男子400個メ銀・松下知之のスパートの秘訣 競泳日本10代の躍動を星奈津美が解説

C-NAPS編集部

競泳の男子400個人メドレーで銀メダルを獲得し、拳を高く突き上げる松下(右) 【写真は共同】

 7月28日(日本時間29日)、パリ五輪の競泳2日目の日程が行われた。日本勢2人が決勝に勝ち残った男子400メートル個人メドレーでは、五輪初出場となる18歳・松下知之(東洋大)が銀メダルを獲得、瀬戸大也(CHARIS)は7位だった。リオデジャネイロ五輪で同種目の金メダルに輝いた萩野公介氏に憧れた松下。自身も手にしたパリの夢舞台では、萩野の盟友である瀬戸の隣のレーンで競泳日本に勢いをもたらす大仕事をやってのけた。

 同日に行われた女子バタフライ100メートル決勝には、17歳の平井瑞希(アリーナつきみ野SC)が出場。スタート直後に蹴伸びの姿勢がうまく組めずに失速する不運に見舞われたこともあり、7位でレースを終えた。レース後に悔し涙を見せながら「世界記録を目指したい」と言い切る姿には、明るい未来を感じさせた。

 日本のティーンエイジャーたちの躍動が印象的だった競泳2日目。そんな今大会のさらなる躍進を期待させた試合を、北京大会から3大会連続で五輪出場を果たし、ロンドン、リオデジャネイロの女子バタフライ200メートルで2大会での銅メダルを獲得した星奈津美さんに振り返ってもらった。

松下の脅威の追い上げを生んだ序盤の体力温存

金メダルのマルシャン(中央)に次ぐ、2位争いが焦点だった男子400メートル個人メドレー。松下(左)が見事にその座を射止めた 【写真は共同】

 男子400メートル個人メドレーは、金メダル最有翼だったレオン・マルシャン選手(フランス)が頭1つ飛びぬけていました。実際のレースでも4:02.95とオリンピックレコードを記録して、地元の大観衆の目の前での圧勝劇を見せましたね。マルシャン選手は別格だったものの、2位以下は混戦が予想されていたので、瀬戸選手にも松下選手にもメダルの可能性は十分にあるなと思っていました。

 実際に松下選手が驚異の追い上げで混線を抜け出して銀メダルを獲得したことは、もちろん快挙ですが、驚くべきことではありません。初めて観る方は、今回の決勝のレース展開を驚いたと思います。前半であれだけ差がついてしまったら、追いつけるとはなかなか思えませんよね。しかし、松下選手は3月に行われた代表選手選考会でも、後半の追い上げから瀬戸選手を追い抜いてパリ行きの切符を獲得しました。ラストスパートをかけるレース展開が松下選手の特徴であり、大舞台で自分の持ち味を発揮してくれましたね。

 レース終盤まで他の選手の後続に位置していましたが、泳ぎは安定していました。初の大舞台なのに私からは非常に落ち着いているように見えましたし、「これはかなり体力を温存できているな」と思ったくらいです。得意の自由形でスパートをかけて、終盤に逆転する理想の展開に持ち込めたのだと思います。

支えてくれる人たちの存在があってこその快挙

レース後に殊勲の松下(右)を称える瀬戸。頼もしい先輩が隣で泳いでいたことも、間違いなく銀メダル獲得の要因となった 【写真は共同】

 松下選手がレース後のインタビューで「しんどい練習を耐えてきたので、決勝のレースは“ご褒美”みたいなものです」と語っていたのは印象的でしたね。初めての五輪の決勝の舞台を“ご褒美”と表現できるなんて、器の大きさと良好なメンタルを感じさせました。松下選手はレース前の表情もとても良かったですし、泳ぐことを心から楽しんでいるように思えました。

 そうした自信に満ち溢れているのは、普段の練習が充実していたからに他なりません。同郷・栃木県のスターで、憧れの萩野さんを追いかけて東洋大学に進学し、私も含めて多くのメダリストを輩出した平井伯昌コーチのもとでハードな練習を積んできました。また、代表でもスペイン・グラナダでの高地合宿を経験するなど、本当に追い込んだ練習をしてきたと思います。

 後は隣のレーンで泳いでいた瀬戸選手の存在も大きいですね。五輪の決勝のような大舞台は、日本人選手と一緒に戦えるかどうかで心強さが違います。私もロンドン五輪の際は、女子バタフライの代表は1人だけだったので、緊張の舞台を1人で切り抜ける必要がありました。なので、松下選手は、大先輩が隣にいて本当に良かったと思います。後は代表でも一緒の平井コーチ、テレビ解説で現地入りしていた憧れの萩野さんを含めて、周囲に支えてくれる人がたくさんいたことも、松下選手が本領を発揮できた要因ですね。

 惜しくも7位だった瀬戸選手に関しては、レース後の晴れやかな表情が男子200メートル個人メドレーへの期待感を抱かせました。序盤の2位から最終的に失速しましたけど、前半から攻めていた姿勢が素晴らしかったです。短距離になる200メートル個人メドレーのほうが、スピード勝負ができますし、その手ごたえをつかんでいたように思います。瀬戸選手の次のレースにも期待したいですね。

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著者プロフィール

ビジネスとユーザーを有意的な形で結びつける、“コンテキスト思考”のコンテンツマーケティングを提供するプロフェッショナル集団。“コンテンツ傾倒”によって情報が氾濫し、差別化不全が顕在化している昨今において、コンテンツの背景にあるストーリーやメッセージ、コンセプトを重視。前後関係や文脈を意味するコンテキストを意識したコンテンツの提供に本質的な価値を見いだしている。

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