を伸ばす高さ、長さをかわそうとする相手の球が甘くなると、福島が強弱をつけた球でさらに追い込み、逃げ切れなくなった相手の球を松本がたたき落とした。福島は「私が(後衛から打つ球で)しっかりとコースを突ければ(長身の)松本が前にいるだけでも(低い返球はできないという)威圧感、プレッシャーが相手には絶対にある。そこで相手が迷う場面もあると思う。この形もいいなと思うし、松本が後ろから打つ逆のパターンでも、私が前で捕まえられるように、もっと頑張りたいとも感じた」と一つの得点パターンの確立に手ごたえを示した。ただ、決勝戦ではパリ五輪銀メダルの劉聖書/譚寧(リュウ・シュアンシュ/タン・ニン=中国)に完敗。第2ゲームは5点しか奪えず、さすがに世界のトップに並ぶのはまだ早いと現実をたたきつけられた。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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